次代を担う期待の星ネゼ=セガン
先日、MET(メトロポリタンオペラ)ライブビューイングのヴェルディ「椿姫」を見に行きました。
METは2018年末から正式に指揮者のヤニック・ネゼ=セガンを音楽監督として迎えたそうですね!
これは喜ばしいことです。ようやくMETにも新しい風が吹き始めるのかな…と期待してしまいます。
40年もの間ジェームス・レヴァインがその位置を守ってきましたが、裏を返せば彼に代わる有力な対抗馬がいなかったということなのかもしれません。
今回の就任劇はネゼ=セガンの豊かな音楽性や並み並みならぬ才能はもちろんのこと、誰からも愛される人柄が受け入れられたのは間違いないでしょう…。
インタビューの様子を見ても、誠実な人柄が伝わってくるし、気さくで飾らない雰囲気がいいですね!
オペラの名演を続々とリリース!
とにかくネゼ=セガンは、最近気になって仕方ない指揮者だったのでした。実はこの日の公演を見に行ったのも、彼の音楽が聴きたいというのがもっぱらの理由だったからです……。
彼が録音したモーツァルトの「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コシ・ファン・トウッテ」「後宮からの誘拐」はどれもこれも生気にあふれ、本質をしっかりとらえた名演奏ばかりです。
正直なところ、現在これだけのモーツァルトを披露してくれる人はいないのではないでしょうか……。
特に「ドン・ジョヴァンニ」「フィガロの結婚」などは過去の名演奏と比べてもまったく引けをとりませんし、何より音楽と演技、ストーリーが一体となって押し寄せる感動の渦に圧倒されるばかりなのです!
すべてに最高だった「椿姫」公演
オペラは出演キャストが多いため、すべてにおいて満足したという公演は意外に少ないものです。
「歌手たちは皆素晴らしかったけれど指揮が平凡だった」とか、「音楽は感動的だったけれど演出が劇にそぐわない」「あの配役はイマイチだった…」等々、いろいろな不満が出てくるものです。
でもこの日の「椿姫」は最高でした!
何がいいかというと歌、指揮、舞台演出……。もうすべてが最高というしかないのです。
全編にわたって見どころ、聴きどころがいっぱいでしたが、キャスティングで特に素晴らしかったのがヴィオレッタを演じたダムラウでしょう!
ダムラウは安定感のある声と少々憂いを帯びた声質がまさにビオレッタにピッタリで、本人もこの役柄には特別な想い入れがあるようです。
ヴェルディの名作にふさわしい公演
椿姫はヴェルディが自身の絶頂期に作曲した、親しみやすいメロディとストーリーが魅力の作品です。
アルフレードとパリ郊外で愛に満ちた生活を送るヴィオレッタでしたが、幸せな日々は長くは続きません。アルフレードの父ジェルモンが現れて、「彼の妹が結婚するから身を引いてほしい」とヴィオレッタに強く迫るのでした。高級娼婦のヴィオレッタは、享楽を追い求める生活がたたり肺病を患っていました。彼女に憧れる地方出身のブルジョワ青年アルフレードは、ヴィオレッタに「一緒に暮らしてほしい」と打ち明けます。
アルフレードとパリ郊外で愛に満ちた生活を送るヴィオレッタでしたが、幸せな日々は長くは続きません。アルフレードの父ジェルモンが現れて、「彼の妹が結婚するから身を引いてほしい」とヴィオレッタに強く迫るのでした。
特にジェルモンが「身を引いてくれ」と迫り、ビオレッタが動揺で心が震える場面は劇の真価を問う大切な場面で、緊迫感漲るやりとりが深く心に突き刺さりますね。
この第二幕での人間感情の洞察やドラマティックな表現は「さすがにヴェルディ!」と思わせるに充分なものがあります。
今回の公演はこの第二幕が本当に凄かったです! ダムラウ、ケルシー、そしてフローレスが絡む入魂の歌と迫真の演技には思わず引き込まれてしまいました。
ネゼ・セガンの指揮も随所にメリハリの効いた音楽を奏でていて、一層劇を引き立ててくれてました! オープニングや終幕は美しく翳りのある音色で酔わせてくれるなど、ネゼ・セガンの才能はとどまるところを知りません。
第三幕の冒頭、勢い余ったのかタクトが飛んでしまうというハプニングが起きたのですが、人柄なのでしょうね……まわりを温かな笑いで包み込んでしまうところが何ともご愛敬です…。
今回の公演、しっとりとした味わいが印象的な第三幕、歌の競演が楽しくて心弾む第一幕、華美にならず美しい余韻を残す舞台演出……と、とにかく素晴らしいところをあげたらキリがないくらいです。これは「椿姫」の公演の歴史においても、後々まで語り継がれる奇跡の舞台と言っていいのかもしれません。