寄せる波しぶき、浮かぶ情景・メンデルスゾーン「フィンガルの洞窟序曲」

スコットランドの自然保護区としても有名な無人島のヘブリディーズ諸島。
この一角に多くの芸術家が霊感を受けたといわれるフィンガルの洞窟があります。

見事なまでに柱状に浸食された玄武岩の荘厳な出で立ちや洞窟内にこだまする不気味な響き…。

それらは多くのアーティストたちに強烈なインパクトを与え、今なお多くの人々に強いメッセージを送り続けています。

ロマン派の作曲家メンデルスゾーンもこの「フィンガルの洞窟」に魅せられた一人でした。彼はスコットランド訪問時に管弦楽作品として『フィンガルの洞窟序曲』を残しています。

目次

音楽による秀逸なエッセイ

柱状に浸食された玄武岩やアーチ状に湾曲した天井、洞内にこだまする独特の響きはまるで天然の大聖堂のよう!

メンデルスゾーンは作曲家としてだけでなく、水彩画やスケッチを描いても相当な力量の持ち主でした。
ですから、彼は情景描写を題材とした辺りの雰囲気を詳細に伝える音楽とめっぽう相性が良かったのでしょう。
中でも『フィンガルの洞窟序曲』は、彼の音楽性がとことん発揮された傑作です。
メンデルスゾーンはこの洞窟の神秘的な出で立ちや様子を見て、痛く感動したようで、創作の大きなヒントとなったのです。
「フィンガル」は音のスケッチといっていいかもしれません。即興的で、豊かな楽想に満ちあふれ、変わりやすいスコットランドの風景のように刻一刻と表情を変えつつ、音楽が流れていくのです。
メンデルスゾーンによるスコットランド・ハイランド地方の滝のスケッチ(1829年)
わずか9分ほどの作品ですが、一度聴くとその音楽のもつ何ともいえない独特の魅力に惹きつけられることでしょう。
実際、この作品が発表された後、その作品の発想の源を探るべく、多くの芸術家、文化人が当地を訪れたといいます。

情景が眼前に浮かぶ!

フィンガルの洞窟全景
ほの暗い主題の導入部が始まると、独特の情緒と繊細緻密な表現で次々と海に浮かぶ洞窟の辺りの情景を描き出していきます。
岩肌に砕ける波しぶきや、磯の香り、飛び交う鳥の鳴き声の様子等が巧みな音色のバランスによって引き出され、絶妙な味わいを醸し出していくのです。
曲はさらに進行し、静かななぎによる一時の静寂や休むことなく岩肌を洗う波をドラマティックに表していきます。
そしてコーダ(終結部)ではまた最初のほの暗い主題に戻っていくのです。楽器が奏でる音の響きは驚くほど雄弁で、まるでその場に立っているかのような不思議な感覚にとらわれるのです。
ワーグナーはメンデルスゾーンの作品に対してことごとく否定的だったのですが、唯一この作品だけは絶賛しています。
彼の言葉を借りると「一流の音の風景画」なのだそうです。
このことからも、「フィンガル序曲」は好き嫌いを超えた普遍的な芸術性が息づいているということがご理解いただけるでしょう!

聴きどころ

ある日の静かな海のたたずまいの中に、突如異様な出で立ちを表すフィンガルの洞窟。

メンデルスゾーンの驚きと感動が直接伝わってくるような冒頭の神秘的な主題……。調を少しずつ変えながら繊細な楽器の響きに辺りの情景がスーッと現れるかのようだ。

オススメ演奏

オットー・クレンペラー指揮フィルハーモ二ア管弦楽団

既に60年も前に録音されたステレオの名演奏です。

クレンペラーには交響曲第3番『スコットランド』の別格的な名演奏があるように、メンデルスゾーンを得意としていました。

この演奏も彼の豊かな感性があらゆる部分でプラスに作用しています。

特に弦楽器の波や水の流れを表す実に繊細な響き! あらゆるパートに神経が行き届いているのが分かります。

後半の岩肌に叩きつける波しぶきや激流はスケール雄大だし、音色の深い響きにも魅了されます。

なお、このCDは10枚組になっていて、クレンペラーのロマン派作品の名演奏に触れられます。ちなみに「フィンガル」は2枚目のCDの5曲目です。

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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