笑みがこぼれる晴れやかなミサ曲・ハイドン「聖チェチーリアミサ曲」

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型にはまらないミサ曲

ハイドンは生涯ミサ曲をはじめとする宗教曲をたくさん作りましたが、どれも型にはまらない独自の個性が光る名曲揃いです。
「聖チェチーリアミサ」は同じハイドンのネルソンミサやテレジアミサのような有名曲に比べれば認知度で譲るかもしれません。しかし、とびきりの名曲であることに変わりありませんよね。
ミサ曲といえば、一般的にカトリックの典礼に沿った神聖な音楽であるべきという認識が強いようです。
しかし純粋に音楽の本質を求めようとする作曲家ならば、ミサ曲としての最低限の基本条件さえ満たせば、自由な形式・構成で創作をしていることがわかりますね!
なぜなら精神性や純粋な音楽作品として捉えるなら、宗教的な雰囲気や体裁は二の次といってもいいのですから……。
ミサの体裁にがんじがらめになって、つまらない作品を作ってもまったく意味がありませんからね……。

笑みを絶やさない音楽

ミサ曲といえば、すぐに思い出されるのがベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」、バッハの「ロ短調ミサ」ですが、ハイドンの諸々のミサはそれらに充分に匹敵する個性と内容を備えた作品群といえるでしょう!
ハイドンの作品に共通するしっかりとしたリズムや調性に裏づけられた音楽は、ちょっとやそっとでは微動だにしない芸術を生み出すのに大いに役立っていたのでした。
音楽の土台というか、構造が極めて充実しているため、まるで精巧で骨太な建築物を鑑賞しているような趣きさえあるのです。
つまり職人気質と芸術家魂を高いレベルで兼ね備えていた稀有な大作曲家だったともいえるでしょう。
「聖チェチーリアミサ」に聴かれる屈託の無いメロディ! 屈強ながらも笑みを絶やさず、心に寄り添うような優しい響きがなんともひきつけられますね。
それだけでなく、ここぞという時の生命力あふれるフーガや輝かしい主題の展開は聴く人の心を釘付けにしてしまいます。
聖チェチーリアミサはこのようなハイドンのミサの魅力をそのまま凝縮したような傑作といえるでしょう。
特にグロリアは演奏時間の約半分も占める傑作で、核心部分ですね。
特に印象に強く刻まれるのが、ドミネ・デウス(主なる神よ)です。
アルト、テノール、バスが順を追って歌い、最後は輪唱と重唱で歌い交わす魅力に富んだ一篇です。声の織りなす美しいハーモニーが心の陰影を生き生きと表現するのです!
またグロリアの終曲クム・サンクト・スピリトゥ(われ聖霊とともに)も素晴らしい!
永遠への想いがフーガとなって躍動します。しかし、そのような中にも憂いの心や慈しみの想いが漂っていて、決して単調に流れることはありません。

聴きどころ

Kirie/Christe Eleison

テノールと合唱のナンバー。重々しくならない素直な悲しみと慈悲の心を歌う。

Kirie/Kyrie Eleison

Kyrie eleison(主よあわれみたまえ)。

合唱によるフーガ。このナンバーも重くならず、悲しみというより、慰さめと希望が垣間見れる。

Gloria/Gloria In Excelsis Deo

Gloria In Excelsis Deo(天のいと高きところに神の栄光あれ)。

トランペットをはじめとする祝祭的な雰囲気と躍動感あふれるリズムが弾むような心を表し、賛美の想いを募らせる。

Gloria/Domine Deus

このミサ曲最大の聴きどころのひとつ。

アルト、テノール、バスが順を追って歌い、最後は輪唱と重唱で歌い交わす魅力に富んだ一篇。声が織りなす器楽的な美しい効果や陰影が存分に表現される。

Gloria/In gloria Dei Patris

グロリア終曲の合唱。

空を駆け巡るような自由で希望にあふれるフーガが印象的。各声部で上下降する音型が実に効果的!

Credo/Et resurrexit

躍動感、推進力にあふれたテノールと合唱曲のナンバー。ここでも変化に富んだ主題が心地よく、最後は輝かしいアーメン・フーガとなっていく。

Credo/Dona Nobis Pacem

アニュス・デイの最後、この作品の最後のナンバー。

永遠への想いが立体的で拡がりのあるフーガとなって全曲を閉める。

 

オススメ演奏

サイモン・プレストン指揮エンシェント室内管弦楽団、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊、ジュディス・ネルソン、デビッド・トーマス他

1978年に録音された演奏ですが、デジタル録音黎明期の音はなかなかのものです。
これは、オリジナル楽器のメリットが最大限に生かされた演奏ですね。全編が透明感に満ち満ちていて、晴朗な響きが素直に心に飛び込んできます。
クドさがまったくなく、乾いた土に水が染み込むような温もりのある響きがなんとも言えません。
オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊の合唱もこの作品にぴったりで、無垢な声の響きが最高です。
また、ドミネ・デウスのアルト、テノール、バスによるケレン味のない声の饗宴はきっと至福の時を約束してくれることでしょう!
「ハイドンはどうも苦手だな……」と敬遠されている方もこの録音を聴けば、きっとハイドンを聴く喜びで満たされるに違いありません。
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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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