早熟の天才
セルゲイ・プロコフィエフ(1918年9月27日)
(Photo by Heritage Images via Getty Images)
日本では「キージェ中尉」、「ピーターと狼」、バレエ音楽「ロミオとジュリエット」などの作品が有名なセルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)。時としてモーツァルトの再来とも言われる彼は、幼少時から驚くべき才能を発揮したようですね。
9歳で交響曲の作曲に取り組み、12歳で2つのオペラを完成したという才能は際立っていました。極めつけは13歳でサンクトペテルブルク音楽院に入学を許可されたことでしょうか……。
そんなプロコフィエフが生涯、ライフワークとして作り続けたのがピアノソナタです。
彼は作曲家であると同時に、当代きっての名ピアニストでもありました。モーツァルト同様、プロコフィエフにとって想いをすべてを吐き出せるピアノの作品は、彼の素直な心情が凝縮されているといってもいいでしょう。
ピアノソナタ第3番イ短調「古い手帳から」は、通常3〜4楽章で構成されることが多いピアノソナタですが、この曲は単一楽章で完結しています。
しかし、その中に急速な部分・静寂に満ちた部分・劇的な盛り上がりなど多彩な要素がぎっしりと凝縮されていて、たった1楽章で完結するユニークな構成にこの作品の魅力が充満しています。
それはまるで短編映画を視聴するかのようなドラマティックな展開といえるでしょう。
才気が爆発!
プロコフィエフのピアノソナタ第3番は、彼の初期の作品(1907年のスケッチを改めて書き直したもの)でありながら、すでに独自の個性と魅力が詰まった傑作です。
彼は、当時のクラシック音楽の伝統にはとらわれず、斬新で新鮮な響きを作り出したのでした。このソナタでも、不協和音を大胆に使った力強い響きや、跳ねるような独特のリズムが忘れらません!
その音楽は力強さと詩的な美しさが共存しているのが特徴といえるでしょう。冒頭の狂おしいほどの焦燥感! 続く暗い情念を振りほどくように緩やかに回想される夢のひととき……。
激しくエネルギッシュなリズムによる主題が展開される一方で、中間部では幻想的で美しい旋律も現れます。そのコントラストはとても魅力的ですよね。
このピアノソナタには、最初から最後まで作品を強く推進する感性のひらめきと驚くべきエネルギーがあります。
テクニック的には難所もたくさんありますが、演奏効果が極めて高いのも間違いありません。多くのピアニストがこの曲をリサイタルのラインナップに入れたくなるのも分かるような気がしますね……。
オススメ演奏
宮沢明子(P)
私が常々想っていることがあります。それは、「クラシック演奏は理屈ではなく、作品そのものに深く共感し、作曲家が伝えたいメッセージを演奏で最大限代弁すること」。これです。
それに最もふさわしい演奏が宮沢明子の録音ですね。冒頭からの壮絶な音の響き、深い呼吸、ひとときも緊張感が切れることのない生きたパッセージなど、切迫した感情を豊かに表現した真実のパッションに圧倒されます。
ややもするとテクニックに流されやすいこの作品……。宮沢明子は音の羅列や指の回転運動に陥ることはまったくありません。揺れ動く心、焦燥感、夢の回想をくっきりと描き分け、ものの見事に音化し尽くしているのです。
彼女はリサイタルでもこの曲をよく演奏していたようですが、おそらく相性が抜群だったのでしょうね!
マッティ・レカッリオ(P)
プロコフィエフピアノソナタ全曲録音の中の1曲。
レカッリオのピアノは音の粒立ちが良く、曲が展開するごとに刻一刻と表情が変化し、音楽の多様性を強烈に伝えてくれます。
一音一音に深い余韻や感性が息づいているのも魅力ですね。