

Edgar DegasBalletvers 1876-1877pastel sur monotypeH. 58,4 ; L. 42,0 cm.Legs Gustave Caillebotte, 1896© Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt
一瞬の動きを見事に捉える

(1879/80、シカゴ美術館)
Degas∶Three Studies of a Dancer in Fourth Position
Pastel and charcoal on paper. Size 49 x 63cm
The Art Institute of Chicago
ドガほど色彩やタッチに洗練された品格を感じさせる画家はいないでしょう。
彼はドミニク・アングル(1780-1867)に師事していた時期もあって、師匠同様に卓越したデッサン力の持ち主でした。ドガといえば、バレリーナと競馬場の絵が有名ですが、真っ先に挙げられるのはバレリーナのほうでしょう。中でもバレリーナの絵の最高傑作とも言われるのが、「踊りの花形」です。
とにかく有名な絵ですよね。皆さんも美術の教科書やチラシ、ポストカードなどで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか……。
この絵の素晴らしさは、バレリーナの特徴的な動きをカメラのシャッターチャンスのように捉えていて、それが絵全体に躍動感が漲っていることです!

Edgar DegasDanseuse, circa 1880Charcoal and pastel on paper
構図の素晴らしさ

バレリーナの軸足は構図の起点となり、絵に拡がりを与える
名画は構図が優れているというのが定説になっていますが、この絵も例にもれず圧巻の素晴らしさです!
しかも上から俯瞰のように見下ろしたバレリーナのポーズは、絵として表現するのが難しいにもかかわらず、しっかりと空間と奥行きを表現しているし、動きも捉えていますよね。
特に主役のバレリーナの軸足は、構図の重要な起点となっています。足のつま先立ちから手の動き、流れるように後方へと視点が移動する技法は見事としか言いようがありません。ドガの並々ならぬデッサン力と観察眼の鋭さを感じます。
光を意識した色彩やスピーディなタッチも冴えに冴えており、華麗でリズミカルな動きも生み出しているのです。
舞台の光と影
絵の特徴として、どうしても指摘しなければならないのが、どことなく哀愁の影を漂わせているところです。
今でこそバレリーナは舞台の華とも言われ、舞踊芸術のメインステージに位置していますが、ドガが絵筆を振るっていた頃は生活苦に喘ぐ女性が多かったようですね。
左端の幕の隙間から黒いタキシードの足元が見えるのが、おそらく彼女のパトロンなのでしょう。経済的な援助を受ける引き換えに、情婦としての私生活を余儀なくされているのかもしれません。
パトロンの右後方に踊り子たちの足先が見えますが、彼女たちも同じような境遇だったのでしょう……。色彩もタッチも洗練されていますが、華やかな舞台の陰からはうっすらと寂寥感が伝わってきます……。
そのような背景があったことを想うと、主役のバレリーナの表情はとても悲哀に満ちたものに見えてくるから不思議ですよね。
改めて歴史の一コマを刻んだ絵として貴重なのかもしれません。