クラシック音楽は何から聴くべきか?
「クラシック音楽は何から聴いたらいいのか?」という声をよく耳にします。
どうも…クラシック音楽は難しく、理屈っぽいというのが一般的なイメージのようですね。
確かにそれもわかるような気がします。手当たり次第に何でも聴けばいいというジャンルではないのがクラシックですから……。
そのクラシック音楽の中でも初心者にも口当たり(耳当たり?)が良く、メロディも口ずさめるとしたら……、ヨハンシュトラウスのウインナーワルツが代表的でしょうし、チャイコフスキーの「白鳥の湖」、「くるみ割り人形」、「眠れる森の美女」などのバレエ音楽もそうでしょう!
特にチィコフスキーのバレエ音楽は華もあるし、オーケストラ用に厳選された組曲もありますから、その美しいメロディに魅せられながらクラシック音楽にグッと近づくいいきっかけになるかもしれません。
交響曲を最初に聴くならコレ!
ただし、小曲ならいいのだけれども、交響曲や協奏曲あたりになると途端にお手上げという方も少なくありません。
でも交響曲にも入りやすい作品がありますよ♪ それがチャイコフスキーの交響曲第5番です。
チャイコフスキーは全部で6曲の交響曲を作りましたが、有名なのは4番からの3曲です。
そしてその中で、最も深刻で内容が深いのが最後の第6番「悲愴」ですが、最もポピュラーでメロディも美しく親しみやすいのが第5番なのです!
メロディーの宝庫でありながら、郷愁を誘う雰囲気満点のこの交響曲は初心者に最も馴染みやすい作品と断言してもいいでしょう! そしてこの作品はバレエ音楽の巨匠チャイコフスキーの粋なセンスが生きているのも魅力のひとつなのです。
交響曲の初心者向けのファーストチョイスとしては、ドヴォルザークの新世界交響曲と並んで圧倒的におすすめです!
郷愁をそそるメロディ
この交響曲の第1楽章は、まずクラリネットの寂しい響きが意味深に奏でられます。そして、冬の荒野をトボトボと歩くような物悲しいテーマが続くのです。
「なんて悲しい音楽なんだろう…」と思っていると、自身のバレエのワルツを思わせるような美しい第2主題が出てきて心なごませます…。
第1楽章で鳴り響く運命的な主題も中間部ではおどけた木管楽器の優しい音色に変貌したり、求道者のように光の道筋を追い求め続けたり…と対照的なメロディが現れて様々な表情を醸し出していきます。
ドラマのように音楽は刻一刻と変化しながら、最後まで飽きない楽曲構成になっているのが、さすがチィコフスキーという感じです!
第2楽章は郷愁を誘う美しい第1主題が印象的です。ホルンの奏でる朗々とした響きを聴いていると、まるで冬の冷たいロシアの大自然が眼に浮かんでくるようです。
オーボエや弦、木管が絡むと、次第に小鳥のさえずりが聞こえてきたり、緩やかに風が頰を撫でたり……、見る見るうちに豊かな自然の情景が辺りを覆い尽くしていきます。
第4楽章は第1楽章の回想から始まり、様々な要素がふんだんに盛り込まれた楽章。演奏効果は抜群で、胸のすくフィナーレに至るまで聴きどころが続出します!
バレエの舞台のように!
第3楽章のメヌエットは、もう完璧にバレエ音楽の巨匠チャイコフスキーの面目躍如という感じですね!
愛らしく可憐なワルツは、もうそれだけでバレエの1シーンにすぐに挿入出来そうです。
しかもまったく嫌味がなく、音楽として馴染んでるところがバレエ音楽の巨匠たるゆえんでしょうか……。
オススメ演奏
セルジュ・チェリビダッケ指揮=ミュンヘンフィル
この曲のベスト演奏としてお勧めしたいのが、セルジュ・チェリビダッケ指揮=ミュンヘンフィルによる録音(ワーナーミュージック)です。
1991年のライブ録音ですが、録音は優秀でチャイコフスキーが書いたスコアの意味をとことんまで追求した演奏です!
あらゆるパートから、これほど深い意味を引き出した演奏が他にあったでしょうか……。
超スローテンポから紡ぎ出されるオケの重厚な響きや細部が目に見えるくらい彫琢されたハーモニーは素晴らしいの一言です!
時にブルックナーを感じさせたりもするのですが、それが嫌味になるどころか、この曲を構成していく上で大きなプラスに作用しているです。
第2楽章の瞑想を想わせるホルンの深い響きも凄いですが、特に凄いのは第4楽章です。
こんなテンポで、よくこれだけ楽器を鳴らせるな!?…と驚くばかりです。しかもスローテンポなのにもかかわらず、音楽は一切間延びしませんし、集中力も途切れることがありません!
これほど緻密な表現で圧倒的なクライマックスを築き上げられるのは、厳しいリハーサルの賜物とチェリビダッケの人並み外れた統率力があってのことなのでしょうか……。
エフゲニー・ムラヴィンスキー=レニングラードフィル
チャイコフスキーの悲愴と第4で圧倒的な名演奏を成し遂げているムラヴィンスキー=レニングラードフィル(現在のサンクトペテルブルクフィル)ですが、この曲でも本質をズバリ突いた演奏は圧巻です。
全編に渡ってセンス満点で、格調高く気品に溢れていながら、まったく物足りなさを感じないのはムラヴィンスキーの芸術性の高さ以外の何物でもありません。
第1楽章展開部の深さや第2楽章の序奏で聴かれる詩情は最高で、他の指揮者の追随を許さないものです。
メヌエットの美しさやセンスの良さもピカイチですね!
ただ第4楽章あたりはムラヴィンスキーをもってしても、曲に深く入り込むというより、やや音楽を持て余しぎみなのが残念です。