若々しい情熱が爆発するシンフォニックな名曲、ブラームス・ピアノ協奏曲第1番

若々しい情熱が爆発する作品

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ユジャ・ワンのピアノとヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団によるブラームスのピアノ協奏曲第1番(2018年2月28日)

 

ブラームスのピアノ協奏曲第1番は有名なピアノ協奏曲第2番に先駆けること22年も前に作曲されたピアノ協奏曲です。

「血湧き肉躍る」という表現が適切かどうかわかりませんが、この作品ほど震えるような興奮を覚える作品はありません。

この作品、とにかく音の洪水のようなめくるめく感情の表出と湧き上がる情熱が凄いとしかいいようがありません!

内容的にはピアノをオケの主役に据えたシンフォニーといってもいいほどで、ブラームスの持ち味が強く出た作品といえるでしょう……。

特に第1楽章の壮絶で迫力満点のオケの響きやピアノとのやりとり!

第3楽章の一気呵成になだれ込むピアノとオケの気迫! ここにはブラームスの熱い情熱が充満しているのです。

シューマンヘの想い

scenic view of historic buildings on both sides of Nikolaifleet channel in Hamburg, Germany with Elbphilharmonie concert hall in background under beautiful summer sky
ブラームスの生まれ故郷・ドイツのハンブルク

 

ブラームスはまだ不遇だった時代にシューマンに才能を認められ、彼の音楽評論で最高の賛辞を送られたことがあります。

ブラームスはそのことに特別な恩義を感じていたようですね。それからというもの、お互いを称えあう間柄として親密な交流を重ねてきたのです。

シューマン没後もクララを精神的に支えてきたというのは有名な話ですね。

奇しくもこの作品を発表する前年にシューマンの訃報が飛び込んできて、居ても立っても居られなくなったブラームスは夫人のクララやシューマン家の物心両面の支えとなっていくのでした。

美しい第2楽章アダージョはそのシューマンヘの哀悼の想いと、クララヘの慰労が込められているとも言われています。

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ロベルト・シューマンとクララ・シューマン

 

ブラームスにとっては大きな転機となった協奏曲、作品であることは間違いありません。

この曲は若々しい情熱が爆発するたとえようのないエネルギーやパワーに満ちあふれていて、ワクワクドキドキする瞬間が多いのです。

協奏曲にありがちな、万人受けするような表面的な効果を狙っていないし、ひたすら「内なる声の叫び」に忠実であることが音楽に密度の濃さや真実味をもたらしているのでしょう!

ピアノ協奏曲第2番は曲が成熟しているため、誰がピアノを弾き、指揮したとしても一定水準以上の演奏になりやすいです。

それに対して1番はピアニスト、指揮者、オーケストラの楽員すべてが作品に対する強い思い入れがないと音楽が崩れてしまう危うさを多分に含んでいますね……。

怖い作品ですが、それだけにピアニスト、指揮者にとってはやり甲斐があるし、演奏がツボにはまると恐ろしいほどの感動をもたらしたりもするのです!

 

聴きどころ

第1楽章 Maestoso

冒頭のティンパニの轟きから、その気迫に圧倒される!

続く悲しげな表情を湛えた第2主題も印象的で、曲はさまざまな形に変化や発展を加えながらドラマチックに、時には詩情豊かに展開する。

 

第2楽章 Adagio

瞑想のようなロマンに満ちた第1主題は音楽詩人ブラームスの面目躍如。

中間部のピアノのカデンツァは敬愛していたシューマンの夢幻的な世界を想わせ、春の宵のよう。ブラームス流の叙情的でしっとりとした優しさと味わいが心に残る。

第3楽章 Rondo: Allegro non troppo

親しみやすい第1主題がピアノによって奏されると、音楽はエネルギーを保持しながら、荒ぶる魂が全開のまま一気に突き進んでいく! 

ピアノとオケは絶妙な絡みを見せ、充実した中間部からは怒濤の勢いで輝かしいフィナーレを迎える!

 

オススメ演奏

エレーヌ・グリモー(ピアノ)、クルト・ザンデルリンク指揮シュタッカーペレ・ベルリン

 

エレーヌ・グリモー(ピアノ)、クルト・ザンデルリンク指揮シュタッカーペレ・ベルリンの演奏は第1楽章冒頭から圧倒されます。

言うまでもなくザンデルリンクの指揮の懐の深さのことですね! 隅々まで結晶化された有機的なオケの響き、壮大なスケール……。

どれもこれも今まで聴いたことがないような世界が現れているではありませんか! 

壮絶な嵐の真っ只中を一歩一歩着実に踏みしめるようにゆったりとしたテンポで進められるのですが、退屈になることは一切ありません。

曲の本質を捉え、さまざまな感情や音楽的ニュアンスを引き出した指揮者に大拍手するしかないでしょう。

グリモーもザンデルリンクの音楽に触発されたように、なりふり構わぬ自在なテンポと強靭なタッチで充実した音楽を展開しているのには驚かされます。

 

アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)、ズビン・メータ指揮イスラエルフィル

 

アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)、ズビン・メータ指揮イスラエルフィル(ユニバーサル・ミュージック)の演奏も凄いの一言です。
特にコンサート活動から引退を宣言したルービンシュタインはこの録音当時90才(1976年)を迎えようとしていました。

しかしピアノの響きは少しも衰えを見せず、いい意味での遊びの境地や融通無碍な表現が音楽に深い味わいを醸し出しているのです!

ピアノから繰り出される一音一音の確信に満ちた音の響きとその輝きは強い説得力があり、感興に満ちています。

メータの指揮はルービンシュタインの波動そのままに大きな音楽を生みだし、オケから終始有機的な響きを引き出していて、ピアニスト共々、最後まで息の抜けない演奏を繰り広げていくのです。

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