研ぎ澄まされ、輝きを放つバロック協奏曲 ヘンデル「合奏協奏曲作品6」② 第5番〜第8番

前回に引き続き、ヘンデルの合奏協奏曲作品6の2回目になります。

今回は第5番から第8番にかけての4曲ですね!ヘンデルの作品は一度夢中になるとその魅力から抜け出せなくなると言われるように、他の作曲家にはない音楽的なメッセージに満ち満ちています。
まずは比較的入っていきやすい合奏協奏曲あたりから聴き始めるのもいいかもしれませんね。

目次

合奏協奏曲 第5番 ニ長調 HWV323

聴きどころ

合奏曲集の中でもヘンデルらしい男性的な迫力があり、親しみやすく覚えやすい作品です。

舞踊風のリズムをテーマにした第3曲プレストも、ご機嫌な第5曲アレグロもヘンデル特有の含蓄のある親しみやすさと愛嬌で忘れ難い印象を残してくれます!

自作の『聖セシリアの日のための頌歌』から編曲された音楽を巧みに配置しています。 

 

第1曲と第2曲アレグロの展開部

第1曲冒頭はヴァイオリンのソロをファンファーレの合図のようにに見立てて開始されます。

この開始が伏線となって、音楽は次第に広々とした世界が築かれていくのを感じることでしょう。

 

第4曲アレグロ・第6曲メヌエット

フーガの上機嫌さ、爽快感は格別です!

メヌエットはシンプルですが、気品に満ちた印象的な音楽でフィナーレを美しく飾ります。

オススメ演奏

リヒター=ミュンヘンバッハ管弦楽団

Karl Richter(1926-1981)

カール・リヒターの演奏は、今でもこの作品の名盤として多くの人に愛聴されています。

リヒター盤の演奏の魅力は通奏低音の強靭な迫力や男性的なダイナミズムがあげられるでしょう。

しかも曲ヘの取り組みが一貫していて、真摯で求道的なのです。この曲が持つ格調の高さやヘンデルの求めている精神性には一番近いかもしれません。

合奏協奏曲 第6番ト短調 HWV.324

聴きどころ

孤高の魂が安住の地を求めるかのような名曲です。

第1曲や第2曲で耳にする心の葛藤を表す不協和音はベートーヴェンの交響曲の提示部を想い起こさせ、その意味深さが心に染みます。

第1曲ラルゲット

深い悲しみに覆われるものの、弦の慰めが心を癒やします…。

第3曲ミュゼット

スケール雄大で懐の大きい音楽が、この曲の暗い影を振り払うかのようです。

安定感があり、微動だにしないバラード風の情緒が印象的。少しずつ希望の光が差し込んでくるかのようです。

オススメ演奏

ヴェンツィンガー=バーゼルスコラカントルーム

August wenzinger(1905-1996)

廃盤は残念というしかありませんが、ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団をあげておきます。演奏は素晴らしいのひとことです。

特に合奏部分にファゴット等の管楽器の響きをブレンドして、色彩感や実在感に富む音色を生み出しているのには驚かされます!

ミュゼットの落ち着き払った深い呼吸…。軽薄な響きはどこにもなく、この作品の魅力をたっぷりと味わえます。

リヒター=ミュンヘンバッハ管弦楽団

リヒター盤は厳しい造形と響きをモットーにした演奏で、中でもミュゼットの雄大なスケール感と意味深さは抜群です。

ただあまりにも力が入りすぎてしまい、ところどころで美しさを失っているのが少々残念です。

合奏協奏曲 第7番 変ロ長調 HWV325

聴きどころ

第1曲は爽やかな朝の始まりとその感謝なのでしょうか……。

寛いだ響きが音楽の扉を開けてくれるかのようです…。そしてすぐさま、お茶目で可愛らしい第2曲に引き継がれるのです。

この愛らしい音楽は無邪気で機知に富んでおり、第3曲以降に重要な橋渡しをします。第3曲のアダージョは前楽章が生気に満ちていたためによけいに一抹の寂しさや哀しみが強く胸に染みますね…。

第2曲アレグロ

楽しくお茶目なフーガです。

弦楽パートが追いかけっこをするように進行しますが、変化を加えながら音楽がみるみるうちに発展する様子は圧巻です!

無邪気でウイットに富んでいるのも大きな魅力ですね。

第4曲アンダンテ

一歩一歩確かな足どりを刻むようなリズムのテーマと、何度も立ち止まりながら物思いに耽る経過句の対照が印象的です。

音楽は進行とともに、豊かな実在感を増し加えていきます。

第5曲ホーンパイプ

この作品の白眉です!

2分の3拍子のキリリと引き締まったリズムをテーマとして、音楽は絶え間なく発展し続け、すべての喜びや哀しみを包み込むような強いメッセージが息づいているのです!

オススメ演奏

ヴェンツィンガー=バーゼルスコラカントルーム

廃盤ながら、ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団の演奏を挙げないわけにはいきません。

第1楽章の深い響きにまず引き込まれ、その後に展開する様々なエピソードは終始微笑ましく愛情を持って演奏されています。

オルフェウス室内管弦楽団

Orpheus Chamber Orchestra

 

抜群の弦の美しさと豊かな感性がプラスアルファされた演奏です。

しなやかな弦の表情、爽やかに曲の本質を描き出すセンスの良さは秀逸です。

オルフェウス室内管弦楽団

合奏協奏曲 第8番ハ短調 HWV326

聴きどころ

深い憂愁に彩られた作品ですが、聴けば聴くほどに味わいが増す傑作です。

まるで良質の弦楽四重奏や崇高なエレジーを聴くような情緒に溢れています。作品の構成は変化に富んでいて、内容の深さも際立っていますね……。

第2曲で心の闇を痛烈に吐露するあたりはヘンデルとしても異例で、この先どうなるのだろうかと思えるほどです……。

その後、曲はますます深みを増していきます。ヘンデルが伝えたかったのは鎮魂の想いや生きとし生けるものの宿命的な哀しみだったのかもしれません。

第1曲アルマンド

一度聴いたら忘れられない、哀しみを背負って彷徨い歩くような冒頭主題の情緒が何ともいえません…。あたりを何度も見渡しながら引き返したりする経過句に、心の迷いと苦悩が表れているようです。

第3曲アレグロ

気持ちの高まりや胸の鼓動を伝えるようなテーマが印象的です。 

第4曲シチリアーノ

悲しみに打ちひしがれながらも、決して希望や微笑みを捨てない美しい音楽。ヴァイオリンのメロディが胸に迫ります。

オススメ演奏

ヴェンツィンガー=バーゼルスコラカントルーム

安心して聴ける丁寧で本質をしっかりと捉えた演奏、柔らかい響き、自然な音楽の流れ。どれをとっても最高ではないでしょうか。

リヒター=ミュンヘンバッハ管弦楽団

リヒターの演奏も鋭く本質を捉えた演奏です。 特にシチリアーノはヴァイオリンのソロや合奏すべてにおいて著しく内面の湧き上がる想いを表現したもので、8番の録音において欠かせない名盤です。

 

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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