印象派の道筋を切り開いた! モネ「印象・日の出」

「印象・日の出」クロード・モネ/油彩、1872年

画風の変化は画家の自然な感情

Claude Monet 1840-1926 France

 

画家が制作を続けていくときに避けて通れない宿命的なことがあります。

それは自分の心に忠実にモチーフを見れば見るほど、新たなスタイル(画風)へ転換する意識がどんどん湧き上がってくることです。

画家の作風が既に一般に広く定着し、受け入れられている場合には、その欲求を打ち消すのは容易ではありません。しかし、画家としてさらに成長し進化するためにはその可能性を否定しないで受け入れることも重要なのです。

印象派のきっかけとなる「印象・日の出」の絵を描いたクロード・モネの場合もそうでした。

一般的に画家はデザイナーやイラストレーターではありませんので、クライアントとの直接的な契約はないし、需要と供給からくる制作上の制約はもちろんありません。

パトロンや強力な画商がしっかり付いてると、いくらでも自分の思うがままにスタイルを変えることができます。

画風を変えることのリスク

 

しかしリスクもあります。

スタイルを変えることによって、「こんな絵を期待しているんじゃない…」とか、「目指す方向が違う」、「援助する気が失せた」という否定的な意見も当然のように出てくるのです。

信頼する文化人や評論家、パトロンからまったく見向きされなくなったり、美術協会から追放されたり、過剰なバッシングを受けることも決して珍しくありません。

それが急進的な画風であればあるほど風当たりは強いと言えるでしょう。

モネの「印象・日の出」も最初に展覧会(1874年)に出品された時は散々でした。アカデミックな絵が主流を占めていた当時のフランス画壇で、「手抜きじゃないのか」とか、「未完成だろ」と揶揄される声が圧倒的だったのです。

ただし画家の信念や制作ポリシーがしっかりしていると、そのようなバッシングや締め出しもいずれ時間が解決してくれるようになるのです。

 

 

物事の本質を見抜く目

2015年に東京で開催されたモネ展

 

モネの絵は日本で非常に人気があります。

モネ展が開催されると、平日の午前でもチケット窓口がいっぱいになり、館内も人が溢れるほどになるのもそれを充分物語っています。

それは日本人が四季折々の変化に敏感なのと同様に、モネの絵には繊細な情感を映し出す感性のフィルターが備わっていることも大きいでしょう。

モネは繊細な感性だけでなく、物事の本質を鋭く見抜く目も人一倍優れていました。

その一つが一瞬たりとて、同じ表情を保ち続けるモチーフはないということですね…。

彼の絵に共通するのは静止した空間ではなく、確かな時の流れが脈々と息づいています。

 

この「印象・日の出」も、写真家のようなモネ一流の目と感性が捉えた卓越した風景画と言えるでしょう。

「印象・日の出」は印象派の旗揚げに大きな影響を与えた絵だと言われますが、決してモネは新しい流派を起ち上げようと躍起になったわけではないのでしょう。

がむしゃらに自分の創作を信じて描いていったら「こんな絵になった」というのが本音なのではないでしょうか……。

港の移り変わる情景を生き生きと再現

ル・アーブル港(フランス)photo credit: O.Ortelpa Le Havre, France via photopin (license)

 

モチーフとなったル・アーブル港はモネが絶えず絵のテーマとして好んで描いた場所でした。

いくぶん湿り気のある大気に朝もやが絡みつくことで、気だるさと神秘的な表情を醸し出す早朝……。その幾多の条件が出揃うことによって、モネの創作欲は頂点に達したのかもしれません。

「瞬間を逃すまい」とキャンバスに刻まれた少々乱雑に感じられる荒々しいタッチは、移り変わる港の情景を生き生きと再現してやまないのです。

おそらくモネは説明や理屈ではなく、非日常の光や空気、匂い……、肌で直接感じた感覚をどうしても絵で伝えたかったのでしょう。

太陽の光、水面に映る光は一瞬たりとて同じところにとどまらず、時間の確かな経過と自然が魅せる神秘を映し出しているのです。

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