究極の点描画
スーラ作の「グランド・ジャット島の日曜日の午後」。
皆さんはこの絵をどこかでご覧になったことがあるのではないでしょうか?とにかく有名な絵ですね。
「グランド・ジャット」はスーラの一世一代の傑作であると同時に、様々な研究を積み重ねた結果たどり着いた作品だったのでした。
そして彼独自のオリジナル技法が大変な反響を呼んだ絵だったのです。
スーラは、印象派の画家たちが用いた「筆触分割」の技法をさらに押し進めます。その結果、絵に光の効果を取り入れた点描という技法にたどりついたのでした。
彼自身、本作を完成するまで多くのデッサンや下絵を描いたり、シュミレーションするなどして入念に構想を練っています。
通常、絵の具を混色すると色が濃くなります。そして次々に色を混ぜ合わせると次第に黒に近い状態になりますよね……。
つまり普通に色を混ぜ合わせると、色は鈍くなり、光の効果が失われるという結論に達するのです。
逆にテレビモニター等で使われる光の三要素と言われるRGBをどんどん重ね合わせると無限に白に近づいていくのです!
これは色の三原色(印刷物で扱うCMYK)、光の三原色(レンズやテレビモニター等のRGB)の理論からも納得できるのではないかと思います。
そこで彼が着目したのが光の効果を絵に応用するという独特の手法だったのです……。
色彩の比率を変えて画面上に配置
スーラはこの絵に何と2年もの歳月をかけて完成させています。
それはそうでしょうね……。すべて手描きで光の効果を取り入れた絵(いわゆる点描画)を完成させようとすれば、途轍もなく大変な作業になるのは目に見えています。
彼は足繁くグランド・ジャット島に通い、絵のイメージを具体化させるため、習作をたくさん描いたり、描き直したりして公園の風景から見えてくるものをデータベース化していたのかもしれません。
点描画とはいえ、一切混色をしない明るい色調の絵具を用いているため、日陰にまで光が行き届いているのには驚きです。
この絵を目を凝らして見ると、これでもかとぎっしりと大小、様々な形をした色の固まりが置かれていることがわかります。
さらに拡大すると、形だけではなく、色点の方向や置かれた間隔が多種多様で、システマチックに並べられていることに改めて驚かされます。
極めつけは光と陰の部分を区別する点描の見事さです。
仮に普通のタッチで油彩で描いたとしても、光と陰の描き分けはとても難しいものです。しかし、この絵は見事に光と陰を描き分けています。
しかもそこには静けさに満ちたドラマがありますね。特に芝草に寝そべっているおじさんの膝あたりの強い陽射しの表現は見事と言うしかありません……。
決して強烈な陽射しにはなっておらず、むしろ穏やかで潤いのある柔らかな陽射しに感じられ、いい意味でこの絵の重要なアクセントになっているのです。
こんな表現をものにするまで、いったいどれだけの苦悩と挫折があったのでしょうか…。
でもこんな表現をアナログでやってしまうなんて……。驚きを超えて震えが出てきそうです。
タイトルどおりの憩いのひととき
この絵の舞台となったグランド・ジャット島は、パリのセーヌ川に浮かぶ中州で、当時はパリ市民のリゾート地のような存在だったのでした。
モネ、ゴッホ、シスレーといった印象派・新印象派の画家たちも好んでグランド・ジャット島を描いています。
それだけ画家の心を捉えて離さない空気感や潤いがあったのでしょう。本作も究極的な点描表現が美しい詩情に満ちた世界を醸し出しています。
人物の姿も極めてシンプルにし、余分な情報をできるだけ排除したのも見事です。その結果、登場人物は多くてもまったくうるささを感じさせず、静けさと平和なひとときを垣間見るような趣きがあるのです。
スーラはこの絵に自分の全人生をかけ、そこに最高の理想の姿と居場所を見い出したのかもしれませんね……。