輝きと生命力に溢れた音楽 ヘンデル「鍵盤のためのソナタ組曲第1番・HWV426」

心の養分のようなヘンデルの音楽

皆さんは日々の生活の中で、自然の営みがもたらす恵みや影響力について考えたことがあるでしょうか……。

おそらく普段はあまり意識しないですよね。

でもそれは私たちにとって確実に心の大切な部分で感知していて、知らず知らずに心の養分として吸収されているのかもしれません。

たとえば、何気なく通り過ぎる小径に咲いたコスモスの花々がまばゆいほどに美しかったとか、病気が回復したころに味わった温かな陽射しや涼やかな風が妙に心をなごませたなどといった体験はないでしょうか……。

ごく当たり前のように展開される自然の営みが私たちの心の成長や深化、精神的な回復を促すきっかけになったりするのです。

自然のエネルギーは私たちの心の状態を知らない間にリセットしているといっても過言ではないでしょう。

音楽にも心の状態をリセットしてくれる作品が多々ありますね。ここにあげるヘンデルの組曲第1番HWV426はおそらく、聴いた人のほとんどが気持ちが穏やかになり、前向きな気持ちになる作品といっていいでしょう……。

 

輝きと生命力に溢れた音楽

 

ヘンデルの組曲HWV426をそうした自然の美しさや気高さに見立てるのは少々無理があるかもしれません。

でも、さりげない音楽なのに、包み込まれるような情緒や心に染み込む感覚は近しい何かを感じるのです。

音楽の魅力をひとことで言うと「輝きと生命力に溢れた音楽」といってもいいでしょう。

何がいいのかというと、主題そのものの魅力というよりは音楽は徐々に発展していき、さまざまなパートに永遠の余韻を感じさせる響きが聴かれるところでしょう。 

本当にヘンデルの音には不思議なくらい輝きと生命力が宿っていますね……。

プレリュードは単純明快な主題から音が積み重ねられると、音楽はどんどん発展し、雄大な世界が広がっていくのを感じます!

特に見事なのがアルマンドとクーラントです。主題やメロディに少しも誇張がないのに、音楽が開始されると眠っていたあらゆるものが目覚めるように、美しく気高く彩られながら様々な表情を映し出していきます!

HWV426はチェンバロの演奏が高貴で堅実なロココ調を感じさせていいのですが、ピアノの演奏で聴くと神秘的でエレガントな雰囲気が醸し出され、時代を超えた普遍的な音楽としてさらに作品の魅力が高められるような気がします。

聴きどころ

プレリュード

単純明快な主題から音が積み重ねられる中で、音楽はどんどん発展し雄大な世界が広がっていく!

アルマンド

主題にこれといった特徴はないものの、豊かなニュアンスと自然な情緒に心ひかれる。

クーラント

この作品の最大の聴きどころ。漂う天上の調べ、エレガントな音の対比、あふれる色彩感等、音楽の魅力が充満している。

ジーグ

印象的なリズムとメロディ、フランス的な装飾音の中に漂う透明感あふれる情緒が心地良い。

オススメ演奏

エリック・ハイドシェック(P)

 

この作品はいかにもチェンバロにふさわしい高雅な雰囲気が支配する音色と形式を持っています。

そのため演奏も圧倒的にチェンバロ版が多く、ピアノは少数派かもしれません。

 

しかしピアノでその本質や音色を丹念に掘り下げていくと稀に見る名演奏が実現したりします。

特にエリック・ハイドシェックの演奏は唯一無二の名盤と言ってもいいでしょう。もぎたての果実のようにフレッシュでナチュラル!しかも語り口が上手い!

聴いていくうちにこれがバロック音楽だったということさえ忘れてしまうような洗練さと優雅の極みのような演奏なのです。バロック音楽だからといって、一般的な演奏様式に倣って弾かないのがハイドシェックの凄いところで、この録音もヘンデルの音楽の隠れた魅力を充分に引き出していますね。

まるでモーツァルトのように自由奔放で、無垢な微笑み、輝きに満ちています。

一音一音に感動と発見があり、その驚くべき感性の豊かさとしなやかな演奏スタイルには唖然とさせられます。

 

リチャード・エガー(Cem)

<ヘンデル : 「偉大な」 8つの組曲 HWV 426-433 (G.F.Handel : 8 ‘great’ Suites for Keyboard HWV 426-433 / Richard Egarr (harpsichord)) (2CD) [輸入盤]

 

チェンバロ演奏の代表盤としてあげられるのがリチャード・エガー盤です。優雅で、どことなく癒やしの音色を想わせるチェンバロの響きを最大限に活かした演奏は見事としかいいようがありません。

ハイドシェック盤のような流れるようなメロディ、リズムこそありませんが、代わりに力強く微動だにしないエネルギーが充満しているのです。

かつてのバッハ演奏のスペシャリスト、ヘルムート・ヴァルヒャを想わせる雰囲気もあり、バロック的でオーソドックスな響きが好みの方には大いに歓迎されるかもしれません。

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