バッハ《オーボエ・ダモーレ協奏曲 BWV1055》の魅力と名盤|心躍る名曲を聴く

バッハの《オーボエ・ダモーレ協奏曲 BWV1055》は、弾むようなリズムと温もりあふれる旋律が魅力の作品です。

私がこの曲に出会ったのは、ヘルムート・ヴィンシャーマンの演奏がきっかけでした。今回は、作品の聴きどころと、ヴィンシャーマン、ハインツ・ホリガーによるおすすめの演奏を紹介します。

目次

バッハ《オーボエ・ダモーレ協奏曲 BWV1055》はどんな曲?

バッハの《オーボエ・ダモーレ協奏曲 イ長調》は、柔らかな音色を持つオーボエ・ダモーレが独奏楽器として活躍する、親しみやすさと奥深さを兼ね備えた作品です。

軽やかに弾むリズム、歌うような旋律、そしてふとした瞬間に感じられる哀愁。バッハの音楽に厳格で重厚なイメージを持っている方にとっては、その生き生きとした表情が新鮮に響くことでしょう。

作品データ

作品名内容
作曲者ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
作品名オーボエ・ダモーレ協奏曲 イ長調作品番号 BWV1055をもとにした復元版(原曲の楽譜は現存しない)
原曲として現存する作品チェンバロ協奏曲第4番 イ長調 BWV1055
作曲年代原曲の成立年代は確定していない。チェンバロ版は1730年代後半頃と考えられる
楽器編成オーボエ・ダモーレ独奏、弦楽合奏、通奏低音
楽章構成第1楽章 アレグロ
第2楽章 ラルゲット
第3楽章 アレグロ・マ・ノン・タント
音楽の特徴軽快なリズム、歌心のある旋律、明るさと哀愁の対比

オーボエ・ダモーレってどんな楽器?

オーボエ・ダモーレは、通常のオーボエよりも低い音域を持ち、柔らかく温かみのある音色が特徴の木管楽器です。

「ダモーレ」はイタリア語で「愛の」という意味。名前の響きにも、どこか優美な印象がありますね。

華やかに響くオーボエに対して、オーボエ・ダモーレはまろやかで親密な表情を持ち、旋律を歌うように奏でるのに適しています。

バッハの作品では、この音色が旋律に独特の温もりを与え、弦楽合奏との対話をいっそう魅力的なものにしています。

チェンバロ協奏曲 BWV1055との関係

現在知られているチェンバロ協奏曲 BWV1055は、かつて別の独奏楽器のために書かれた協奏曲を、バッハがチェンバロ用に編曲した可能性が高いと考えられています。

その原曲の独奏楽器として有力視されているのが、オーボエ・ダモーレです。

ただし、原曲の楽譜が残っていないため、当初からこの楽器のために作曲されたと断定することはできません。

こうした研究をもとに、チェンバロ版からオーボエ・ダモーレ独奏用に復元された演奏が生まれました。興味深いのは、楽器が変わることで、同じ旋律から受ける印象も変わることです。

チェンバロでは軽やかな音の動きや構成の巧みさが際立ちますが、オーボエ・ダモーレでは、息づかいを感じさせる音色や、旋律の歌心がより身近に伝わってきます。

楽器の音色を通じて、バッハの音楽に新しい表情が見えてくる。 それも、この作品を聴く楽しみのひとつです。

こうした構成の巧みさが、聴きやすさのなかにバッハならではの知的な面白さを与えているのです。

バッハの音楽がこんなに楽しい!作品の魅力

弾むリズムと親しみやすい旋律

バッハの音楽というと、厳格で重厚、そしてちょっと難しいという印象を持つ方もいるかもしれません。

ところが、この《オーボエ・ダモーレ協奏曲》を聴いていると、そんなイメージが見事に払拭されます。私が初めてこの作品に出会い、真っ先に感じたのは、思わず心が弾むような楽しさでした。

弾むようなリズムと、親しみやすい旋律が生き生きと展開されていく。もちろん、旋律の表情には繊細な陰影があり、聴き進めるほどにバッハならではの奥深さも感じられます。

肩の力を抜いて楽しめるけれど、決して表面的な明るさで終わっていない。そんな魅力が、この作品にはあふれています。

明るさの中に漂う哀愁と温もり

この作品の魅力は、明るく弾むような音楽だけではありません。

第1楽章や第3楽章の軽快さに対して、第2楽章のラルゲットでは、ゆったりとした流れのなかに深い情感が広がります。現存するチェンバロ版では、半音階的な動きや揺れるような伴奏が、物思いに沈むような表情を生み出しているのが印象的。

華やかさの陰にふと顔をのぞかせる哀愁。その対比があるからこそ、明るい楽章も陽気な音楽というだけでは終わりません。

オーボエ・ダモーレの温かな音色で聴くと、旋律がまるで人の声のように感じられる瞬間もあります。音楽の楽しさと、胸の奥に静かに触れてくるような感情。その両方を味わえるところに、この作品の奥深さがあるのではないでしょうか。

ヘルムート・ヴィンシャーマン盤との出会いと思い出

バッハのオーボエダモーレ協奏曲イ長調BWV1055。

こんなに楽しく親しみやすい作品がバッハの音楽にあったのか…と驚くばかりなのですが、この作品と出会うきっかけになったのがヘルムート・ヴィンシャーマンがオーボエを担当し、指揮したアルバムでした!

すでに録音から半世紀以上の歳月が過ぎているのですが、今なお新鮮で温もりある響きに胸が熱くなります。

ヴィンシャーマンといえば、確か雑誌の取材だったと思いますが、オーボエ奏者の宮本文昭さん(ヴァイオリニストの宮本笑里さんのお父さん)が、師匠でもあった彼のオーボエの魅力について熱く語っていたのを思い出します。

なぜヴィンシャーマンの演奏をとりあげたのかというと、彼の演奏によってこの曲だけでなく、バッハへの認識がずいぶん変わってしまった(もちろん良いほうへ)からなのです。

ちょうどこの演奏が収録された1960年代の前半頃というと、バッハの演奏は厳しく求道的でなければならない……。そんな暗黙の了解や空気ができあがっていた時代だったのでした。

その慣例をいい意味で打ち破るヴィンシャーマンのさわやかな名演奏! 

オーボエの響きや音色は、まるで瞬間瞬間に移り変わる心の表情を伝えてくれるようだし、なんともいえない懐かしさと温もりを届けてくれるのです。

バッハを聴く楽しさと喜びを理屈ではなく、肌感覚で教えてくれる名演奏こそヴィンシャーマンのオーボエの真骨頂といえそうです。

ワクワクする音楽

バッハの故郷アイゼナハの近郊・ヴァルツブルグ城
バッハの故郷アイゼナハの近郊・ヴァルツブルグ城 August 31 2019 – Wartburg Castle in Eisenach, Thuringia, Germany

この音楽を聴いて最初に思ったのは、「バッハってこんなに遊び心があって、ワクワクする音楽も書けるのか…」でした。

もちろん子煩悩で、10人以上(幼くして亡くなった子供たちを入れると20名にも及ぶ)の子供たちを育て上げ、教育には誰よりも理解があったバッハのことですから、当然といえば当然なのかもしれませんね……。

ここでは無邪気に音楽と戯れ、理屈抜きで音楽を楽しんでいるバッハの姿があるのです。

それはちょうどモーツァルトが鼻歌交じりに楽しげにピアノを弾きながら、本質をズバリ突いた音楽を作り出すのに似ている感覚があるのです。

そのような魅力がふんだんに現れているのが第1楽章アレグロでしょう!

弾むようなリズムと魅力あふれる親しみやすい主題が、いっぺんに心を惹きつけます……。

その後、中間部で若干の哀愁を帯びたメロディや主題を発展させた懐かしい展開部で懐の深さを感じ、さすがバッハと思わせるのです。

なぜヴィンシャーマン盤のオーボエダモーレは音色が明るく響く?

ヘルムート・ヴィンシャーマン率いるドイツ・バッハ・ゾリステンの演奏を聴くと誰もが感じる素朴な疑問。「どうして、ヴィンシャーマン盤のオーボエ・ダモーレは、他と比べて音色が高めで明るく響くんだろう」ということですよね。

では、なぜヴィンシャーマンの演奏は、このような印象を与えるのでしょうか。

その背景を辿るには、演奏家の音色づくりだけでなく、当時の楽器や演奏スタイル、録音の特徴にも目を向ける必要があります。

【オーボエダモーレの比較】

スタイルバロックピッチモダン・ピッチ
設定A=415Hz
通常の標準音階より半音低い設定
A=440Hz〜444Hz
基準ピッチがピリオド楽器よりも半音高い
特徴しっとりとした深みや暗めのトーンが強調されやすいピリオド演奏よりも半音高いため、全体的に華やかで明るく聴こえる
代表的な演奏家ハインツ・ホリガーや古楽器奏者による録音などヴィンシャーマンなどの20世紀演奏

演奏スタイルが生み出す明るさと軽やかさ

ヴィンシャーマンの演奏について、まず注目したいのは、旋律の歌わせ方やフレーズの表情です。

音をただ均一に並べるのではなく、音の立ち上がりやフレーズの運びに変化をつけることで、旋律が生き生きと浮かび上がります。

こうした演奏上の特徴が、音色を明るく、軽やかに感じさせる一因になっている可能性があります。

モダン・ピッチ(A=440Hz〜444Hz)での演奏

ヴィンシャーマンの演奏スタイルは20世紀のモダン・オーボエ奏法を代表しています。現代のモダン楽器(A=440Hz〜444Hz)を用いて演奏しています。基準ピッチ自体がピリオド演奏よりも半音高いため、全体の音高(Pitch)が華やかで明るく聴こえます。

​明快で室内楽的なアンサンブル表現

ヴィンシャーマンの解釈は、バロック特有の重厚で影のあるニュアンスよりも、対位法の輪郭をくっきりと浮き立たせるアーティキュレーションを特徴としています。

弦楽器群のピッチや響きも現代楽器仕様で明るくタイトに引き締められているため、独奏オーボエ・ダモーレのメロディラインが埋もれず、非常に高精度かつ明るい音像として耳に届きます。

​これらが組み合わさることで、他盤の「哀愁を帯びたしっとりした低めの響き」とは一線を画す、クリアで鮮烈な音色が生まれています。

ヴィンシャーマン盤を聴いてみる

Oboe d'amore Concerto in A Major, BWV 1055: I. Allegro
Helmut Winschermann
Oboe d’amore Concerto in A Major, BWV 1055

聴きどころ

第1楽章 アレグロ

第1主題冒頭の肩の力を抜いた弦の合奏は、まるでご機嫌なバッハの表情が浮かぶよう…。弾むようなリズム、魅力あふれる主題が華を添える。

第3楽章アレグロ・マ・ノン・タント

第1楽章と同じく溌剌としたリズムや、光や空気をも感じさせる心地良い主題が心を惹きつける。

中間部での転調は第1楽章よりさらに変化に富んでいて魅力的!

オススメ演奏

ヘルムート・ヴィンシャーマン(オーボエ、指揮)ドイツバッハゾリステン

ヴィンシャーマンの格別の名演奏!
1960年代の録音ながら演奏スタイルにまったく古さを感じません。何よりヴィンシャーマンの想いが込もった表情豊かな演奏はいっぺんで心を虜にしてしまいます。

自在なヴィブラートとまるで自分で歌を歌っているのか…と思うようなオーボエの響きにあふれ出る歌心…。

何気ない表情の変化も実に見事で、デリカシー豊かな感性の発露がぐいぐいと聴く者の心に入ってきます。現在CDはほぼ廃盤ですが、音楽配信サービスで聴くことが可能です。

ハインツ・ホリガー(オーボエ、指揮)カメラータ・ベルン

ホリガーはいわずと知れた20世紀最高のオーボエ奏者。その影響力は限りなく広く、オーボエ奏者だけでなく、フルート奏者、ファゴット奏者にも影響を与えたカリスマと言われています。
抜群の音楽性とテクニックを兼ね備えた天才で、彼によって陽の目を見たバロックや古典、現代作品も数多くあります。

そんな彼がこの作品では驚くほどの透明感と美しい音色で魅せてくれます!形を自分のスタイルに近づけながらも、決して崩したり遊んだりしないところが流石ホリガーです。

特に素晴らしいのが第3楽章で、リズムを次第に詰めながら格調高く音楽を進めていく…その造形感覚や安定した楽器の響き、音楽性に大拍手です!

FAQ(よくある質問)

オーボエ・ダモーレとはどんな楽器ですか?

オーボエ・ダモーレは、通常のオーボエより低い音域を持ち、柔らかく温かみのある音色が特徴の木管楽器です。バッハの作品では、その歌うような響きが旋律に独特の魅力を与えています。

バッハの《オーボエ・ダモーレ協奏曲》の作品番号は何ですか

一般にBWV1055として紹介されますが、これは現存する《チェンバロ協奏曲 イ長調》の作品番号です。オーボエ・ダモーレ協奏曲は、この作品をもとに復元された演奏形態として知られています。

ヴィンシャーマンの演奏は、なぜ明るく聴こえるのですか?

演奏の歌わせ方や音の立ち上がり、楽器の仕様、録音条件など、複数の要因が考えられます。ただし、特定の要因だけが理由だと断定することはできません。実際の演奏を聴きながら、音色やフレーズの表情に注目してみるのも楽しみ方のひとつです。

ヴィンシャーマンとホリガー、どちらの演奏がおすすめですか?

温もりや歌心を感じさせる演奏に惹かれる方にはヴィンシャーマン盤、透明感や緻密な音楽づくりを味わいたい方にはホリガー盤がおすすめです。ぜひ両者を聴き比べて、ご自身の好みに合う演奏を見つけてみてください。

まとめ

バッハの《オーボエ・ダモーレ協奏曲 BWV1055》には、心が弾むような楽しさと、ふとした瞬間に感じられる深い情感があります。

ヴィンシャーマンの温もりあふれる響きと、ホリガーの透明感に満ちた演奏。それぞれの個性を聴き比べることで、この作品の新たな魅力に出会えるはずです。

ぜひ、バッハの音楽をもっと自由に楽しんでみてください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次