音楽が呼吸し、心を溶かす!グールドのバッハ「インヴェンションとシンフォニア」

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理屈ではない生きた音楽体験

Photo credit:BiblioArchives / LibraryArchives on Visualhunt/CC BY-NC-ND
ピアノを弾くグールド

 

皆さんは20世紀の名ピアニスト、グレン・グールド(1932-1982)の演奏時の映像をご覧になったことがあるでしょうか?

おそらく、「おやっ!」と思われた方は多いはずです。

異常に背丈の低い椅子にかがむように座り、鍵盤を舐めるように弾く姿……。そして鍵盤を弾くやいなや、音楽に合わせるように鼻歌(唸り声?)を歌い始めるではありませんか。

しかも鼻歌は弱まる様子もなく、調子が上がるに従い、勢いが増してマイクがしっかり音を拾うという結果になってしまいます……。

けれども、そのような不思議な演奏姿は決して聴衆へのパフォーマンスではなかったのです。 真剣に音楽に入りこもうと思えば思うほど、自然と出てきた大真面目な演奏スタイルだったのです。

また極端な冷え性と虚弱体質から演奏旅行の際は、夏でも冬用の厚いコートを身に纏い、手袋をして身体を震わせていたと言います。

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グレン・グールド(1965年10月26日、トロント)
Harold Whyte/Toronto Star撮影。(Harold Whyte/Toronto Star via Getty Images)

 

1955年にバッハの「ゴルトベルク変奏曲」で音楽関係者から絶賛され、センセーショナルなデビューを果たしたグールドでしたが、1964年には1回きりのコンサートでは音楽の真価が伝えられないということで、すべての演奏活動を停止してしまいます。

音楽が聴く人にどのように伝わるのかということに人一倍強いこだわりもあったのでしょうね……。

 

グールドは抽象的な主題を積み重ねていく作品との相性は抜群でしたが、メロディを歌わせる必要のある作品はお世辞にも相性がいいとは言えませんでした。

特にロマン派作曲家の作品との相性は水と油のようで、グールドがメンデルスゾーンの無言歌あたりを弾いている姿はどう考えても思い浮かびません。

実際、シューベルト、ショパン、シューマン、メンデルスゾーン作品の録音がほぼ皆無なのもうなずけます。

 

オンリーワンとしての輝き

夏でもコートを着用し、手袋をしていたグールド
BiblioArchives / LibraryArchives

 

エピソードには事欠かないグールドでしたが、彼によって生みだされた音楽が色褪せることはないでしょう。

特にバッハの音楽との相性は抜群でした。

禁欲的で、「こうあらねばならない」という固苦しいバッハ像を根底から覆すような名演を次々に発表したのです。

それまで礼拝堂で聴かれるべきという暗黙の了解や神秘的で神聖なイメージがつきまとっていたバッハの作品を、生き生きとした感情を宿した音楽として伝えてくれたのも他ならぬグールドだったのでした。

バッハの作品の造型やリズム、曲調はよほどグールドの感性とマッチしていたのでしょうか……。 グールドはバッハの作品で創造の翼を思う存分に羽ばたかせ、胸の内のすべてを吐露しているようにも思えます。

もちろん演奏がそこそこくらいだったら次第に忘れられる運命だったのかもしれません。でもグールドの場合は演奏そのものがオンリーワンと言ってよく、圧巻の表現、感性、テクニックと相まって完全に聴者の心を溶かしてしまったのでした。

バッハの音楽を生き生きとしたリズムやテンポ、アーティキュレーションの変化をつけて、自分がやりたいように表現するグールドの演奏に多くのピアニストが影響を受けたのは言うまでもありません。

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「インヴェンションとシンフォニア」の概念を変える


J.Sバッハの「インヴェンションとシンフォニア」は録音後50年を経過していますが、現在でも名盤の誉れ高い演奏です。

そもそも「インヴェンションとシンフォニア」は、バッハが息子のヴィルヘルム・フリーデマンのために書いたクラヴィーア小曲集です。

ピアニストの教育効果を引き出すために書かれた作品なのですが、今では多彩で豊かな性格を持つ音楽の小宇宙として、その芸術性がひときわ高く評価されています。

 

グールドの演奏はあらゆる部分で個性的なリズムやアーティキュレーションが続出しますが、本質を突いているために違和感がありませんし、最後まで一気に聴かせてしまうグールドのピアニストとしての器量はやはり並大抵ではありません。

よく聴くと、その一音一音に驚くほどの感性や情感が息づいているのがよくわかります。

少し寂寥感を湛えたピアノのタッチ、豊潤で柔らかな音色、自在に変化するアーティキュレーションはグールドだからこそ表現できた世界でしょう!

たとえばシンフォニアの6ホ長調は、まるで真珠の玉を転がすかのように美しく軽やかで、透明感にあふれています。

また第13番イ短調インヴェンションは、驚くほどのスピードでアルペッジョとシンコペーションを弾き分けながら一気に駆け抜けますが、いっさい音楽が乱れず進行し、曲の性格を強く打ち出す事になります。

とにかくグールドの「インヴェンションとシンフォニア」はバッハの音楽を決して退屈にさせることなく、音楽の魅力を最大限に引き出しているのです。 この演奏でバッハの音楽が好きになったという人も少なくないでしょう!

 

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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