山の峰に囲まれたオアシス バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番」

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高い山の峰に囲まれたオアシス

バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ(全6曲)は、バッハの器楽曲の最高傑作で、ヴァイオリンの最高峰などとよく言われます。

確かに素晴らしい作品だと思います。一挺のヴァイオリンから深遠な感情を引き出し、宇宙の調和をも感じさせる神秘的な響きを表現した作品は他にないでしょう。

ただし、自分の身体の調子が良くないときや、疲れているときは最後まで聴きとおすのが、とても辛く感じます……。

ベートーヴェンの第5やモーツァルトの40番を聴いても、決してそんなふうには感じられないので、これは相性の問題なのかもしれません。

こんなことをいうと、作品自体とっつきにくい…と思われるかもしれませんが、芸術的な香りや、味わい深さはやはり格別です。

そんなバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータの中で、例外的に親しみやすいのがパルティータ第3番です。

この曲だけは、バッハが自分の感覚やイメージを大切にしながら、とことん楽しんで作ったのではないか…と思えるのです。

パルティータ第3番全体を貫いているのはドイツ的な重厚さというよりはイタリア的な軽快さと明るさなのです。例えて言うなら、無伴奏ヴァイオリン集の高い山の峰に囲まれたオアシスのような存在といえるかもしれません。

でも主題の明るさ、輝かしさだけではなく、中間部の翳りの表情、陰影の表現はバッハならではの魅力を伝えていて、少しも薄味にならないのはさすがです!

全曲は7楽章構成で出来ていますが、特に3曲目のガヴォットは、ヴァイオリンコンクールや発表会でもよく弾くかれることで有名ですね!

生き生きとしたプレリュード

第1楽章のプレリュードは、何て即興性にあふれた音楽でしょう!

このときバッハはとても気分が良かったのでしょうね……。

音のつづれ織りのように、次々と現れる主題や経過句は自由な感性やインスピレーションに満ちていて、爽やかな旋律にどんどん惹きつけられていきます!

ヴァイオリンの高音の魅力やリズミカルなパッセージは、聴いているだけでも自然と身体が動き出しそうですね!

単独で演奏されるガヴォット

コンサートのアンコールで弾かれたり、コンクールでも弾かれることが多い第3楽章のガヴォットですが、明るくて愛らしい曲調は全曲の華と言ってもいいでしょう!

楷書風で折り目正しくキッチリと書かれた作品ですが、決して他のソナタ、パルティータ作品に比べて劣っているわけではありません。

何と言っても、この音楽の一番の魅力は分かりやすく親しみやすいところですね! 

そのうえ、純粋無垢な遊び心と気品が漂い、ヴァイオリン奏者も聴く人も幸せな気分にさせてくれます。

バッハを知り尽くしたシェリング

United Nations Photo on Visualhunt.com / CC BY-NC-ND  演奏会でのヘンリク・シェリング(中央、1967年)

無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータの演奏は名曲だけあって実に選り取り見取り……。正直なところ、どれを選んでいいのかまったく分からないという状況に陥りやすいのは確かです。

その中でとびきりの名演を選ぶということになれば、録音は古いですがヘンリク・シェリング盤(ユニバーサルクラシック)ということになるでしょう。録音後すでに50年以上の歳月が経ちましたが、中でもパルティータ第3番はヘンリク・シェリングの独壇場です。

何よりも音に芯があって艶があり、音楽の美しさがストレートに伝わってくるのです!

中でもガヴォットの美しさは格別です!

シェリングは相当なデフォルメをしているのでしょうが、本質をしっかり掴んでいるために、まったく音楽が窮屈になることがありません。生き生きとした情感と無類のテクニックが合わさって、最上の音楽を創りあげているのです!

無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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