研ぎ澄まされ、輝きを放つバロック協奏曲 ヘンデル「合奏協奏曲作品6」③ 第9番〜第12番

ヘンデルの合奏協奏曲作品6の3回目です。
12曲のそれぞれの作品は、ヘンデルならではのフーガの輝きや迫力、ドラマチックで叙情的な魅力が結集した傑作揃いといえるでしょう。

オラトリオやオペラの間奏曲として使用された楽曲も多々あり、幕間をスムーズにつなげる重要な役割を果たしていたのかもしれませんね。

合奏協奏曲 第9番ヘ長調 HWV327

合奏協奏曲作品6の中で最もメリハリがあり、壮麗で典雅なメッセージ性に富むヘンデルらしい魅力に満ちた作品と言っていいでしょう!

聴きどころ

第2曲アレグロ

舞曲風のリズムをテーマにした陽気でエネルギッシュなアレグロは生き生きとしたドラマを展開していきます。驚くのは長調から短調への転調の自然さとシンプルなテーマから音楽が発展し、輝きを増してくるところでしょうか…。

第3曲ラルゲット

あふれるような悲しみを音楽に託しながら、悲しみという範疇を突き抜けた至高の音楽です。深い哀しみを描いた曲なのに不思議と心慰められるのは何故なのでしょう?

おそらく人の心の普遍的な感性に通じるものがあるからなのかもしれません……。

第4曲アレグロ・第6曲ジーグ

第4曲の壮麗なフーガも見事ですし、第5曲の神秘的な和音や第6曲の広々としたジーグの魅力もなかなかのものです。

第6曲の広々としたジーグの魅力もなかなかのものです。

オススメ演奏

リヒター=ミュンヘンバッハ管弦楽団

Karl Richter(1926-1981)

この曲はリヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団の独壇場です。

第2楽章アレグロのメリハリの効いた自在な表情!ラルゲットの曲にひたすら没入する深い哀しみの表現。毅然として格調高いフーガ!晴朗でいて味わいが深い終曲ジーグ等々……。

リヒターの表現はこの曲の魅力を最大限に描き出してやみません! 合奏協奏曲作品6の演奏にしては少々重たすぎるのではという懸念はこの曲に関する限りまったくあてはまりません。

むしろ、ここまで曲の意味を抉り出し、透徹した響きを生み出したリヒターに拍手を送りたいくらいです。まさに第9番の唯一無二の演奏と言っていいのではないでしょうか。

合奏協奏曲 第10番ニ短調 HWV328

聴きどころ

非常に充実した作品です。

強靭な精神性と音の塊の中に次々と意味深い主題やメロディが現れます。

息もつけぬほど密度の濃い響きの連続に心が大きく揺さぶられますね。孤高で厳しい表情は深まる秋の憂愁や冬の冷たい空気を伝えるかのようです。

しかし、曲の内面では絶えず熱い炎が燃え上がっているのです!

第2曲アレグロ

厳しく悲壮な情感を持ったフーガですが、力強く前進するエネルギーに満ち満ちています!

第4曲アレグロ

第2曲同様に悲しみを振り切りながら、なりふり構わず前進する力強いフーガです。

第6曲アレグロ・モデラート

面白いのがフィナーレのアレグロ・モデラートです。

それまでの緊迫した雰囲気とはまったく違う晴朗で明るい主題なのです。正直なところ、この違いに困惑してしまう方は多いのではないでしょうか? 

しかしこのような形で曲を終わらせたヘンデルの意図は意外と深いものなのかもしれません……。

オススメ演奏

ヴェンツィンガー=バーゼルスコラカントルーム

August wenzinger(1905-1996)

前回同様、廃盤のためオススメするのは心苦しいのですが、とりあえずヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームの演奏をあげておきます。

どこにもデフォルメしたり、無理に力を加えたような雰囲気がないのに、あふれる音楽性、深い意味、自然な呼吸。その芸術性の高さにすっかり魅了されてしまいます。

どこをとってもこの曲で考え得る限りの最高の味わいを堪能させてくれる演奏と言っていいでしょう。

リヒター=ミュンヘンバッハ管弦楽団

フィナーレのアレグロ・モデラートがリヒターの音楽性や造型との多少の違和感がありますが、他は最高です。

特に第2曲、第4曲、第5曲の緊張感と強い意志を感じさせる有機的な響きは圧巻です!

合奏協奏曲 第11番イ長調 HWV329

聴きどころ

みずみずしい抒情にあふれ、機知に富んだ楽しい曲です。

第1曲のご機嫌なテーマとリズム。第3楽章ラルゲットの小鳥のさえずりや雲の流れに心を寄せる叙情的で美しいメロディ……。透明感が光るフィナーレ。豊かな音楽が延々と続き、心癒してくれます。

第1曲アンダンテラルゲット

愛嬌を振りまくように親しく語りかけるテーマが印象に残りますね…。展開部ではソロヴァイオリンと合奏の緩急の変化が曲を多彩に発展させ盛り上げていきます。

フィナーレのアレグロ

澄みきった青空を無限に飛翔するような自由なメロディと快適なテンポが最高です!

オススメ演奏

オルフェウス室内管弦楽団

Orpheus Chamber Orchestra

オルフェウス室内管弦楽団はしなやかでみずみずしい弦の響きや柔らかくリズミカルな合奏がこの作品にピッタリです。

第3楽章ラルゲットの叙情的な美しさこそ、オルフェウスのセンスと情感が光った最高の演奏でしょう。

 

かヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームあたりがベストかと思います。

この曲は第4楽章のラルゲットとフィナーレのアレグロが曲の印象を大きく左右します。その点で前記2盤は他を大きく引き離しているのです。

合奏協奏曲 第12番ロ短調 HWV330

聴きどころ

この作品は全12曲の中では比較的馴染みが薄く、特徴が弱いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、この作品独自の魅力は充分に備わっています! 

第1曲のプレリュードは魂の孤独を切々と訴える深遠な音楽です。

第2曲アレグロ

ヴィヴァルディの協奏曲のメロディによく似ていますが、中間部での目眩く展開される心の嵐が凄く、激しい慟哭をも感じさせます。

第5曲アレグロ

飾り気を排除した身の引き締まるようなフーガ。一点から次第に発展していく音楽が見事です。

オススメ演奏

オルフェウス室内管弦楽団

オルフェウス室内管弦楽団の研ぎ澄まされたアンサンブルが最高に力を発揮した作品です。

とにかく弦のしなやかさ、音楽性の高さ、無駄のない造型に唸ってしまいます。素晴らしい録音がそれに輪をかけます!

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