あふれる木管楽器の魅力
ピアノ協奏曲第17番K453はモーツァルトがピアニストしてウィーンで一世を風靡していた頃の作品です。
もともと木管楽器の使い方の上手さに定評があるモーツァルトですが、この作品での最高のセンスと絶妙な表現には啞然とします!
たとえば第一楽章の序奏部分ですね。
随所で微笑むように響き渡るファゴット、オーボエ、フルート、クラリネット等の響きはまるで癒やしの響き、鳥や虫たちの自然の語らいのようにも聞こえるから不思議です……。
このことがK.453の作品全体にくつろいだ雰囲気を漂わせているといえるでしょう。
穏やかで懐かしさを湛えたファゴットやフルート、クラリネットなどの牧歌的な響きは、透明感のある弦の響きと相まって爽やかな風が吹いてくるような印象さえ受けるのです。
深く柔らかいピアノのモノローグ
管楽器の構成や響きが魅力的なK.453ですが、もちろんピアノの魅力は尽きるところがありません。
K.453でのピアノはまるで口笛を吹きながら野山を駆け巡るような趣きさえありますね。奔放で純粋無垢なピアノに寄り添い、優しくささやきかける弦の響き!
第二楽章のモノローグのようなピアノの調べは感情の赴くがままに書かれていますが、モーツァルトの感性が秀でているためか、少しも音楽が窮屈になっていません。
中間部での悲しみに沈む表情も、孤独に苛まれる苦痛も……、あどけない笑顔も、それらはすべて透明な真珠の輝きのようにキラキラと光を放ち、天上に昇華されていくのです。
溢れんばかりの感性と表現の幅の広さ、それを高い次元で作り上げるモーツァルトの音楽性は見事というしかありません。
こんな音楽を書ける人はモーツァルトしかいないでしょうね……。
聴きどころ
ピアノ協奏曲第17番K.453は、モーツァルトがウィーンで作曲したピアノ協奏曲第14番〜第19番の中の一曲。
ウイーンの聴衆が聞きやすくわかりやすいメロディや主題を使った、いわば聴衆受けする作品群のひとつと言われています。それにしても全編にあふれる無垢な微笑みや即興的な愉しさ、豊かな感情の表出はモーツァルト以外のなにものでもありません!
第1楽章 Allegro
ピアノの柔軟で奔放なメロディ、リズミカルで楽しげな表情は思わず口ずさんでしまうほど。それに寄り添う弦楽器の優しい表情、牧歌的な木管楽器の響きが音楽に彩りを添える。
まさにモーツァルトの音楽性のベストパフォーマンスといえるのではないだろうか!
第2楽章 Andante
ピアノによるモノローグがひときわ印象的。
悲しみや孤独、そしてそれを忘れさせるような微笑み……。ピアノの調べは一小節ごとに表情を変えながら心に語りかけてくる。
第3楽章 Allegretto–Presto
軽快で躍動的なフィナーレ。
いかなるときも微笑みを忘れないモーツァルトのモットーがこの楽章でも一貫して流れている。ピアノと弦、木管楽器の多彩な響きから放たれる光と影、色彩的な温もりが何ともいえない。
オススメ演奏
アンドレ・プレヴィン(ピアノ・指揮)ウィーンフィル
くつろいだ雰囲気と明るく色彩的な響きがそこかしこに感じられる名演奏です!
しなやかで流麗なプレヴィンのピアノとウィーンフィルのコクのある美しい響きが最高の状態で出会い、ブレンドされた素晴らしい演奏ですね!
プレヴィン自身も楽しんで弾いているのが伝わってきて何ともうれしくなります。リズミカルで流れるようなアーティキュレーションの冴えが心地いいです。
エヴァ・ポブウォツカ (P)ヤン・スタニェンダ指揮NFMレオポルディヌム管弦楽団
これは素晴らしい演奏ですね! 特にポブウォツカの自在で流れるようなピアノの響きに心奪われてしまいます。
しかもその演奏には絶えず豊かな表情があり、光と陰のコントラストも、ユーモアもある……。まさにモーツァルトにうってつけの演奏と言ってもいいのではないでしょうか。
グリーグの叙情小曲集などでロマンの香りを伝えてくれた彼女の音楽性を改めて実感させられました。
スタニェンダの指揮もピアノにしっかりつけながら、音楽の喜びを充分に堪能させてくれます。
マレイ・ペライア(ピアノ・指揮)イギリス室内管弦楽団
1970年代後半にペライアがイギリス室内管弦楽団と組んだモーツァルトのピアノ協奏曲シリーズのひとつです。
ペライアのモーツァルトはピアノのデリケートな響きが特に魅力的ですね。K.453も充分に音楽を堪能できるでしょう。オケともども微笑みと愉しさが同居する軽快な演奏スタイルが健在です。