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愛らしく無垢なピアノソナタ
この作品はピアノの練習曲として大変有名ですが、愛らしく美しいメロディが宝石のように散りばめられた紛れもない傑作です。
ピアノを学習する人たちが、音楽の魅力を存分に味わいながらレッスンに励めるような配慮がなされていて、改めてモーツァルトの見識の高さを感じますね!
さて、K.545は初心者のレッスン用と銘打たれています。
しかし、それはあくまでもテクニックの観点からとらえた場合にのみ適用できる言葉であって、作品の内容、音楽性はとてもそんな簡単なものではありません。
曲の本質を表現しようとすればするほど、真意をくみとる難しさに気づかされるし、モーツァルトは何という曲を作ったのだろうと唖然とするしかないのです……。
この作品は借金の返済に追われるなど、経済的に最も困窮していた時期に書かれた作品でもあると言われています…。
しかし、モーツァルトの音楽から聴こえてくるのは微笑みに満ちた愛らしい音楽で、暗い影を微塵も感じさせません。
やはり彼の音楽は私たちを無条件で幸福にしてくれる天性の音楽家だったのかもしれません…。
澄み切った魂が垣間見られる
まず、有名な第1楽章の主題の流れるような美しさと無垢な音楽の表情にいっぺんに虜になってしまいますね。
中でも、中間部のト短調からニ短調、イ短調からヘ長調へと移行する虹の階段を昇るかのような音色の変化が素晴らしく、涙と微笑みが交錯する印象的な旋律が次々と繰り出されます!
この部分はモーツァルトでしか書けない音楽でしょうし、彼一流の感性が光った瞬間といえるでしょうね。
第2楽章は足早に淡々と音楽が流れていきます。けれども、その中にどれほど無限のニュアンスが込められているのでしょうか…。
自分の内面を見つめるような音楽の深い味わいははかりしれません。
ちょっと聴いただけだと、平和な音楽のように聴こえますが、モーツァルトの澄み切った魂が垣間見えます。弾き方によって音楽は一変すると言ってもいいでしょう。
第3楽章ロンドも可愛らしいという表現がピッタリの無垢な音楽ですが、そういえば最後のピアノ協奏曲27番ロンドでも同様の可愛らしい主題の音楽を作っていたことが思い出されます。
聴きどころ
第1楽章・Allegro
ピアノ練習曲としてあまりにも有名なメロディ!遊び心にあふれ、気品も充分の第1主題が印象的。
中間部での心の揺らぎと涙と微笑みが交錯する部分は一度聴いたら忘れられない。
第2楽章・Andante
平穏なメロディの中に自己の内面を見つめるようなデリカシーと優しさが拡がる!
第3楽章・Rondo – Allegretto
たどたどしい主題はまるで幼児の無垢な微笑みのよう! 透明感あふれる主題はいつまでも心に刻み込まれる…。
オススメ演奏
演奏は決して難しくありませんが、魅力を充分に伝える演奏となるとお勧めできる録音はかなり限られてくるのが残念です。
リリー・クラウス(ピアノ)(CBS)
中でも素晴らしいのがリリー・クラウスが弾いたCBS盤です。
音がやせたり、繊細にならないのはもちろん、モーツァルトの多様な音色の変化や即興的な閃きを自在に表現しているとろがクラウスならではです。
造形もしっかりしていますし、情緒に溺れず、音楽の深い感情を汲みとった格調高いモーツァルトを堪能できるのです!