
北欧の澄み切った空気が漂う

シベリウスの交響曲第6番は、透明感のある響きと独特の抒情性を持つ作品です。おそらくシベリウスの交響曲を初めて聴く人は、「世の中にはこんな交響曲があるのか…」と驚きを隠せないことでしょう。
チャイコフスキーやブラームスのような後期ロマン派の作曲家や、同時代の他の交響曲とは明らかに一線を画す唯一無二の魅力がありますよね。
この交響曲も、作曲者自身が「清らかな泉の水のような」音楽と表現したように、華やかさよりも内省的で澄んだ美しさが際立っていますね。
全体として、この交響曲は劇的な展開よりも、自然の移ろいや人間の内面的な静けさに寄り添う作品です。その静謐さの中にある奥深い情感が、多くの人を惹きつけているのは間違いありません。
派手さはないが、滋味にあふれる

第1楽章で聴かれる静謐で神秘的な響きは、ドリア旋法を基調とした独特の和声が、浮遊感と清冽さを生み出しています。ドリア旋法とは、簡単に言うと「少しマイナーな雰囲気を持つ音階」のことです。
中世の教会旋法の一つで、現代の音楽理論でも使われるスケール(音階)です。短調のような響きだが、明るさもあるのが特徴といえるでしょう。
この作品でもシベリウス特有の北欧的な自然観が色濃く反映されていますね。雪や風、大気の流れのようにも感じられ、時には森の静寂を想起させます。
簡素ながら深みのある構成が印象的で、派手なクライマックスを排し、流れるような音楽の中に深い感情の動きや人間の内省の声を織り込んでいるといえるでしょう。
聴きどころ
第1楽章 Allegro molto moderato
神秘的で寂寥感漂う序奏と、北欧ならではの透明感を思わせる弦をはじめ、木管などのみずみずしい楽器の響きに心奪われる。次々と展開する経過句やメルヘンのような主題の新鮮なメロディに思わずワクワクドキドキ!
こんなに個性的で、何度聴いても飽きない楽曲を生み出すシベリウスの唯一無二の才能には頭が下がるばかり……。
第2楽章 Allegretto moderato – Poco con moto
第2楽章も実に個性的。夢の中を彷徨うような柔らかい音楽。
木管の繊細なフレーズと弦の静かな動きが絡み合い、深い叡智の声がこだまし、幻想的な雰囲気を醸し出す。
第3楽章 Poco vivace
軽快ながらもどこか謎めいたスケルツォ的楽章。跳ねるようなリズムと、霧が立ち込めるような響きが実に印象的だ。
第4楽章 Allegro molto – Doppio piu lento
明確なクライマックスを持たず、徐々に消え入るような終結。穏やかながらも内なる情熱を秘めた旋律が展開され、最後は余韻を残しながら静かに幕を閉じる。
オススメ演奏
パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキフィル
これは圧倒的な名演奏ですね! 何と言っても指揮のベルグルンドと、ヘルシンキフィルのメンバーたちが本質を深く理解し、共感していることが作品の隅々から伝わってきます。
第1楽章の序奏からして、すでに北欧特有の冷たい空気があたり一面に浮遊しているのに気づかされることでしょう……。しかしその冷たさは、やがて自然の叡智を浮かび上がらせ、心の声へとつながっていくのです。
次々と繰り出される主題の楽しさ、美しさを最も体現しているのがこの演奏といっても過言ではありません。みずみずしい弦の響きや、表情豊かな木管楽器の音色に思わず引き込まれてしまいます。