まれに見る美しきヴィーナスの肖像 ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』

目次

今や定番絵画の代表

いつからなのでしょうか?

この絵のヴィーナスが、まるで永遠のヴィーナス像のステータスシンボルのように扱われはじめたのは……。

ラファエロのヴィーナスより親しみやすく、アングルのヴィーナスより清楚で健康的、ティントレットのヴィーナスより夢を与えてくれる……。

こんなヴィーナスは他にありません。

ジッと見ていても、その優しげで可愛らしい表情に魅せられてしまいますね……。

ここには私たちがヴィーナスに求める理想のイメージが詰まっているのです!

素晴らしい演出効果

この絵を西洋絵画の中でも、類がないほど美しい絵に仕上げている要因に抜群の演出効果があります。

素晴らしい構図

まずは構図です。

ヴィーナスをセンターにして、左右に性格の異なる神々や世界を配置していることが絵に安定感と変化を同時にもたらしているのです。

安定という意味では主役のヴィーナスを中心に、左右に分ける「三分割法」をとりいれていて、まるで構図のお手本のような見事さです。

さらにヴィーナスを主軸にして左側の西風の神ゼフロスと花の女神フローラ、右側の時の女神ホーラが見事な三角形構図を描き出し、より強固な安定の形を生み出しているのです。

「三分割」と「三角形」を基調にした構図

それだけではありません。

この絵が他のルネッサンス絵画に比べると決定的に違うところがあります。

それはあらゆる部分に遊びの要素をとり入れているところです。

それによって伝統的なルネッサンス絵画の慣習から抜け出すことに成功しているのです。

ゆるやかになびく風

まずは、ゆるやかになびく風です。

ヴィーナスの髪は風になびき、美しいウエーブを描いていますね。

ヴィーナスの誕生を祝福するために、風を引き起こすゼフロスと花を蒔くフローラ。足もとには風に舞う花々……。

ヴィーナスに布を掛けようとするホーラなど、いずれもゆるやかな風の流れが独特の甘美な世界を生み出しているのに気がつくのです。

動きのあるポーズ

そして動きのあるポーズです。

ヴィーナスがいくぶん身体をねじらせ気味にするポーズ……。

ヴィーナスが直立不動の体勢だったら、この絵がこれほどの魅力を獲得することはなかったでしょう。美しいカーブやゆるやかな動きを与えることで柔らかさが生まれますし、自然にヴィーナスに眼が引き寄せられるようになるのです。

ぜフロスとフローラ、ホーラも計算されたポージングでヴィーナスを引き立てることに大いに貢献しています。

メディチ家の手厚い保護のもとで

ボッティチェリが活躍した時代はローマ教皇庁の力が強く、禁欲的な空気が漂っていました。しかし、彼の絵は当時としては珍しく破格の自由な表現を成し遂げています。

これを内外で支えたのが、当時のイタリアの財閥メディチ家の存在でした。

芸術家にとってパトロンの存在は大きいものです。

画家はいつも傑作をものに出来るとは限りません。ましてや強いポリシーを抱いている画家が、売れる絵をコンスタントに描けるとは到底考えられないのです。

ですから芸術の質を低下させない上でも、精神的、経済的な支援を惜しまないパトロンの存在は実に大きいのです。苦境に立ったときにパトロンによって救われたという話は枚挙にいとまがありません…。

しかもメディチ家のように国に影響を与えるほどの強力なパトロンは、これ以上ないくらい心強い存在だったと言っていいでしょう。

最大の魅力、ヴィーナスの表情

「ヴィーナスの誕生」はいつ見ても、穏やかな神話の世界に観る者をスムーズに誘ってくれます。様式化されたタッチや色彩、柔軟性に富む絵のスタイルは当時としては斬新なものでした。

正統派の古典絵画というより、むしろ気が利いたモード系の絵画に分類されるのではないでしょうか。

よく見ると驚くほどのデフォルメを加えているのに、まったく不自然さがないのはボッティチェリの優れた感性の成せる技なのです。

何といっても魅力的なのはヴィーナスの美しい表情ですね。

思慮深く優しさに満ちたヴィーナスの表情はまさに「愛と美の女神」の象徴にふさわしく、誰からも愛される永遠の女性像を映し出しているかのようです。

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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