ナポレオンに翻弄された画家の歴史的大作!ダビッド「ナポレオンの戴冠式」

「ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠」ジャック=ルイ・ダヴィッド
●1805–07年●油彩●6.21m×9.79m ●ルーヴル美術館
目次

ルーブル屈指の巨大な絵

パリ・ルーブル美術館
名画の宝庫と言われるパリのルーブル美術館で、ひときわ目を引く絵画があります!
それがダビッド作「ナポレオン一世の戴冠式と皇紀ジョゼフィーヌの戴冠」です。この絵は絵として見るだけでなく、様々な観点から凄い絵なのでした!
何が凄いのかというと、ナポレオンの権力を誇示するかのように描かれた仰ぎ見るような壮大なテーマと絵の大きさです!
横が約10メートル弱で縦が約6メートル30センチもあるというのですから、その大きさに唖然としてしまいます!?
ダビッドもこの絵を完成させるのに3年がかりだったと言われていますから、その強い意気込みと苦労のほどが伺えるようです……。
FR Society 16: The Coronation of Napoleon

FR Society 16: The Coronation of Napoleon / francisco_osorio


実物の人間に近いサイズで描かれているという群像が醸し出す迫力に圧倒されます。
誰しもこの絵を目にすれば、そのスケールの大きさに息をのむことでしょう……。これはルーブル美術館の中でも屈指の巨大な絵なのです。

歴史的な瞬間を描いた貴重な絵画!

演出が加えられた絵

これはフランスの歴史に刻まれる「ナポレオンの戴冠式」の様子を描いた絵であることが貴重ですし、その価値を高めている要因になっているのも事実なのです。
当時はカメラなどありませんので、歴史の重大な一コマを残すにはダヴィッドのような実力派の画家が重宝されたのは言うまでもありません。
この絵はいたるところに演出が加えられていることでも有名です。


たとえば本来ならば皇帝の戴冠式なのですから、ローマ教皇からナポレオンに冠が授けられるのが筋でしょう……。
しかしよく見ると戴冠しているのはローマ教皇ではなく、何とナポレオンではないですか!? 
しかも冠を授けようとしているのは妻のジョゼフィーヌですね……。
つまりナポレオンはいかに皇帝としての権威が絶対的であって、それに対してはローマ教皇といえども口が出せないということを絵でアピールしたかったのでしょう。
ジョゼフィーヌもこの時40過ぎだったといいますが、若い乙女のように描かれているし、ナポレンにしても細身で凜々しい姿に描かれています。

周囲との関係性が見え隠れする絵

気になるのは、ナポレオンの後方に座るローマ教皇をはじめとするローマ教皇庁の人々の一様に蔑んだような表情ですね……。明らかに身内や家臣との表情とは対照的です。
ナポレオンから様々な注文を要求され、画家としてのプライドを傷つけられていたダビッドのせめてもの抵抗だったのでしょうか……。
いや、もしかしたら「無表情な顔に描くように」というナポレオンからの強い要望があったのかもしれません。
または政治にたずさわり、運動家でもあったダビッドが教皇庁に思い抱いていたイメージなのでしょうか。
いずれにしてもナポレオンと教皇庁との関係はギクシャクしたものだったのは間違いないようです……。

ビクともしない構図と気品に溢れた絵


絵はどこをとっても充実しています。構図の見事さはその一つでしょう。
宮殿の構内を画面の上部いっぱいにまで拡げ、人物を下方に配置して整然とした雰囲気を創り出しています。
特に柱や壁面の縦に伸びるラインと群衆を中心にした横のラインとの対比が見事なコントラストを作り、整然とした拡がりや厳かな雰囲気を生み出しているのです!

これによって戴冠式の壮大なスケールや得も言えぬ威厳と気品を強く印象づけているのは確かです。
また、整然と並んだ人々の姿を浮かび上がらせる厳かな光と影のコントラストも美しいですね。
まさにこの世紀の大イベントを完璧なほどドラマチックに演出しているのです。さすがにナポレオンもこの絵には最大限の賛辞を惜しまなかったといいます……。

お抱え画家としての苦悩

『ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト』ジャック=ルイ・ダヴィッド
●1801年●油彩●261cm×221cm●リュエイユ=マルメゾン

ナポレオンの首席画家であったため、ダビッドがナポレオンを描いた絵は数多くあるのですが、中でも有名なのは1801年作の馬に乗ったナポレオン像でしょう。

これはナポレオンの英雄的なイメージをひときわ印象づける絵ですね。

そして「ナポレオンてどういう人?」と聞かれたら、この絵のイメージを思い浮かべる人も少なくないかもしれません

ナポレオンは自分に似た絵を描いてほしいとは少しも思わなかったようです。肖像画は外面の顔かたちではなく、人格を表現しなけれならない(なかなか難しいことを言いますね)と考えていたからだそうですね…。

ですからモデルになるのも徹底的に嫌がりました。

ダビッドはこの絵を制作するためにナポレオンにモデルを依頼したようですが、長時間座ることを拒絶され不機嫌になったために、結局はあきらめてナポレオンの理想像を描くはめになったのです。

そうして出来上がったのは5枚の連作になるナポレオンの絵でした。

今にも走り出そうとする馬の上でポーズをとるこの絵は、明らかにプロパガンダ的な匂いがプンプンですし、嫌う人はとことん嫌うのでしょうね。

でも馬の力感、躍動感、風になびく鬣、そしてドラマチックで力強さがあふれる絵の雰囲気はさすがダビッドです!

ナポレオンの失脚とともに居場所を失い、ベルギーヘの亡命を余儀なくされたダビッドですが、ナポレオンとの出会いは彼にとって幸福な時だったのかもしれません。

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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