旋律、リズム、調和。音楽的体感が伝わる絵!クレー「パルナッソスへ」

パウル・クレー『パルナッソスへ』1932年・ベルン美術館

 

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音楽的感性が絵に結実

バウハウスで教鞭をとったクレー(写真はモダニズム建築の代表作として世界中に有名なドイツ・デッサウ校)

 

かつて音楽を絵のモチーフにしたり、色彩のハーモニーを音楽になぞらえて描いた画家が少なからずいました。

カンディンスキー、デュフィ、ホイッスラーはいずれも音楽をテーマにした作品を残した画家と言えるでしょう。

ただし、カンディンスキーは音楽的なイメージを抽象的な視覚効果として表現した人ですし、デュフィは音楽の醸し出すイメージを色彩と形で表現し、ホイッスラーは色彩と形の音楽的な調和に美を見いだそうとした人でした。

いわば音楽を外側から感覚的に捉えて描いた人たちといえるかもしれません。

カンディンスキー『コンポジション8』1923年

デュフィ『クロード・ドビュッシー』1952年

そのような人たちに対して、パウル・クレーはもっと深く音の本質を身を持って絵画で掘り下げようとしたのでした。

クレーの両親はともに音楽家で、自身も小さいときからヴァイオリンに親しんだり、オーケストラに籍を置くなど、プロの音楽家としてもまったく遜色ない環境に身を置いていたのでした。

また絵や文学にも大変造詣が深く、バウハウスでも教鞭をとるなど、あらゆる面で芸術的感性に秀でていたのです。

クレーも前述の画家たち同様に音楽的な発想で絵を描いた人でした。ただし、カンディンスキーやデュフィらと決定的に違うところがあります。

それは音楽的なモチーフを目に見えるように表現することが目的なのではなく、音楽的体験そのものを心の動きや感情の起伏を織り交ぜて追体験することだったのです。

つまり音楽を実演する発想・感覚で、画面上にリズミカルな階調や調和の美を創りあげたのです。
それは共鳴、信頼、愛情、悠久の時、安定などのように様々なメッセージを喚起したり、人間の内面の世界を照らし出したのでした。 

リズムや階調が織りなすファンタジー

Paul Klee 1879-1940

 

クレーの代表作『パルナッソスへ』も音楽的なインスピレーションと調和を主軸に描かれた作品として有名です。

絵の上部に象徴的に置かれているのが、ギリシャ神話で言う音楽と詩の神アポロンとミューズの居住地であるパルナッソス山です。

この絵を見て驚くことがあります。

それは幾重にも描かれた様々な色彩の層やそれから構成されるグラデーションが、それぞれを見事に引き立てあって美しい調和を生み出していることです!

パウル・クレー『光と研ぎ』 1935年・ベルン

それは音楽で言うト短調かもしれないし、ト長調かもしれない……。また半音階下の嬰へ短調かもしれない…。まるで様々な音階とハーモニーが絶妙な組み合わせで成り立っているように色彩や形、リズムや階調が織り成す絶妙なバランスに心打たれるのです!

全体を貫く色彩の温かさと点描の矩形が形作る奥行き感はこの絵に独特の世界感を与えていることはもちろんですし、様々な要素が溶け合った美しさも伝わることでしょう! 

ピュアで温かな絵

パウル・クレー『忘れっぽい天使』1939年

一般的にクレーの絵は抽象絵画として位置づけされますが、抽象絵画にありがちな冷たさや距離感がありません。

それは彼の音楽的な感性やデリカシーが絵に自然に投影されていることもあげられますが、何といっても絵に対する純粋無垢な気持ちが大きいのでしょう。

クレーの絵はピュアで透明感にあふれており、飾り気のない表現が無理なく心に溶け込んでくるのです。

晩年はナチスドイツの不当な扱いに苦しんだり、皮膚が固まって指が動かなくなる難病に冒されたり……と決して恵まれたものではありませんでした。

そのような晩年の不遇の時代に描かれた『忘れっぽい天使』は子どもが描いた落書きか、わずかな線の一筆書きのようにも見えます。

しかし、限られた線の中にユーモアと哀愁を共存させたかのような大胆かつ繊細なこの絵は、見る人に様々な想いをめぐらせてくれる不思議な絵です。

クレーの絵は今も悩める多くの人の心の友であり、静かに微笑みかけるように私たちに語りかけてくるのです。

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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