ベートーヴェンの中期の傑作
ベートーヴェンの交響曲はとっつきにくいと思われてます。確かに演奏は難しいし、曲の本質を汲み取るのが大変なのも事実でしょう。
しかし、聴けば聴くほどにベートーヴェンの深い着想やインスピレーションには唸るしかないし、ただただ驚かされるばかりです。
そして全曲を聴き終わると、たとえようのない、大きな何かに包み込まれたような感覚が残るのもベートーヴェン独特の魅力なのです。
また、ベートーヴェンの素晴らしさは聴き込むほどに実感できるし、人生経験を重ねるたびに深まっていくとことも確かでしょう。
そんな傑作の森と言われるベートーヴェンの交響曲の中で最初にオススメしたいのが「交響曲第7番」です。
ベートーヴェンの交響曲第7番は、日本では数年前にテレビドラマ「のだめカンタービレ」で使用されてから一躍有名になった曲でした。
馴染みやすいメロディとリズム
実際、この交響曲はベートーヴェンの他の交響曲第5番「運命」や第3番「英雄」に比べると、音楽がリズムを刻みながらテンポ良く進行する感触があり、それが馴染みやすさを印象づけているのかもしれません。
第1楽章がトウッティ(すべての楽器が一斉に奏でられる)で開始されると、弦の上昇音階が奏でられる壮大な序奏部が続きます。すでにここで大自然の威容が眼前に拡がっていくのが伝わってきますね!
その直後にオーボエやフルートが小鳥のさえずりや柔らかな春の陽射しの到来を告げると、俄然心躍る自然との語らいがリズミカルに、そしてエネルギッシュに展開されていくのです。
第2楽章の悲劇的な主題も忘れられない余韻を残します。
第3楽章のプレストは第4楽章アレグロ・コン・ブリオの飛翔への序奏と言っていいかもしれません。激しいアタックと鋭いリズムが印象的ですが、その曲調は燃え上がる第4楽章のために、ウォーミングアップしながら「今か、今か」と待ち構えている兵士のようです。
「舞踏の神化」の真骨頂。アレグロ・コン・ブリオ
交響曲第7番は、オペラの巨人ワーグナーが「舞踏の神化」だと絶賛した作品です。
その特徴が最もよく表れているのが最終楽章のアレグロ・コン・ブリオですね。 確かに当時の古典派音楽の範疇を大きく超えた気迫と情熱が伝わってきます!
主題そのものはシンプルなのですが、曲が進むにつれて様々な形に展開され発展し、あっという間に熱狂と興奮を築いていく様子は見事というしかありません。
それは物理的な迫力や凄みだけではなく、強いエネルギーで求心力を結集しながら輝かしく曲を閉じていくのです!
当時としては、正統的な古典派スタイルを大いにねじ曲げた問題作だったのでしょう……。
しかし、この第4楽章は音楽理論では計れない素晴らしさがあるのは事実です。
こういう感性はクラシックファンだけでなく、ポップスファン、ロックファンにも大いに受け入れられるに違いないでしょう…。
ライブのクライバーの凄さを実感!
カルロス・クライバー(1930-2004)
父は世界的に有名な指揮者、エーリッヒ・クライバー(1890-1956)。カルロスが5歳の時に家族ともどもアルゼンチンに亡命する。音楽性は非常に豊かで、彼を20世紀最大級の天才指揮者と称する人もいる。
彼のレパートリーは狭く、自分が本当に納得する作を取り上げてきた。また、リハーサルに長い時間を費やして本番を完璧なものにするために余念がなかったという。
残された録音やライブは空前絶後の名演奏が多く、彼が公演を行うという情報が流れるとあっという間にチケットが売りきれるという現象が相次いだ。
特にヴェルディの「椿姫」、「オテロ」、ウェーバーの「魔弾の射手」、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」、リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」、ヨハン・シュトラウスの「こうもり」などオペラに名演奏が多く、ベートーヴェンの交響曲第7番、ブラームスの4番、シューベルトの未完成交響曲も天才的な感性が冴えわたる名演。
この交響曲第7番を演奏と録音を加味して選ぶならば、カルロス・クライバーが1982年にバイエルン国立管弦楽団を指揮したライブ演奏(orfeo)が絶対的にオススメです!
第1楽章から音楽がまったく滞ることなく、グングンと強い推進力を持って鳴り響きます。
特に素晴らしいのが第4楽章アレグロ・コン・ブリオです。
コーダに現れる低弦のチェロやコントラバスの深くえぐるような音響も凄いですが、最初から最後までオーケストラをコントロールする強い求心力は観客を興奮の嵐に巻き込んでいきます!
しなやかなのですが、強い意志力に貫かれたベートーヴェンです。これこそ、ベートーヴェンの神髄といっていいでしょう。