交響曲で最初にドラマを実現!
ベートーヴェンといえば、誰もがすぐに思い浮かべるのが、苦悩を突き抜け勝利の凱歌をあげる「ジャジャジャジャーン」の交響曲第5番「運命」ではないでしょうか!?
自然と人間の調和や語らいを謳い上げる交響曲第6番「田園」も魅力いっぱいですし、日本では既に年末の風物詩ともなった交響曲第9番「合唱」の壮大なスケールにも圧倒されますよね……。
ベートーヴェンにとって交響曲は、人生を賭けて創作する意義のある最重要なジャンルだったのでしょう。
ベートーヴェンが交響曲の作曲を始めた1800年はどのような時代だったかというと、交響曲ではハイドンやモーツァルトが到達した古典派様式が、もはやつけ入る余地がないほど完成の域に突入していたのでした。
それは残された9曲の圧倒的な充実度からも充分にうかがえます!
英雄への期待と失望
1789年、ヨーロッパの国の在り方を根底から揺るがす大事件が勃発します。それがフランス革命です。
安泰と思われてきた絶対的な国王の位置を、支配下にあった市民が奪い取った事件でした。その時から、市民が中心となった政治や社会が形作られていくのですが、治安や社会情勢は悪化する一方で、国政は混乱の極地に突入するのでした。
そうした中で登場してきたのがナポレオン・ボナパルト(1769~1821)でした。コルシカ島という辺境の出身ながら、自身の知恵と力のみでサクセスストーリーを現実にした一般市民にとっては、文字通り希望の星でした。
しかもナポレオンはフランス国内の不満を払拭するために、ヨーロッパの君主制が保たれていた国々との戦争に国民の意識を向けさせて革命後の混乱を収拾し、自らフランスの指導者の地位へ駆け上っていったのでした。
このようなナポレオンの姿は、フランス以外の一般市民にとっても英雄と映ったにちがいありません。
王侯貴族の横暴がまかり通る社会を変えたい、……そんな思いを抱く彼らにとって、フランス革命を救ったかのように見えるナポレオンは文字通りの「英雄」であり、彼を通じてヨーロッパ全土に「自由・平等・友愛」を謳う空気が出てきたのもの無理はなかったのです。
そのような状況下で生まれたのがベートーヴェンの「英雄交響曲」でした。
「自由・平等・友愛」の精神を絶対的に支持するベートーヴェンにとって、ナポレオンの存在は格好の作品のテーマとなったのかもしれませんね。
従来の交響曲の概念をはるかに超えた斬新な内容を持つこの作品は、最初はナポレオンに捧げることを念頭に「ボナパルト」という題名で創作が進められていたのでした。
しかし、ナポレオンが皇帝の座に就いたことを知ったベートーヴェンは「彼も所詮俗物だったのだ!」と激怒します。ナポレオンへの献辞やタイトルを、すべて削り取ってしまい、即座に「ある英雄への思い出に」へと変える決心をしたのでした。
仮にナポレオンヘ「英雄交響曲」がそのまま献呈されていたとしても、この作品の価値は少しも揺らぐことはなかったでしょう。
そもそも時勢や傾向、国民の意識によって左右される軟な作品ではありませんから‥‥。
スケール雄大、壮絶な響き
その傑作揃いの交響曲の大きな転機になったのは第2番なのですが
何が画期的なのかと言えば、
特に第1楽章で次々と展開される主題は精神的な高揚感を伴いつ
弾むように風を切って前進し、あたりの情景がみるみるうちに変化していく爽快感や気持ちよく音楽がグングン拡がっていくようすは格別で、胸が高鳴ってしょうがありません!
しかしそれ以上にメロディがどうとか、
「英雄交響曲」ではハイドン、
これは曲の形式にも表われています。通常ならば第二楽章でアンダ
第三楽章でもトリオあたりが妥当なところをスケルツォを採用する
「
聴きどころ
第1楽章・第1主題
第一楽章で冒頭のトゥッティによる二度の強奏から、ヒーロー像を表すテーマが奏されると、次第に勇壮な世界が浮かび上がってきます。
このとき音楽は点ではなく線となってみるみるうちに巨大なエネル
第1楽章・展開部
ひとつひとつの和音がこんなに深い意味を持って語りかけてくるこ
第2楽章・第1主題
第2楽章に葬送行進曲を置いたのはベートーヴェンにとっても大き
こんなに崇高で深い慟哭に満ちた音楽を作ることはベートー
第2楽章・展開部
一般的には葬送曲によって感傷的になったり、
第2楽章・第2フーガ
悲しみに沈む心が高い世界へ引き上げられる崇高なフーガです。
ベートーヴェンはチェロやコントラバスの多用、前衛的な不協和音の挿入など、
第3楽章スケルツォ
重厚な葬送行進曲の後だけに弾むようなリズ
まるで「天馬空を行く」
第4楽章・第1主題
第4楽章の変奏曲も音楽の常識からいって交響曲に採用されること
第4楽章・展開部
このフィナーレにはもはや迷いがありません。
オススメ演奏
演奏のほうに目を向けると、
ただし、
カール・シューリヒト指揮フランス国立放送管弦楽団
1963年のライブ録音ですが、カール・
しかもステレオ録音! 音も生々しくまるで会場で聴いているかのような錯覚にとらわれま
即興演奏で力を発揮するシューリヒトの面目躍如といったところで
シューリヒトがステレオで「英雄」
ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ルツェルン祝祭管弦楽団
Lucerne Festival Historic Performances: Wilhelm Furtwängler (Schumann: Manfred Overture & Symphony No. 4 – Beethoven: Symphony No. 3 ‘Eroica’)
演奏のみを考慮すれば、フルトヴェングラー指揮ルツェルン祝祭管弦楽団(1953年ライブ)がナンバーワンかもしれません。
とにかく響きが深いし、
ひとつだけ残念なのはモノーラルのために響きが浅くなって聴こえ
でも1953年ライブ演奏ということを考慮すれば、これはこれで優秀録音といえますね。