音楽は楽しくなければならない!?

「音楽は楽しくないと聴いていてつらい」。最近、このことを実感します。
仮に長調の明るめの曲でも、ピアニストやヴァイオリニストが感情移入していなかったり、指揮する人が無感動に淡々と進めていったら、こんなつまらないことはないでしょう……。
たとえアーティストのテクニックが凄いとか、センスが秀でているとかあったとしても、そんなことはいっさい関係ありません。同じ生身の人間として、時の流れを忘れさせてくれるような感動がほしいし、日常を忘れさせてくれるようなワクワクドキドキがほしいのです。
モーツァルトは、音楽は聴く人に喜びをもたらすべきだと常々考えていたようです。彼が書いた手紙には「人を楽しませることが作曲家の役割」などのような記述もあって、ときには堅苦しく難解な音楽に苦言を呈することもありました。
だからこそ晩年の悲惨な状況であっても、クラリネット協奏曲やクラリネット五重奏曲、ピアノ協奏曲第27番のような明るく澄み切った音楽が書けたのでしょうね……。
バッハの名曲を名アレンジで
ピアノを弾くラフマニノフ
最近聴いていて久々に耳に心地よく、身体が動き出しそうになる演奏がありました! それは、「ラフマニノフ:コレッリの主題による変奏曲/編曲集」というラフマニノフが大作曲家の作品をピアノにアレンジした作品集のアルバムです。
ラフマニノフは皆さんご存知のように、20世紀の大作曲家であり、超絶技巧の持ち主として泣く子も黙る名ピアニストですよね!
ピアノを弾いているのがロシアのピアニスト、エカテリーナ・メヘチナ。
このメヘチナ盤で特に素晴らしいと思ったのがバッハの3曲です。原曲は、バッハの「無伴奏ヴァイオリンパルティータ第3番」をピアノ音楽としてアレンジしたもの。ヴァイオリンの高音部にあたる音の輝きや、息をのむ展開のエキサイティングな流れは、さすがラフマニノフといえるでしょう!
ヴァイオリンの響きを絶妙なピアノの響きに置き換えたアレンジの素晴らしさはもちろんですが、メヘチナの型にはまらない柔軟で多様な表現力、充分にリズミカルでありながら、作品の魅力を心ゆくまで感じさせてくれる演奏は忘れられないものとなりました。
聴きどころ
プレリュード Prelude
バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータの作品集の中で最も楽しく、愛らしい作品なのがパルティータ第3番。特に有名なのがこのプレリュードとガボット。
自らも名ピアニストでもあったラフマニノフのアレンジは、ヴァイオリンの響きを上手くピアノの響きに置き換えていてセンス抜群ですね!
メヘチナのピアノも、水を得た魚のように自由自在、弾むようなリズムの快適さや、輝きに満ちた音の表情が移り変わっていくようすが圧巻です。
ガボット Gavotte
可愛らしい主題が印象的なガボット。一度聴いたら忘れられないメロディですね。
メヘチナの演奏は、主題の愛らしい表情をユーモラスなリズムの動きを込めながら弾いています。パートごとに音色を変え、時折スッと哀愁を漂わせる絶妙な変化が本当に見事。子守歌のように優しく語りかける演奏は一遍の抒情詩のようです。
Rachmaninov: Variations on a Theme of Corelli & Piano
「ラフマニノフ:コレッリの主題による変奏曲/編曲集」は、ラフマニノフ、バッハ、シューベルト、ビゼー、クライスラーなど、多彩な作曲家の作品をラフマニノフのアレンジ版(ピアノ曲)で構成したアルバム。それを弾いているのが才気あふれる女性ピアニスト、エカテリーナ・メヘチナなのです。
メヘチナは原曲の魅力をリスペクトしながら、自分の表現はこんな感じという、オリジナリティ豊かな演奏を繰り広げてくれます。
まさに通り一辺倒な表現ではなく、原曲に隠れた魅力を表現しようという強い意志が伝わってくるといえるでしょう。ぜひ気になる人は一度聴いてみる価値はあるのではないでしょうか!
メヘチナ・他のアルバム
ショパンのバラードを集めたアルバム。ロマンチックでありながら翳りの深い表情が最大の魅力。まさにショパンのバラードにふさわしく、雰囲気満点!

ドビュッシーのベルガマスク組曲を収録した2025年最新のライブアルバム。おおらかでダイナミックな表現と、光と影の陰影に満ちた表情に惹きつけられる。
有名な「月の光」のゆとりに満ちた表情といい、ベルガマスク組曲の新しい名盤と言っても決して過言ではない。