運命のいたずら・哀愁に満ちた美しい映像が胸に迫る。映画「シェルブールの雨傘」

1964年に公開されたジャック・ドゥミ監督の 『シェルブールの雨傘』。2023年の11月から12月にかけて約10年ぶりに日本で舞台上演が行われるそうですね。ちょっと楽しみです。

https://cherbourg-2023.jp/

この機会にオリジナルの映画の紹介をしていきましょう。

目次

全編のセリフを音楽で表現

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1964年5月、カンヌ国際映画祭で『シェルブールの雨傘』の公式上映を終えたカトリーヌ・ドヌーヴとアンヌ・ヴェルノン(Photo by Gilbert TOURTE/Gamma-Rapho via Getty Images)

 

「シェルブールの雨傘」は1964年に公開されたフランス映画です。

すでに公開から半世紀以上の年月が経過していますが、その存在感は今も色褪せません。

日本国内の映画館では、これまで何度もリバイバル上映がされてきました。このことからも改めて人気の高さがうかがえますね。

この映画を最初に観たときは衝撃でした。特に異彩を放っていたのが、全編に渡り音楽で表現されるセリフですね。

セリフはすべて音楽に託されているのですが、不思議と違和感がありません。 つまり高い次元で脚本、映像、音楽の調和がとれているからなのでしょう。

ひとことで言えばミュージカル映画というより、オペラ仕立てのミュージカル映画という表現もできるかもしれませんね。

もちろんブロードウェイミュージカルのように颯爽とした躍動感はありません。

それを補って余りあるのがプッチーニのオペラのような悲哀感が漂う詩的な雰囲気です。

オペラのような一種独特の芸術的ニュアンスを醸し出していて、他の映画にはない得がたい経験や満足感を味わうことができるでしょう。

もちろんオペラにはない洗練された味わい、フランス的な香りもいっぱいです。全編音楽がストーリーを彩る映画というのは例がありませんし、それに充分に見合う傑作なのです!

見事なオープニング

この映画で忘れてならないのはオープニングの素晴らしさでしょう!

映画の冒頭でシェルブール港の雨に霞む様子が映し出されます。するとすぐに画面はオープニングタイトルに切り替わって、雨が頭上から降り注ぐイメージになります。

有名な「シェルブールの雨傘」のテーマが流れる中を、道行く人たちが色とりどりの傘を拡げて画面を通過していくのです。

この場面は何度観ても見入ってしまいますね。

アイディアはもちろん、色彩や音楽、構図、雰囲気すべてがセンス満点、洒落た感覚が息づいた名場面の一つです。

主役は美しい映像と音楽

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シェルブールの雨傘のラストシーン

 

主役のカトリーヌ・ドヌーブは、当時その美しさで話題を集めました。しかし本当の主役は映像と音楽ではないでしょうか。

ジャック・ドゥミ監督の要求もあったのかもしれませんが、撮影を担当したジャン・ラビエのカメラワークは惚れ惚れするほどに美しく、この映画を甘美な世界に誘ってくれます。

おそらく当時はカラー映画が本格的に普及し始めた頃なのでしょう……。色彩は絵画のように豊かで美しく、深みのある映像が印象的でした。

そして忘れてならないのが全編に流れるミシェル・ルグランの音楽!

クラシカルでムード満点なテーマ音楽をはじめとして、途切れることなく全編に流れる音楽はルグランの才能の発露以外の何ものでもありません。

ある時はアップテンポなジャズ風、ボサノバ風であったり、またある時はバラード風。

そして切ない雰囲気や別れのシーンにはクラシカルなイメージを醸し出すなど、ルグランの音楽は変幻自在で、その才能はとどまるところを知りません……。

美しい映像とオペラのように場面を引き立てる音楽ゆえに、この映画は名画としての揺るぎない位置を確立したと言っても過言ではありません。

フランス映画黄金期の名作

20世紀の前半から中期のフランス映画は史上類を見ない黄金期だったといっていいでしょう。

特に1940年代から1960年代前半にかけての作品の充実度は目を見張るものがありました。

印象派の巨匠オーギュスト・ルノワールの息子のジャン・ルノワールや戦後のフランス映画界を背負ったマルセル・カルネ、サスペンスを撮らせたら右に出るものがいないアンリ・ジョルジュ・クルーゾー、ルイ・マル……。

文芸大作のルネ・クレマンを始め、ヌーヴェルバーグの俊英たちなど、かつてないほどに多彩な個性と才能がぶつかり合った時代だったのです。

そんな時代に誕生したシェルブールの雨傘。

監督をはじめとするスタッフの際立つ感性と映像美、音楽美が高い次元で融合されています。

他の映画にはないユニークな傑作として、フランス映画史に大きな足跡を残しているのは間違いありません。

現在のフランス映画に当時のような際立つ個性や存在感はありません。残念ですが、新しい感性や魅力を持った人材の出現を待つしかないのでしょう……。

映画予告編

Les Parapluies de Cherbourg from agence db on Vimeo.

 

DVD/CD

 


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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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