横顔の魅力が生きている
「あなたにとって魅力的だと思う肖像画は何?」と尋ねたら、意外と「読書する娘」をあげる人は多いかもしれませんね。
日常の一コマを切り取ったような女性の柔らかな姿態や本に見入る穏やかな表情が印象に残ります。とにかく知性と品格のバランスがよくとれた名画ですよね。
フラゴナール(1732ー1806)が活躍した時代は国王ルイ16世の統治下で、ルイ14世から続いた優雅で絢爛豪華なロココ文化が終焉を迎えようとする時代でした。
フラゴナールの作風にもそれを想わせる絵のアプローチが見え隠れしています。ロココ時代を代表する画家ブーシェ(1703ー1770)と、写実主義的で本質を見ようとする画家シャルダン(1699ー1779)。二人の巨匠に師事したフラゴナールは彼らの制作スタイルを自身の中でうまく調合し、時代の潮流にあわせるように画風も変化しているように感じます。
素早いタッチとデリケートな情感
絵画の歴史をひもといても横顔を描いた名画というのは意外に少なく(横顔自体が難しいということもあります)、それだけに「読書する娘」の価値は極めて高いといえるでしょう。
ぱっとみた感覚ではアカデミックで古典的な絵に見えますが、(もちろんそれは間違いではない)筆のタッチは実に奔放で迷いがなく、スピーディなことに驚かされます!
細部にこだわらない生き生きとした描写が、かえって臨場感やデリケートな情感も伝えるのかもしれません。
モデルの女性は画面を横切る手すりに左手を乗せながら、壁を背にして大きなクッションに背中を預けるように楽な姿勢で座っています。本を集中して読むには疲れないポーズだったのでしょうか……。絵のシチュエーションは18世紀貴族文化の優雅さを垣間見るような気がしますね。
安定感抜群の構図
絵の普遍的な価値は構図と配色で決定するともいわれます。
「読書する娘」が抜群の安定感を醸し出しているのは、三角形型の構図によるところが大きいでしょう。フラゴナールはその三角形を絵の中で巧みに配置しながら女性らしさや動きも表現しているです!
この絵に自然に目が引きつけられるのはピラミッド型構図の見事さはもちろん、動きをスムーズに連動させる巧みな図形の配置と誘導も忘れられません。上半身から腰にかけて連なるいくつかの三角形の構図は女性らしさや気品を決定づける要素にもなっているのです。
優しく柔らかな色調をベースにした見事な配色も女性らしさを演出する上で欠かせないものですよね。これからも時を超えて、フラゴナールが描いた女性像は目の前に座っているかのように生き生きとメッセージを語りかけてくることでしょう……。