シリアスなテーマがファンタジックな世界に! ルソー「眠るジプシー女」

『眠るジプシー女』アンリ・ルソー/1897年/油彩・カンヴァス/129.5cm × 200.7cm/ニューヨーク近代美術館

日曜画家から始まったルソーの画歴

「眠るジプシー女」。 皆さんはこの絵をどこかで目にした事があるのではないでしょうか?

おそらく中学か、高校あたりの美術の教科書にはこの絵が掲載されていますね……。「ちょっと不思議な絵柄が気になって仕方がなかった…」という方もいらっしゃることでしょう。

静まった夜の砂漠で、深い眠りに就いている女性にライオンが近づいているという光景なのですが、これが何とも不思議なんですよね。

ライオンは女性を襲うでもなく、愛犬が飼い主を心配するように、眠り込んでしまった女性を心配しているようにも見えるではないですか…!?

本来は恐怖におののくシリアスなテーマになるはずなのですが、ルソーの手にかかると一篇のポエジーと化するのです。

 

ルソーは特異な経歴の持ち主です。

彼は約20年間、フランス・パリの税関職員として務めていました。法律事務所に勤務していたこともあることから、絵を描くのはお堅い仕事の反動なのか……とも思ってしまいます。

美術学校でデッサンを学んだり、基本を習得する機会もなかったようですね…。ルソーはもともと絵が大好きで、仕事の合間に絵を描いていた「日曜画家」だったことから、「税関吏・ルソー」の通称で親しまれました。

ただし、ルソーが本格的に絵に没入するのは、税関を退職後のようです。

理屈は通用しないルソーの世界!

画家はクリエイティブな感覚を人一倍持ち合わなければならないと言われますが、そういう意味ではルソーは文句なしにクリエイティブな感覚の持ち主だったと断言できます。

バランスを取ろうとか、上手く描こうという小賢しい知恵やテクニックは彼の画風とは合わなかったし、実際少しも思ってなかったのかもしれません…。

そのため彼が描く絵は意外性や創造性にあふれているし、見る人を知らず知らずに引き込む力を持っているのです!

たとえば「夢」のように、ジャングルの絵を描いた一連の作品では、擬人化された特徴的な花や熱帯植物の生命力が際立つし、デフォルメされた形の面白さも目を惹きます!

ルソー《夢》1910年、ニューヨーク近代美術館

ちょっと見ているだけでもワクワクドキドキするし、私たちの想像力を大いに膨らませてくれますね!

ルソーの絵は理屈抜きに楽しめる絵が多く、観る者の心を童心に帰らせ、心を開く不思議な力を秘めてるようです。

しかし画壇の評価は決して高かったとは言えず、「日曜画家」とか、「素朴派」と親しみを込めて形容されるのは、結局ルソーを軽く見ている裏返しだったのでしょうね……。

 

シリアスなテーマなのにファンタジック!?

ファンタジックな魅力は、色調や形のとり方にも潜んでいます。

女性やライオンをはじめ、地面全体を覆うダークブラウンの温もりのある色調や深い藍色の夜空との対比の美しさは格別です。

これほど神秘的で、オリジナリティのある美しい色調を表現できる画家はなかなかいません。

そして装飾的なタッチの面白さです。

ライオンの鬣の流動感や、女性の衣服のリズミカルな色彩のパターンは、リアルでシリアスなイメージに陥ることから解き放っているのです。

複雑な形や曖昧な表現を一切使わず、デフォルメされた形の面白さを追求するルソーの芸術は、「創造」という原点に立ち返らせてくれる本当の芸術家の姿なのかもしれません。

 

 

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