神秘的な笑みの肖像画
この絵はいくぶんうつむき加減の女性を描いて印象的です。
ほぼデッサン画の集大成のような作品と言っても過言ではないでしょう!
物思いにふけっているのでしょうか……。それとも満ち足りた幸福を味わっているのでしょうか…。
まるで内面の世界を醸し出すような魅惑的な美しさ、神秘的な表情が何とも言えません。
それはちょうど『モナ・リザ』で神秘的な笑みを実現した熟達した表現そのままなのです。
究極のスフマート技法
皆さんはスフマートという絵の技法を聞いたことがあるでしょうか?
スフマートは線のタッチや筆の筆致、色面などの線や塗り跡をいっさい残しません。
つまりグラデーションのように繊細な陰影の幅をつけることで、肌の質感や柔らかな表情を生み出す技法なのです。
盛期ルネサンスの画家たちは好んでこの技法を使っていたようですね。中でもレオナルドのスフマートは究極の表現といってもいいでしょう。
この究極のスフマートは、この絵を魅力的にしている最大のポイントといえるでしょう!
空間に絵を描いている
この絵で素晴らしいと感じるのは多々ありますが、特に目を見張るのが空間意識が図抜けているところですね。
かすかな笑みを漂わせる丹念に描かれた顔の表情とは対照的に、風になびく髪のスピーディな描きなぐりようと、ときおり強烈なタッチを絡めた表現……。
それとわずかに量感を暗示したに過ぎない頭部の表現。とにかくポイントをしっかり抑えていて、無意味に描きすぎてないのです。
首を傾けることで絵に動きが与えられ、画面全体から開放感や空気が漂う感じが伝わってくるのです。
空間に描くという意識がないと、とてもこのような絵は描けないでしょう……。それがまたこの絵の大きな魅力でもあるのです。