今回は編曲、映画音楽やジャズなどで多彩な活躍が記憶に残るフランスの作曲家ミシェル・ルグランを取りあげてみたいと思います。
彼が2019年に世を去ってから、華やかで夢のひとときのようだった20世紀の記憶はすっかり過去のものになろうとしていますね……。
20世紀・洗練の代表
ミシェル・ルグラン(1932〜2019)
ミシェル・ルグランは言うまでもなく20世紀を代表するフランスの映画音楽作曲家、ジャズピアニストですね。
その才能は映画音楽にとどまらず、クラシック、ジャズ、フュージョンなどの多彩な音楽的要素を高いレベルで楽曲にとり入れて昇華させる人でした!
中でも1960年代に発表されたアルバムは一度聴いたら忘れられないナンバーが多いですね。
特にジャック・ドゥミ監督と組んだミュージカル映画の傑作、「シェルブールの雨傘」、「ロシュフォールの恋人たち」はルグランの音楽なしには考えられない作品で、スクリーンをひときわ美しく彩っていきます。
この2作品はフランスミュージカルの傑作アルバムとして今後も語り継がれていくでしょう。
印象に残る作品・アルバム
ルグランはアレンジャーとしてだけでなく、ジャズピアニストとしても抜群の才能を誇っていました。
また映画音楽の作曲家としては新機軸を打ち立てて、映画にとって音楽がどれほど重要なのかを体現して見せたのです。
I LOVE PARIS(1954)
アメリカのコロンビア社から1954年にリリースされた、ルグラン初期の代表作。
フランスの歌をオーケストラバージョンとしてアレンジした作品集で、「エレガントでムード満点のパリ」をものの見事に表現しています。アレンジの巧さも特筆すべきもの!
このアルバムは800万枚を超える大ヒットとなり、ルグランの国際的名声を一気に高めるきっかけとなったのでした。
Legrand Jazz(1958)
1958年、ルグランがジャズピアニストとして果敢に活動していた頃の歴史的名盤!
マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンスら、モダンジャズの巨星たちとのコラボが魅力的です!
いくぶんパリのエスプリを漂わせた軽妙なルグランの音楽が精彩を放っているとも言えるでしょう。
Paris Jazz Piano(1959)
ミシェル・ルグランとそのピアノ・トリオによる、パリのエスプリ満点の1959年作品。
パリにまつわる楽曲からセレクトされていて、思わず身体が動いてしまいそうな楽しさがあります。スタイリッシュで洗練された味わいも持ちあわせています。
5時から7時までのクレオ(1961)
●監督・脚本/アニエス・ヴァルダ
●製作/ジョルジュ・ド・ボールガール/カルロ・ポンティ
●出演/コリーヌ・マルシャン/アントワーヌ・ブルセイエ
●音楽/ミシェル・ルグラン
●撮影/ジャン・ラビエ
癌の疑いに怯える女性クレオが診断結果を待つまでの間、街をさまよったり、人との出会いを通じながら刻々と変化する心の葛藤を描き出しています。ルグランは劇中で『ピアニストのボブ』役として出演しました。
The Sound-Track Version
エヴァの匂い(1962)
●監督/ジョセフ・ロージー
●製作/ロベール・アキム/レイモン・アキム
●出演/ジャンヌ・モロー/スタンリー・ベイカー
●音楽/ミシェル・ルグラン
●撮影/ジャンニ・ディ・ベナンツォ
The Sound-Track Version
シェルブールの雨傘(1963)
●監督・脚本/ジャック・ドゥミ
●製作/マグ・ボダール
●出演/カトリーヌ・ドヌーヴ/ニーノ・カステルヌオーヴォ
●音楽/ミシェル・ルグラン
●撮影/ジャン・ラビエ
オペラのように全編に渡ってセリフは音楽に乗せて歌われ、
何を差し置いても忘れてならないのが全編に流れるミシェル・ルグランの音楽!
クラシカルなムード満点なテーマ音楽をはじめ、途切れることなく全編に流れる雰囲気抜群できめ細やかな音楽は、ルグランの才能以外の何ものでもありません。
ジャン・ラビエ撮影による美しい映像やカトリーヌ・ドヌーブの美しさも話題になった作品です。
The Sound-Track Version
ロシュフォールの恋人たち(1967)
●監督・脚本/ジャック・ドゥミ
●製作/マグ・ボダール
●出演/カトリーヌ・ドヌーヴ/フランソワーズ・ドルレアック/ジーン・ケリー
●音楽/ミシェル・ルグラン
●撮影/ギスラン・クロケ
ジャック・ドゥミ監督とルグランが名作「シェルブールの雨傘」に次いで組んだミュージカル映画。エレガントで色彩豊かなダンスシーンがブロードウェイとは一味違う魅力を伝えてくれます。
ルグランの音楽はますます快調で、キャストの性格やそれぞれのシーンを見事に描き出しています。
スタイリッシュなリズムの祭典や、エレガントな雰囲気、デリケートな情感の表出……。
音楽はいささかも理屈っぽくなく、空気のように身体に溶け込むようです!
ジャンルを超えたルグランの音楽のきらめき!それは純粋な音楽アルバムとしても聴く価値が充分ですね!
The Sound-Track Version
華麗なる賭け(1968)
●監督/ノーマン・ジュイソン
●脚本/アラン・R・トラストマン
●製作/ノーマン・ジュイソン
●出演/スティーブ・マックイーン/フェイ・ダナウェイ
●音楽/ミシェル・ルグラン
●撮影/ハスケル・ウェクスラー
スティーヴ・マックィーン主演による犯罪ロマンス映画。
ルグランはこの映画で、素材の編集に悩んでいたノーマン・ジュイソン監督に異例の提案をするのでした。
彼は5時間ほどの映像素材をひととおり見てから、「90分の音楽として作曲するから、それに合わせて編集してくれ」ということです!
ジュイソン監督はその提案を飲み、音楽に合わせて繋ぎ合わせる手法を取ったのでした。一般的にハリウッドでは撮影・編集後に作曲するのが通例であるため、このプロセスは異例中の異例と言えるでしょう!
テーマ音楽『風のささやき』は大ヒットし、翌年のアカデミー賞作曲賞を受賞しています。
The Sound-Track Version
おもいでの夏(1971)
●監督/ロバート・マリガン
●製作・脚本/ハーマン・ローチャー
●出演/ジェニファー・オニール/ゲーリー・グライムス
●音楽/ミシェル・ルグラン
●撮影/ロバート・サーティース
ベルサイユのばら(1979)
●原作/池田理代子
●監督/ジャック・ドゥミ
●製作/山本又一郎
●出演/カトリオーナ・マッコール/バリー・ストークス
●音楽/ミシェル・ルグラン
●撮影/ジャン・パンゼール
言うまでもなく宝塚歌劇団の定番演目にもなり、当時空前の大ブームを起こした池田理代子原作の漫画の実写版映画です!
ただし映画はドゥミ監督が担当したものですが、興業・内容ともに空振りに終わってしまいました。
ルグランの音楽は快調そのもので、テーマ音楽をはじめ全編を新鮮、華麗なイメージで彩っています。