詩的な雰囲気、息をのむ美しい映像と音楽 映画「シェルブールの雨傘」(1963年フランス)



全編セリフを音楽で表現

「シェルブールの雨傘」は1963年に公開されたフランス映画です。

すでに公開から半世紀以上の年月が経っているのですが、今もその存在は輝きを放っていて色褪せる様子がまったくありません。

2018年も国内各地の映画館でリバイバル上映されたようで、改めて人気のほどが伺えるようですね……。

 

この映画の特殊なところは全編に渡りセリフを音楽に乗せて歌うところでしょう。一言で言えばミュージカル映画なのですが、映画の性格からするとそうも言いきれないところもあります。

全編は4部構成になっていて、第一部(旅立ち)、第二部(不在)、第三部(帰還)、エピローグとなっています。

ミュージカル的な颯爽とした躍動感はないものの、プッチーニのオペラのような悲哀感が漂う要素もあり、ミュージカルとオペラを足して二で割った映画という言い方もできるでしょう。

それにしても全編音楽がストーリーを彩る映画というのは後にも先にも例がありませんし、それに充分に見合うだけの傑作です!

オープニングの見事さに脱帽!

そしてもう一つ忘れてならないのがオープニングの素晴らしさです!

最初にシェルブール港の雨に霞む様子が映し出されると、すぐさま画面はオープニングタイトルに切り替わり、雨が頭上から降り注ぐイメージになります。

すると有名な「シェルブールの雨傘」のテーマが流れる中を道行く人たちが色とりどりの傘を拡げて画面を通過していくのです。

この場面は何度観てもいいですね。

センス満点、洒落た感覚が息づいていて、映画にスムーズに入っていけそうです。アイディアはもちろん、色彩や音楽、構図、雰囲気すべてに渡り冴え渡っている名場面の一つです。

 

主役は美しい映像と音楽

Photo credit: dennisyuen on Visual hunt / CC BY-NC

の作品が代表作となったカトリーヌ・ドヌーブの美しさが当時話題を呼びました。しかし本当の主役は映像と音楽ではないでしょうか。

ジャック・ドゥミ監督の指示もあったのでしょうが、撮影を担当したジャン・ラビエのカメラワークは惚れ惚れするほどに美しく、この映画を別世界に誘ってくれます。

おそらく当時はカラー映画が本格的に普及し始めた頃でしょう……。色彩は絵画のように豊かで美しく、深みのある映像が印象的です。

そして忘れてならないのが全編に流れるミシェル・ルグランの音楽!

クラシカルでムード満点なテーマ音楽をはじめとして、途切れることなく全編に流れる音楽はルグランの才能の発露以外の何ものでもありません。

ある時はアップテンポなジャズ風、ボサノバ風であったり、またある時はバラード風、そしてしんみりした雰囲気にはクラシカルな楽曲を選ぶなどルグランの音楽は変幻自在で、その才能はとどまるところを知りません。

美しい映像とオペラのようにドラマティックに場面を引き立てる音楽があってこそ、この映画ははじめて名画としての地位を確立したと言っても過言ではありません。

 



フランス映画黄金期の名作

20世紀の前半から中期のフランス映画は史上類を見ない黄金期だったといっていいでしょう。

特に1940年代から1960年代前半にかけての作品の充実度は目を見張るものがありました。

印象派の巨匠オーギュスト・ルノワールの息子のジャン・ルノワールや戦後のフランス映画界を背負ったマルセル・カルネ、サスペンスを撮らせたら右に出るものがいないアンリ・ジョルジュ・クルーゾー、ルイ・マル……。

文芸大作の人ルネ・クレマンを始め、ヌーヴェルバーグの俊英たちも入り乱れてかつてないほどに多種多彩な個性と才能がぶつかり合った時代だったのです。

「シェルブールの雨傘」もクラシカルでモダン、そして監督をはじめとするスタッフの際立つ感性と映像美と音楽美が高い次元で融合された唯一無二の傑作としてフランス映画史に大きな足跡を残しています。

現在のフランス映画に当時のような際立つ個性や存在感はありません。残念ですが、新しい感性や魅力を持った人材の出現を待つしかないでしょう……。

Les Parapluies de Cherbourg from agence db on Vimeo.

 

 




 


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