宇宙の調和は抽象でなければ表現できない
絵から無くても困らないもの、無駄な要素をすべて取り除いていったとしたら……、最後はいったい何が残るのでしょうか…。
無謀とも思えるこのような試みを真剣に探求した人がいました。ピエト・モンドリアンです。
彼はアムステルダムの国立アカデミー卒業後にゴッホやスーラが描く点描画に強い共感を抱くようになります。このとき色彩の力を実感し、表現の可能性を探る上での大きな刺激となリます。
しかし、描くモチーフを幾何学形態に置き換えた創作をテーマにするピカソやブラックらのキュビスム絵画に出会ったときの衝撃はそれとは比べものにならない大きなものだったのでした。
モンドリアンの画風はこの頃を境に一気に抽象絵画へと向かうようになります。
しかしそれも後年の極めてシンプルな絵画へと移行する過程でしかなかったのでした…。
「宇宙の調和を絵画で表現しようと思えば、どこまでも単純明快になるだろうし、不要な線、色彩を排除していかなければならない」。
このようなポリシーのもとに、彼は年を追うごとに幾何学的で抽象的な表現を突き詰めていくようになります。
初期は抽象的なかたちの集合体で羅列されていたものが、晩年には「これは記号なのか……」と見間違うほどに一つ一つの事物に大きな意味を持たせるようになっていくのでした。
1920年頃からは黒い枠線と限られた色彩で構成された「コンポジション」がモンドリアンのスタイルとして定着するようになります。
「赤、青、黄のコンポジション」は、そのような中で育まれた彼自身における真実、秩序、ルールを構築する一つの理想の実現だったのかもしれません。
有機的な線と空間表現
あまりにも絵のスタイルを徹底したため、人によっては「何を描いても同じじゃないか…」とか、「パターンの組み替えを度々行っているだけ」とか揶揄する人も少なくなかったでしょう。
そのことゆえに深く傷つき、様々な苦悩を背負わざるえない状況に陥ったことは察して余りあります。
しかし絵画が漠然とした美の追求ではなく、混濁した様々な要素に何らかの意義づけをし、明確にメッセージを伝えるものであるとしたら、モンドリアンの制作コンセプトは充分に頷ますね…。
シンプルで力強い安定感のある黒い罫線や枠内に彩色された色彩からは絶妙なバランス感を保つとともに、優美で端正な空間が拡がっているのが分かりますね。
緊張感みなぎる線、色彩の適切な配列、面積の割合を変えることにより、様々なメッセージを伝達することが可能だということを如実に示した稀有な例と言えるかもしれません。
もはや絵画の領域というよりは、20世紀以降のデザインの色面分割・色面構成に充分に通じるものがありますね!
「真実のものは抽象的な表現からしか出てこない」という彼の理念とスタイルはデザインや建築等の様々な分野で多大な影響を与えています。
苦悩を抱えたモンドリアンの人生は、実は誰よりも先見の明を持った巨人だったのかもしれません…。