身を引くことは優しさであり、悲劇の始まりだった ヴェルディ「椿姫」

 

あらすじ

パリの社交界を虜にする高級娼ヴィオレッタは、ある日の宴で青年アルフレードからプロポーズされる。ヴィオレッタはその告白を受け入れ、社交界を離れ幸せな日々を送るようになる。

しかし娘の縁談に影響すると憂慮したアルフレードの父ジェロモンが、ヴィオレッタを訪ねて「結婚を取り下げてほしい」と頼み込む。

やむなくその忠告を受け入れたヴィオレッタは傷心の思いでアルフレードに別れの手紙を書き置きする。その後ヴィオレッタは再び社交界へ戻る。

肺病を患って病床に伏したヴィオレッタのもとにアルフレードとジェロモンが駆けつける。しかし時は既に遅かったのだった。

 

聴きどころ・見どころ

第一幕 

乾杯の歌 ヴィオレッタ、アルフレード、合唱 ◆ヴィオレッタとアルフレードが最初に出会った社交界の宴の場で賑やかに歌われる

第二幕 

ジェルモンがヴィオレッタにアルフレードとの結婚を諦め、身を引いてほしいと頼み込む場面

第三幕 

アリア「ヴィオレッタ さようなら、過ぎ去った日」 余命いくばくもないことを悟ったヴィオレッタが、病床で過ぎし日の思い出を歌う



オペラの絶対定番

Photo credit: GonzalezNovo on Visual hunt / CC BY-SA

昔も今も変わらない絶対的人気を誇るオペラと言えば、真っ先に浮かんでくるのがヴェルディの「椿姫」です。

チケットが販売されるとあっという間に完売するのが、「椿姫」という定説もあるくらいです。

それは本場イタリアに限ったことではなく、全世界的な現象らしいですね……。

恐るべし「椿姫」です!

 

何が人気なのかというと、幕ごとのメリハリある展開やオペラらしい華々しさに溢れていることは間違いありません。

第一幕の社交界の宴で催される生き生きとした歌の饗宴は最たるものでしょう!

でも、それだけではないのです。

主人公ヴィオレッタをはじめとする登場人物のデリケートな感性や深い情感が、いつしか舞台を包み込むのです。 

そして胸を締め付けるような悲劇的なストーリーが、見る者に強いメッセージを与えてくれるのです。

手に汗握るジェロモンとのやりとり

Photo credit: GonzalezNovo on Visualhunt.com / CC BY-SA

 

「椿姫」で印象的なシーンと言えば、第一幕の社交界の華やかなシーンで「乾杯の歌」を歌って大いに盛りあがる場面や、ラストでヴィオレッタが病に伏し悲しみに沈む場面が思い出されます。

しかし「椿姫」で絶対に忘れてならないのは、第二幕でアルフレードの父親ジェロモンがヴィオレッタに「結婚はなかったことにしてほしい」と勧告するシーンです。

特にこの場面はヴィオレッタとジェロモンの本音と本音がぶつかり合う声の饗宴が見事です。

当初ジェロモンは強引に結婚を解消させようと考えていたようです。しかしヴィオレッタの健気で優しい人柄を垣間見て、「どうかあなたから身を引いて欲しい」という心境に変わっていきます。

このあたりの二人の感情の推移や心理的な描写は圧倒的に素晴らしく、オペラの粋といってもいいでしょう!

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涙なくしては見られない第三幕

 

ストーリーの展開上、第三幕は悲しい結末で終わるということはわかっています。

悲劇のヒロインというオペラによくある結末なのですが、わかっているのに何故か涙があふれてきます。

特に病床に伏したヴィオレッタのアリア「さようなら、過ぎ去った日」は涙なくして見られません。

ヴィオレッタは社会通念からいえば汚れた身であるけれども、女性的な優しさと美しい心の持ち主という……このことが余計に胸を締めつけるのでしょう。

最期はヴィオレッタに深く感情移入している自分がいることを発見するのです……。

椿姫はオペラ史に清楚に咲き続ける「花」なのでしょう。

 

C・クライバーの絶対的名演

 

ヴェルディの「椿姫」というと真っ先に思い浮かぶのがカルロス・クライバー&バイエルン国立管弦楽団、コトルバス、ドミンゴ、他(ポリドール)です。

この演奏は1975年頃の録音ですが、今なお「椿姫」の決定版と言っても過言ではないでしょう。

クライバーの虚飾のないストレートでダイナミックな進行は気持ちが良く、「椿姫」の演奏スタイルにピッタリです!

音色は明るく透明感を湛えているのですが、決して単調にならず登場人物の心境に沿った表現が秀逸です。

コトルバスのヴィオレッタも表情豊かでヴィオレッタにふさわしい歌ですし、ドミンゴのアルフレードも素晴らしい歌声で魅了してくれます。

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