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心洗われる清らかな祈りとハーモニー
あっという間に11月も後半……。そしていつの間にかクリスマスの声が聞こえる季節となってまいりました。
今年は例年になく一年が早いですね。特別な一年であったことは間違いありませんし、時間の感覚がいつもとちょっと違います……。
今回はいつもと違うクリスマスにふさわしい音楽をご紹介したいと思います。それは20世紀のフランスの作曲家、モーリス・デュリュフレの『グレゴリオ聖歌による4つのモテット』です。
デュリュフレはオルガン作品をはじめとする声楽作品や宗教音楽を書いた作曲家で、作品数こそ多くはありませんが、その音楽は真摯な祈りや清新な味わいに満ちています。
デュリュフレという作曲家
デュリュフレといえば、現在では何といっても『レクイエム』が有名ですが、この作曲家を知るという意味では『4つのモテット』のほうがずっと親しみやすく、音楽に入りやすいかもしれませんね。
デュリュフレが活動した20世紀は不協和音をテーマにした前衛的な音楽手法がもてはやされた時代でした。
しかしデュリュフレ自身内向的だったということもありますが、彼は当時の芸術家たちが集ったサロンとはまったく無縁だったのでした。
けれども作曲家としてのピュアな精神性、実力は20世紀屈指の存在だし、オルガニストとしても20世紀最高峰というもっぱらの評判だったのです。
また彼はパリ音楽院の優れた教師でもありました。古代や中世の和声、グレゴリオ聖歌などの様式に誰よりも精通していて、それらを復活させるだけでなく、新しい音楽様式に自然に溶け込ませた声楽やオルガン曲のスタイルを作りあげたのです。
「グレゴリオ聖歌による4つのモテット」はタイトルどおり、全体は4曲で構成されていて、通して聴いてもせいぜい7~8分くらいの短い作品です。
しかもグレゴリオ聖歌をテーマにするくらいですからドラマチックな激しさや高揚感はありません。その代わり心洗われる静かな祈りや透明なハーモニーが音楽全体に充満しているのです。
聴きどころ
第1曲・Ubi caritas
前奏なしで始まる第一曲のUbi caritas
『いつくしみと愛のあるところ』は穏やかな祈りが空間にこだまする。合唱の優しく美しいハーモニーが余韻を残す。
『いつくしみと愛のあるところ』は穏やかな祈りが空間にこだまする。合唱の優しく美しいハーモニーが余韻を残す。
第2曲・Tota pulchra es
第二曲の『すべてに美しく』は女性パートが中心で、透明なハーモニーが絶品。
第3曲・Tu es Petrus
第三曲の『あなたはペテロである』は力強く、決然とした表情が印象的。
第4曲・Tantum ergo
第四曲の『かくも寛大な』は喜びや哀しみの感情が珠玉のように溶け合いながら、様々な表情を照らし出しつつ消え入るように曲を閉じていく……。
オススメ演奏
ゲイリー・グラーデン指揮、聖ヤコブ室内合唱団(BIS)
Durufle/requiem – デュリュフレ:レクイエム [Import]
演奏はゲイリー・グラーデン指揮、聖ヤコブ室内合唱団(BIS)が高い完成度と美しい響きで作品の魅力を心ゆくまで堪能させてくれます。
先ほど述べた透明感のある美しいハーモニーを、これほど実感させてくれる演奏は他にはないでしょう。心洗われるとは、このような演奏を指して言うべきなのかもしれません。
どれもこれも、クリスタルのような透明な響きが魅力的で、時の流れを忘れさせる豊かなハーモニーに魅了されることでしょう。