声の魅力は無限!
人間の声は不思議です。
同じ言葉を発したとしても、どのような想いで発するかによって伝わりかたがまるで違ってきます。
それは「ありがとう」と一言伝えるときでも、心からの想いがこもった「ありがとう」と、そうでない「ありがとう」では天地の差が出てしまいます。
それでは、人を威嚇する気持ちで声を張り上げたならばどうなるでしょうか?
おそらく誰もが耳を塞ぐような騒音になることでしょう……。しかもたちが悪いことに、投げやりで怒りに満ちた声は精神的なストレスや恐怖感まで人の心に植えつけてしまいます。
しかし、同じ声を張り上げるにしても、そこに確かな伝えたいメッセージや愛情が備わっていたならどうでしょうか?
おそらく得も言えぬ感動を受けたり、涙が溢れてくるかもしれません……。
声に込められた想いは人の心に深く浸透する慰めや癒しにもなれば、精神を破壊する凶器にもなりうるのです…。
もし「あなたにとって最高の楽器は何?」と聞かれたら、迷うことなく「人間の声」と即答するでしょう。
人の声は微妙なニュアンスや陰影、響きを楽器以上に自然にコントロールできますし、表現の幅や温もりも無限です。
それほど人間の声、特に合唱はフルオーケストラの甘美な響きさえ凌駕する唯一無二の魅力を持っているのです。究極の楽器と言ってもいいかもしれませんね。
そんな中、声の魅力に時間を忘れて共感し、堪能出来るCDに出会いました。
それがゲイリー・グラーデン指揮・聖ヤコブ室内合唱団が収録したアルバム「To the Field of Stars」です。
相手を尊重する言葉が基本 当たり前のことですが、一般的に人は会話を通じてコミュニケーションをとりますよね。 そのときに大切なのが言葉づかいです。 「言葉づかいで人柄なんて判断できるの!」とおっしゃる[…]
声が創り出すファンタジー
このアルバムは「旅と巡礼」をテーマとした楽曲を集めた2014年に録音されたオムニバス形式の声楽作品集です。
特にガブリエル・ジャクソン作曲のタイトルナンバー「To the Field of Stars 」は、巡礼者の街スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラからの心の旅路を声楽で綴っていきます。
これは人生の意味を見つけるべく、はてしない自分探しの旅に出るというテーマになっていて、音楽は心に寄り添うように流れていきます。
時空を超えるような無限の想いを歌うアカペラの合唱、チェロ、鐘の音色がなんと強く心に響きわたることでしょうか…。
全曲を通して聴いても約1時間少々。とにかく時間を忘れてしまうほど魅力的なアルバムです。これは声による心のメッセージと捉えていいかもしれません。
生命力と耀きに溢れたオープニングから、神聖な感化を受けるフィナーレに至るまで精緻で豊かな声の響きに一気に引き込まれることでしょう……。
エミリー・ディキンソン、ウォルト・ホイットマン、ウィリアム・カウパーら詩人たちの歌詞も、音楽に強いエネルギーを与えていきます。
クリスタルガラスの響きのように
このアルバムの芸術性を際立たせている要因としては、当然音楽の素晴らしさをあげなければならないでしょう。
しかしグラーデン指揮・聖ヤコブ室内合唱団の声の魅力抜きに、このアルバムを語ることはできません。
それほどこのアルバムの合唱は突出した素晴らしさなのです! 一般的な合唱団にあるような特有の癖は一切感じられませんし、作品に自然に溶け込むハーモニーの美しさや声の柔軟性には唖然とします。
テクニックもさることながら、その芸術性は特筆すべきものと言えるでしょう。
何よりメンバーの声質がよく揃っていて、透明感が際立っていますね。
各メンバーの微妙な声質やニュアンスの違いによってその魅力はいっそう引き出されることになるのです。
それは何色もの色のバリエーションを持ったクリスタルガラスのように光り輝き、私たちの心に深く刻まれるといっていいかもしれません。
しかも合唱は透明感がある、美しいというだけでなく、強い主張とメッセージに貫かれて入るのです。まさに合唱によるショートストーリーと言ってもいいでしょう。
場面ごとの性格の描き分けも最高で、ある時は寂しさや憂いの心を滲ませ、ある時は風や空気のようにささやき、永遠を思わせるフレーズを心に語りかける……。
もはや余計な説明は必要ないでしょう。じっと心と耳を傾けるだけで充分です。