文豪たちの息づかいが聞こえる。閑静な住宅街に佇む魅力の館・鎌倉文学館


鎌倉文学館は鎌倉ゆかりの作家、文学者の資料を集めた閑静な住宅街にひっそりと佇む資料館です。

1985年の開館から約35年、地域住民だけでなく、全国から訪れる文学ファン、観光客の心を捉え続けてきました。

初代館長の永井龍男(小説家、文化勲章受章者・1904-1990)は開館のあいさつで、「肩ひじをはらずに来て見ていただいて、文学というものがご自分の生活で身近になれば、これこそが文学の味わいの原点だと思います」と述べています。

この言葉どおり、今や鎌倉文学館は、鎌倉観光になくてはならない重要スポットとなっていると言っても決して過言ではありません。

近隣の別荘を訪れたよう……

▲鎌倉文学館の外観

周囲の環境や外観を見ると、鎌倉文学館は資料館というよりも都心に近い別荘という雰囲気がありますね。

それもそのはず、ここは元来、加賀藩主の子孫にあたる旧前田侯爵家の別邸だったのでした。また第二次大戦後はデンマーク公使や佐藤栄作元首相が別邸を借り、 別荘として使用していたこともあります。

佐藤元首相は鎌倉在住の川端康成と別邸で交流を深めることも多かったようです。 この時代に、小林秀雄や永井龍男といった名だたる名士たちが鎌倉を拠点に活動するようになりました。

1985年に第17代の当主前田利建氏から建物が鎌倉市に寄贈されたのを契機に、本館内部を補修・増改築、 収蔵庫を建て増しして鎌倉文学館として開館したのでした。

都心からさほど離れていないはずのに、豊かな緑に囲まれた静かな佇まいは都会の喧騒を忘れさせてくれます。

そして歴史と伝統の重みが醸し出す独特の雰囲気が、他にはない安心感や時間が止まったかのような非日常感を与えてくれることでしょう。

時間を忘れる癒やしの空間

▲文学館の入口のトンネル「招鶴洞」

 

鎌倉文学館を訪れるのは今回が初めてでした。以前知人から「ここはなかなかいいよ」と言われていて、ちょっぴり気になっていたのですが、なかなか一歩が踏み切れませんでした。

もうひとつ気が進まなかったのは、文学館と名前がついてるけれど、とりあえず資料を寄せ集めた程度の、名ばかり資料館じゃないのかな……という不安が頭をもたげて仕方なかったし、見てがっかりするのが嫌だったからです。

しかし、「百聞は一見にしかず」の諺どおり、結果として今回足を踏み入れたのは大正解でした。

リスたちがお出迎え

意外だったのは入口に入る前のリスたちのお出迎えでした……。

ガサガサ音がするので、「猫が木にでもよじ登ってるのかな?」と思っていたら、よく見るとリスではありませんか‼

それも一匹、二匹ではなくて、かなりの数がいそうです。木によじ登るだけでなく、仲間と合流したり、庭園周辺を素早く行き来したりと、大忙しです。

まるで自然の楽園のような趣きさえありますね…。

▲木に隠れるリス

 

鎌倉文学館は展示を見るだけではなく、閑静な住宅街に佇む落ち着いた環境や、格調高い建物、見事な庭園など、見るべきものがたくさんあります。

時間をたっぷりとって、歴史と伝統に裏付けられた文化に親しみ、風光明媚な自然の美しさに浸るのもいいかもしれませんね…。

常設展の直筆の原稿

▲文学館正面入口

 

特に常設展では文豪や随筆家たちの直筆の原稿が見られるのが興味深いです。

文学ファンはもちろん、創作をする人なら、「あの人がどのような筆跡で書いてるのだろうか」ということがとても気になったりするものです。

「名は体を表す」ではないですけれど、直筆の原稿を見るのは大いに刺激になります。たとえば川端康成さんの原稿はかなりの達筆で、原稿に書き留めるということは御本人にとってはかなりの段階であり、また完成度を求めていたのかもしれません。

古くは金槐和歌集に書かれた17世紀の源実朝の書をはじめ、夏目漱石、芥川龍之介、川端康成、有島武郎、与謝野晶子といった文豪たちの赤字入りの原稿が間近で見られるのは楽しいです。

原稿とセットで置かれた初版本もいい味を出していて、独特の存在感を放っています。

 

眺めが抜群。心落ち着く談話室

 

今回訪れて一番気に入ったのはもしかしたら2階の奥にあった談話室かもしれません。ここは常設を順路どおりに見て歩くと、行き着く小部屋です。

名称は談話室になっていますが、一言で言えばここは休憩室のような感じですね。談話室の扉を開いてテラスに出ると、下方に広がる庭園や周囲の景色を眺めることができます。

由比ヶ浜まで見渡せる景観は素晴らしく、四季折々の変化を楽しむことができるし、ひとときの憩いの時間を約束してくれることでしょう。

常設と企画展示との間にある間取りが絶妙で、ここで一度テラスに出て、外の新鮮な空気を吸いながら景色を眺めるのもいいかもしれません。平日あたりで人が少ない時間だったら至福の時を過ごせるかもしれませんね……。

ちょっとしたリフレッシュ効果のあるスポットとして外せません。

春と秋に咲き誇るバラ

▲庭園の敷地の一部はバラ園になっている。

忘れてならないのが、庭園の一角を占めるバラ園ですね。ここは春と秋に約190株から230株のバラが咲き誇り、文学館を美しく彩ります。

充実の企画展

1階と2階にある特別企画室は、毎回鎌倉にゆかりのある作家たちを取り上げて会期を決めて開催するコンセプトに沿った展示コーナです。ちょうど美術館、博物館の企画展と同じと考えていいですね。

特に企画展では一人の作家の生涯を広く深く掘り下げて、パネルで写真やエピソードを紹介しているのもいい感じです!

龍之介の生き様が伝わる

▲企画展「芥川龍之介と鎌倉」のチラシ

今回の目玉は何と言っても企画展の「芥川龍之介と鎌倉-心の軌跡」です。

芥川龍之介は創作の絶頂期に鎌倉に家を構えていました。当初は横須賀の学校で英語を教え、教鞭をとらない日は創作に勤しんでいました。この二足の草鞋は精神を消耗して、なかなか大変だったようですね……。

その後様々な要因が彼を心身ともに苦しめることになります。

師と仰ぐ夏目漱石の死が彼の人生に深い影を落としたこと。生活のためとはいえ生徒に教えることが嫌で嫌で仕方なかったこと。そしてあれほど著名で際立つ文才だったにもかかわらず、絶えず生活苦を抱えていたことでした。

コロナ禍の今からちょうど100年前、スペイン風邪が世界的に大流行し、龍之介はその影響をまともに受けてしまったようです。

父を亡くし、龍之介自身も感染するなど、晩年は健康に恵まれず、里見弴と巡った最後の講演旅行はまさに命がけの旅となってしまったようです。

この企画展は芥川龍之介の内面の心情や別の側面を見ることができた充実の展示でした。

唯一無二の資料館

とにかくここは他にない持ち味を持った稀有な資料館だと思います。

美術館や博物館の展覧会を見た後のどうしようもない倦怠感、疲労感はなく、自分のペースでゆっくり見てまわれたのは良かったですね。

過去へ想いを馳せながら、テラスから外を見渡せるのもとってもいい感じです。

企画展で作家の苦悩や想いに共感しつつ、談話室で腰を落ち着けながら、帰りは庭園を散策する……。

幾通りにも楽しめる唯一無二の魅力を持った資料館、博物館と言ってもいいのではないでしょうか!

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