アイデアが出ない時のピカソの発想法|模倣をオリジナルに変える創造術

新しいプロジェクトが始まる時、PCの画面を前にして、「いったいどうしたらいいの……」と絶望感にとらわれたことはありませんか?

私たちは、とかくクリエイティブというと、ゼロから何かを生み出すことだという幻想に縛られがちです。しかし、20世紀最大の芸術家、パブロ・ピカソ(1881-1973)はこう断言しました。

「凡人は模倣し、天才は盗む」

一見すると過激なこの言葉。しかしその真意を探ると、アイデアが枯渇して動けなくなっている私たちに問いかける最強の創造の戦術が見えてきます。

目次

天才は、誰よりも盗んでいた

ベラスケス『ラス・メニーナス』1656年
(油彩、318 cm × 276 cm、プラド美術館)
ピカソ『ラス・メニーナス』1957年
(油彩、58作の連作の1枚・ピカソ美術館)

ピカソといえば、奇抜な形が並ぶキュビスムの創始者として、唯一無二のオリジナリティを持った人物だと思われがちです。

けれど、彼の足跡を辿ると、実は驚くほど多くの模倣作品を発表していることがわかります。

彼は16世紀の巨匠ベラスケスの名画を何度も(58枚の連作)繰り返し描き続け、アフリカの部族彫刻の力強い造形を取り入れ、ライバルであるマティスの色彩を研究し尽くしました。

Picasso & The African Art Revolution: A Journey Into Modernism

Picasso & The African Art Revolution:
A Journey Into Modernism

ピカソは、先人たちが何世紀もかけて積み上げてきた美のロジックを徹底的に自分の中にインプットしたのです。

コピーではなくエッセンスを抽出する

パブロ・ピカソ、1942年、『雄牛の頭』
(自転車用サドルとハンドルバー、
33.5 × 43.5 × 19 cm、ピカソ美術館(パリ)

ここで重要なのは、彼が単なるパクリ(コピー)をしていたわけではないということです。 コピーと、彼が言うところの盗む(エッセンスを抽出する)とでは、決定的な違いがあります。

コピーは、表面的な形や色を真似すること。 エッセンスを抽出するのは、その作品のコンセプトから着想を得て、自分なりに組み立てることです。

コピーとエッセンスの抽出では明確な違いがある

ピカソは、他人の作品を一度バラバラに分解しました。 そして、そのコンセプトの断片を自分のフィルターを通して、まったく別のスタイルで再構築したのです。

サドルとハンドルを組み合わせて牛の頭を作ったように、既存の要素の組み合わせを変えること。これが、彼が実践したクリエイティブの正体です。

アフリカ芸術から受けた衝撃

ダン族のディーン・グルのマスク(ブルックリン美術館所蔵)

1907年頃、ピカソはパリのトロカデロ民族学博物館(現ケ・ブランリ美術館)で、フランスの植民地(コンゴやコートジボワールなど)から持ち帰られたアフリカの仮面や木彫彫刻を目にしました。

ピカソにとってアフリカの部族彫刻は、単なる興味本位の収集品ではなく、自身の芸術を一変させる強烈なインスピレーションの源となったのでした。

このことは20世紀美術最大の革命と言われるキュビスムを生み出す決定的なきっかけとなります。

1900年代初頭、ピカソは伝統的な西洋美術の写実技法から離れ、アフリカのマスクや彫刻が持つ力強い造形に衝撃を受け、それを自己の作品に取り入れたのでした。 

アフリカ美術からキュビスムへ

ピカソがアフリカ美術から、どのようにキュビスムへ展開していったのかを簡単にまとめてみました。

STEP
トロカデロ民族学博物館での出会い

1907年に博物館でアフリカの仮面や木彫彫刻を目にして衝撃を受ける

STEP
根源的な力に魅せられる

ピカソはこれらを原始的なものとしてとらえずに、より根源的で人間の本能や感情を剥き出しにする偉大な芸術としてとらえた

STEP
幾何学的な抽象化

アフリカの彫刻に見られる、顔のパーツを極端に簡略化し、幾何学的な平面や角度で表現する手法に、ピカソは新しい造形の可能性を見出す。

STEP
代表作『アヴィニョンの娘たち』への影響

「アフリカの時代」の幕開けとなる『アヴィニョンの娘たち』(1907年)では、特に右側に描かれた2人の女性の顔が、アフリカの仮面に酷似している。

人間の顔を前方、側方など複数の視点から同時に見たかのように解体・再構成するスタイルはアフリカ芸術の影響。

パブロ・ピカソ『アビニヨンの娘たち』1907年
(油彩、ニューヨーク近代美術館)
STEP
アフリカの時代

1907-1909年のこの時期、ピカソは多くの作品で、頭部を卵型や角ばった形に簡略化し、目や鼻を非対称に配置する実験を行う

STEP
キュビスムへの展開 

彫刻のように、空間の中に立体的な塊を意識した描写は、その後のジョルジュ・ブラックと共に発展させたキュビスムの空間概念へと繋がっていく

パブロ・ピカソ『マンドリンを弾く少女』1910年
(油彩、ニューヨーク近代美術館)

デザインの視点:サンプリングという考え方

デザインの世界でも、まったく新しい色は存在しませんし、まったく新しいフォントが毎日生まれるわけでもありません。

私たちが日々行っているのは、過去のデザイン資産や自然界の不変の法則を、現代のニーズに合わせてサンプリング(引用)することです。

もし、アイデアが出なくて苦しいのなら、一度オリジナルを作ろうという発想を捨ててみてください。

その代わりに、自分が「いいな」と思う他ジャンルのもの——例えば、建築の構造、音楽のリズム、料理の盛り付けの配色などから、利用できると思われるアイディアを持ってくるのです。

自然界のサンプリング

カワセミの鋭いくちばしの形状をサンプリングした新幹線と
サメの肌の質感を応用して水の抵抗を減らすために
生み出された潜水艦や競泳水着

このサンプリングと再構築の手法は、アートの世界だけではありません。

視点を少し変えれば、自然界や異ジャンルの至るところに、まだ誰も手をつけていない最高のロジックが転がっていることに気づくはずです。

実は科学技術の世界でも、偉大な開発の多くが自然界からのサンプリングによって生まれています。

​例えば、カワセミの鋭いくちばしの形状をサンプリングして騒音問題を解決した新幹線。あるいは、サメの肌の質感を応用して、水の抵抗を減らした潜水艦や競泳水着。

​エンジニアたちは、カワセミそのものを作ろうとしたのではないですよね。カワセミの特徴でもある空気抵抗を逃がすロジックだけを抽出し、それを高速鉄道というまったく別の業種で再構築させたのです。

​ピカソがアフリカ彫刻から力強いデフォルメの造形を拝借したのも、これと同じです。

何かの形を真似るのではなく、なぜそうなっているのかという原理を借りてくる。​アイデアが枯渇したとき、私たちは目の前の課題ばかりを見つめてしまいがちです。

異質なもの同士があなたの頭の中でぶつかり合った時、そこに火花が散り、結果として「あなたにしか作れないオリジナル」が姿を現すことでしょう。

アイデアは、記憶の断片が結びつく瞬間に生まれる

ピカソは生涯で約15万点もの作品を残しました。この驚異的な数字は、彼が単に創作のスピードが早かっただけではなく、未知の刺激に触れ、それを自分の引き出しに溜め続けることを止めなかった証です。

アイデアとは、何もないところに突然湧き出るものではありません。 旅先で見つけた鳥の色彩の美しさや、美術館で出会った魅力的な描画技法……。

そんなバラバラな記憶の断片が、あなたの中で化学反応を起こし、新しい形へと結びついていくのです。

多くの引き出しを持ち、常に視点を変えながら新しい刺激を取り込む。この循環こそが、枯れない創造性を生み出す真の原動力となります。

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