「周りの友人は出世したり、独立して成功しているのに、自分だけ取り残されている気がする」 「今から新しいことを始めるなんて、もう遅いんじゃないか?」
30代、40代と年齢を重ねるにつれ、ふとそんな「焦り」を感じることはないでしょうか。 SNSを開けば、誰かの輝かしい成功体験が嫌でも目に飛び込んでくる時代です。
しかし、美術史を紐解くと、そんな現代人の焦りを「まだまだこれからだよ」と笑い飛ばしてくれるような画家がいます。 彼の名は、アンリ・ルソー。
美術教育を受けたこともなければ、エリート街道とも無縁。 40代になるまで「普通のおじさん」だった彼は、なぜ後世に残る巨匠となれたのでしょうか?
ルソーの人生には、私たちがこれからのキャリアを生き抜くための、勇気とヒントが詰まっています。
「日曜画家」から始まった伝説

Self Portrait, 1890, National Gallery Prague
アンリ・ルソー(1844-1910)は、ピカソやダリのように、幼い頃から神童と呼ばれたわけではありません。 彼の本業は、パリ市の税関職員。 仕事の余暇、日曜日にキャンバスに向かう、いわゆる日曜画家でした。
彼が本格的にサロン(展覧会)への出品を始めたのは、なんと40歳を過ぎてから。 そして、20年以上勤めた税関を退職し、画業一本に絞ったのは49歳の時です。
現代で言えば、定年が見え始めた年齢で「脱サラ」し、クリエイターとして独立するようなもの。 当時の常識からしても、あまりに無謀で、遅すぎるスタートでした。
しかし、彼は焦りませんでした。 なぜなら、彼の目には「他人との比較」ではなく、「描きたい世界」しか映っていなかったからです。
ルソーに学ぶ、3つの遅咲きキャリア戦略

1895-1897年(国立美術館、ワシントンD.C.)
Boy on the Rocks, 1895–1897,
National Gallery of Art, Washington, D.C.

フィラデルフィア美術館
Carnival Evening, 1885-1886,Oil on Canvas
Philadelphia Museum of Art

オルセー美術館
ルソーの絵は、当時の批評家たちから「子供の落書き」「遠近法がなっていない」と散々笑われました。
それでも彼が筆を折らなかった理由、そして成功の鍵はどこにあったのでしょうか。
1. 根拠のない自信を武器にする

ある時、若き天才ピカソが主催したパーティーで、ルソーはピカソに向かってこう言ったそうです。 「現役の画家で偉大なのは、我々2人だけだね」
周囲から笑い者にされていても、ルソー本人は本気で自分を「一流」だと信じていました。 キャリアにおいて、謙虚さは美徳ですが、新しいことを始める時に必要なのは、このいい意味で「勘違いする力」かもしれません。
「自分には価値がある」と信じ抜く鈍感力が、批判というノイズを遮断し、前へ進むエネルギーになります。

2. 未熟さを唯一無二のスタイルに変える

ニューヨーク近代美術館
ルソーは正規の美術教育を受けていないため、遠近法や人体の骨格描写はめちゃくちゃでした。
しかし、その「技術のなさ」こそが、誰にも真似できない「ちょっとシュールで幻想的な世界観」を生み出したのです。
私たちの仕事でも、「経験がない」「スキルが足りない」と嘆くことがあります。 しかし、常識を知らないからこそ、ベテランには思いつかない斬新なアイデアが出せることもあるのです。
コンプレックスは、磨けば唯一無二のブランドにもなり得るのです。
ルソーの植物の描き方はフラットデザインに通じる
- フラットデザインは、Webデザインで主流となっている立体感や質感などの演出が少ないエレメントを使ったデザインです。
- ルソーの植物の描き方を見ると、まさに質感や立体感を排除した今のフラットデザインに通じるものがあります。



3. 「好き」を淡々と続ける

Oil on canvas, 204.5 x 298.5 cm (80.5 x 117.5 in)
Museum of Modern Art, New York City
ルソーの代表作『夢』。 ジャングルの中に女性が横たわる、あの不思議で美しい傑作が描かれたのは、彼が亡くなる直前、66歳の時でした。
なんと彼は死ぬ間際まで進化し続けたのです。 「すぐに結果が出ない」と嘆く必要はありません。
淡々と、好きなことをやめずに続けること。それが、人生の後半に大輪の花を咲かせるための、最もシンプルで確実な方法なのです。
あなたの最高傑作は、これからの人生にある
もし今、あなたが「もう歳だから」と何かを諦めようとしているなら、ルソーの絵を思い出してください。
平面的なジャングル、宙に浮くような人物、鮮やかすぎる緑。 そこには、大人の常識に縛られない自由な魂があります。
40代、50代は、決して「下り坂」ではありません。 経験という絵の具が増え、より深みのある絵が描けるようになる「成熟期」の始まりです。
焦らなくていい。 あなたの人生というキャンバスにおける「最高傑作」は、まだこれから描かれるのを待っているのですから。










