オラトリオとは?|オペラとの違い・特徴・有名作品をわかりやすく解説

オラトリオとは、合唱・独唱・オーケストラによって聖書や神話の物語を描く大規模な声楽作品です。オペラのような劇的要素を持ちながら、舞台演出を伴わないのが大きな特徴です。

オラトリオという言葉は音楽ジャンルとして意外によく耳にします。
でもオペラほどメジャーではないし、はたしてオラトリオにどんな魅力があるのだろうか?と感じているかたもいらっしゃることと思います。

今回はオラトリオの魅力と特徴について考えていきたいと思います。

目次

オラトリオとは?|特徴と基本的な意味

「オラトリオ」と聞くと皆さんはどのようなイメージを浮かべるでしょうか?

オペラやミサ曲、カンタータあたりとどのような違いがあるのだろうかと奇妙に思われる方も多いでしょう。

基本的にオラトリオはキリスト教の聖書の物語を題材にする音楽です。

聖書の聖句をテーマにしていますから、音楽そのものにストーリー性があります。一般的にはアリアをはじめとして、合唱やデュエット、レチタティーヴォ(音楽進行の役割を果たす独唱)が加わり、精神や魂の高揚を促す音楽と言えます。

でも明確な定義があるわけではなく、オペラ寄りのオラトリオもありますし、ミサ曲寄りのオラトリオもあるのです。

オラトリオとオペラの違いとは?

まずはオラトリオとオペラの違いを見ていきましょう。

項目オラトリオオペラ
舞台演出基本なしあり
主題宗教的世俗的
合唱非常に重要補助的な場合も
上演形式演奏会形式劇形式

ヘンデルが変えたオラトリオの歴史

オラトリオは観客に深い感動を与える(イメージ)
Oratorios deeply move the Audience (image)

オラトリオは、17世紀はじめ頃から創作され始めたジャンルと言われていますから、歴史はオペラとそれほど変わりありません。

オペラはモーツァルトの出現で決定的に変わりましたが、オラトリオはヘンデルによって注目され、音楽的な魅力が飛躍的にアップしたと言っても過言ではありません。

ヘンデルは生涯で25曲ものオラトリオを作曲しました。これは一つの作品がおよそ2時間あまりを要する大作と考えれば大変な数です。

しかも残されたオラトリオはどれも優れた傑作、力作揃いで、改めてヘンデルのオラトリオに懸ける強い意気込みを感じるのです。

それだけではなく、ヘンデルのオラトリオは礼拝堂を演奏会場とした神聖なイメージの作風から完全に脱却し、むしろオペラ的なドラマチックな装いを持った花も実もある作品として作曲されたのです。

そのことはロンドン市民からも大いに受け入れられ、後のオラトリオの礎を作ったとも言えなくありません。

なぜオラトリオは“演奏会形式”なのか

オラトリオは基本的に演奏会形式で上演される(イメージ)
Oratorios are generally performed in concert format (image).

オラトリオはオペラに比べればギャラがずっと少なくてすみます。

オペラは劇を伴う舞台装置や演出が必要不可欠ですが、オラトリオはそれらをすべてカットすることもできます。付や舞台演出を伴わない音楽劇と言えるかもしれません。

オペラでいうところの演出や舞台、振付といった部分は大幅に経費を削減できるのです。ヘンデルがオペラからオラトリオの作曲家に転身したのも、実は財政上の問題が大きく関わっていたからなのです。

また、オペラは演出家や劇場監督、指揮者、歌手たちがそれぞれの持ち場で絶対的権威を持っているため、結束できれば感動的な舞台が出現しますが、上手くいかない場合、トラブルの原因にもなりやすいのです。

それに比べるとオラトリオは、指揮者を中心にしたチームとして公演される場合が多いので、逆にやりやすい環境なのかもしれません。

20世紀のオラトリオ|政治と芸術の関係

元来オラトリオは聖句を題材とするキリスト教的な音楽なのですが、例外もあります。

それが顕著に現れたのが、20世紀の第二次世界大戦後のことでしょう。

この頃世界は戦争は終結したものの、極度の緊張状態にあり、音楽や絵画、文学などの芸術に対しても政治や思想の介入が平然とまかり通る時代だったのです。

その典型的な例がショスタコーヴィチが作曲したオラトリオ「森の歌」です。

「森の歌」はショスタコーヴィチの強い想いがあって誕生したわけではありません。

これはソビエト共産党の独裁的な党首として有名だったスターリンの偉業を讃える音楽だったのです。

当時スターリンはショスタコーヴィチの音楽を「党の体制を賞賛する音楽ではなく、西洋かぶれした訳のわからない音楽を書いてる」という評価を下していました。

つまり、スターリンの意志に背いた音楽家として目をつけられ冷遇されていたのです。もちろん、自由主義社会の冷遇や無視とは本質的に訳が違います。

共産主義社会、特にスターリンが党首として君臨した時代は一度目をつけられると、いつ投獄され、粛清されるのかわからない恐ろしい時代だったのです。

ショスタコーヴィチ《森の歌》とは?

ショスタコーヴィチが今後も作曲家として国内で活動するためには、スターリンの信頼をどうしても回復する必要があったのです。

そこで目を向けたのが、スターリンが以前から国を挙げて実施していた植林事業です。

植林をテーマにしたこの作品はスターリンや国家事業を称賛する壮大なスケールの合唱で幕を閉じます。スターリンは歓喜しましたが、ショスタコービッチの心は自尊心と芸術家魂を傷つけられてズタズタでした。

「森の歌」を歴史の負の遺産と捉える動きも数多くありました。スターリン亡き後の党首フルシチョフがスターリン称賛の歌詞の書き直しを命じたのです。またヨーロッパに限らず、ロシアでもソ連邦の崩壊後は滅多に演奏されなくなってしまいました。

芸術を、芸術家を何だと思っていたのでしょうか……。どうやら政治のための手段、道具としか考えていなかったようなのです。

「森の歌」は政治に利用された不幸な作品として記憶に残ってしまいしたが、音楽そのものの完成度は素晴らしいため、政治やイデオロギーが一切介在しない形で注目を集めてほしいところですね。

オラトリオの魅力|なぜ人の心を深く揺さぶるのか

オラトリオはオペラに形式は似ているものの、根本的に違う種類の音楽です。

極端に言えば、世俗的な音楽劇がオペラだとすれば、超俗的な音楽劇がオラトリオだと言うこともできるでしょう。

ヘンデルの「セメレ」という作品が、オペラなのかオラトリオなのかということで議論になったことがありました。

しかし、こんな他愛のないことを議論にするなんて、なんて馬鹿げた話だろうと思います。

感動的であれば、オペラでもオラトリオでもどっちでもいいのです!

オラトリオはあらゆる音楽の中でも最高に感動的に場を盛り上げ、演出してくれる要素をいっぱい内包した音楽ジャンルなのです。

今後も歴史に残るオラトリオが出現してくれるのを心待ちにしているのですが……。

代表的なオラトリオ作品 5選

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル:《メサイア》

「誰もが一度は耳にしたことがある、感動の傑作」 

ヘンデルの最も有名な作品であり、キリストの生誕から受難、復活までを描いています。特に第2部の最後を飾る「ハレルヤ・コーラス」はあまりにも有名です。壮大な合唱と華やかなオーケストラが、聴く人の心に希望と喜びを届けてくれます。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ:《クリスマス・オラトリオ》

「聖夜の喜びを祝う、全6部の壮大な叙事詩」

 クリスマスから公現祭(1月6日)までの祝日のために書かれた、全6部からなる大作です。トランペットの華麗な響きや、バッハらしい緻密で美しい合唱が特徴。新しい命の誕生を祝うような、温かみと幸福感に満ちあふれた音楽です。

ヨーゼフ・ハイドン:《天地創造》

「光が生まれる瞬間の衝撃! 壮大な宇宙のドラマ」 

旧約聖書の「創世記」を題材に、神が世界を創造していく6日間を描いています。混沌とした闇から「光あれ!」という言葉とともに音楽が爆発的に輝くシーンは、クラシック音楽史上屈指の名場面。自然の美しさや生命の力強さを感じさせる、色彩豊かな一曲です。

フェリックス・メンデルスゾーン:《エリヤ》

「劇的なストーリー展開に引き込まれる、19世紀の金字塔」 

預言者エリヤの波乱に満ちた生涯を描いた、ドラマチックな傑作です。バッハやヘンデルの伝統を継承しつつ、ロマン派らしい情熱的で美しいメロディが随所に散りばめられています。まるで映画を見ているかのような、緊張感あふれる音楽体験が味わえます。

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:《森の歌》

「戦後の再生を願う、大地への賛歌」 

20世紀の旧ソ連で、戦後の国土緑化計画を讃えるために書かれた作品です。これまでの宗教的なオラトリオとは異なり、自然への感謝や未来への希望が、親しみやすく力強いメロディで描かれています。子どもたちの合唱も加わり、すがすがしい感動を呼ぶ一曲です。

はじめてのオラトリオ:おすすめの4作品

ヘンデル:《メサイア》

「心がお洗濯されるような、究極のポジティブ・ソング」 

オラトリオといえばまずこの曲。有名な「ハレルヤ」をはじめ、耳なじみのある美しい旋律が次々と登場します。宗教的な知識がなくても、その壮大なハーモニーに包まれるだけで、不思議と前向きなパワーをもらえる「心のサプリメント」のような名曲です。

ヘンデル:《サウル》

「まるで大河ドラマ! 嫉妬と友情が渦巻く人間ドラマ」 

美しい音楽とともに、人間のドロドロとした感情や葛藤が描かれる、非常にドラマチックな作品です。王サウルの嫉妬、ダヴィデの若き勇姿など、キャラクターが生き生きと描写されており、現代の映画やドラマを楽しむような感覚で、物語の世界にぐいぐい引き込まれます。

メンデルスゾーン:《聖パウロ》

「気品あふれるメロディに癒やされる、ロマン派の傑作」 

キリスト教の伝道者パウロの回心を描いた物語です。バッハのような厳格さと、メンデルスゾーンらしい甘く繊細なメロディが見事に融合しています。落ち着いた上品な音楽が多く、静かな夜にゆったりと心を落ち着けて聴くのにぴったりの一枚です。

ハイドン:《四季》

「豊かな自然の風景が目に浮かぶ、音楽の絵本」 

農村の四季の移り変わりや、人々の素朴な暮らしを鮮やかに描いています。鳥の鳴き声や雷の音を楽器で表現した遊び心たっぷりの演出もあり、聴いているだけでヨーロッパの美しい田園風景を旅しているような気分になれる、親しみやすさ抜群の作品です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次