敬虔でロマンチックな情緒が漂うオラトリオ!メンデルスゾーン・聖パウロ

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隠れた名作

メンデルスゾーンは早くから、天才的な音楽性とロマンチックな情緒で魅力あふれる作品を世に送り続けた作曲家でした。

ところで皆さんはメンデルスゾーンといえば、どんな作品を思い出すでしょうか?

甘美なメロディの『ヴァイオリン協奏曲』、明るく躍動的なリズムが印象的な『交響曲第4番イタリア』、哀愁に満ちた『交響曲第3番スコットランド』、夢の世界へ誘う管弦楽曲『真夏の夜の夢』をあげる方はきっと多いでしょう……。

これらがメンデルスゾーンの大切な傑作であることに変わりありませんし、異論はありません。でも、ひとつだけ重要なレパートリーが欠けていることにお気づきでしょうか? 

それが声楽曲です。特に宗教的オラトリオや聖歌集は絶対に省くことの出来ないメンデルスゾーンのライフワークなのです!

メンデルスゾーンは3曲のオラトリオを作曲しました。そのうちの1曲は有名な『エリヤ』です。今や三大オラトリオとして世界中の至るところで演奏される傑作ですよね。

あとの2曲は『エリヤ』の10年前に作曲された『パウロ』と晩年に作曲された未完成の『キリスト』です。

さすがに『キリスト』は録音が限定されますが、『聖パウロ』はかなりの演奏が録音として残されていて、現在はSpotifyやAmazon Music、Apple Musicなどで音楽配信がされています。

ルーター派の世界観を誠実に表現

「パウロ」レンブラント(油彩、1657年)

オラトリオのテーマとなる『パウロ』とは、新約聖書の使徒行伝に登場するユダヤ教からキリスト教に改心したパウロの物語です。

幾多の迫害や試練を乗り越えて、イエス・キリストの福音を述べ伝えていくようすが劇的に描かれます。

『パウロ』はどの部分をとっても温かな血が通う作品ですね。メンデルスゾーンらしい清廉な語り口の中に誠実で優しさにあふれた人間性が充満した名曲といえるでしょう。

また、要所要所に挿入されたコラール(ルター派の賛美歌)が印象的で、一編の美しい詩のように光を放っているのです。これはバッハがカンタータなどで効果的に使ってますね!

『パウロ』は誰が聴いても分かりやすく、たちどころに良さを感知しやすい作品です。

オラトリオの入門編としてもオススメできるし、親しみやすいアリアや合唱、レチタティーヴォがオラトリオの魅力の扉を拡げてくれるでしょう。そしてバッハの伝統をロマンの香り漂うオラトリオとして纏め上げた傑作と言えるでしょう!

聴きどころ

『聖パウロ』は難解な表現がなく、あくまでも聖書に忠実で清新な美意識に貫かれています。

アリアの品格の高さ、キャストの心に寄り添うような優しさも印象的ですね。

第1部 第2曲 合唱「主よ、神である主よ」

遠くから仰ぎ見る神ではなく、いつも心に寄り添う唯一無二のお方であることを高らかに歌う。

第1部 第7曲 アリア「エルサレムよ」 (ソプラノ)

何と甘く優しさに満ちたメロディだろう! その懐かしい情感は子守歌のような安らぎを彷彿とさせる……。

第1部 第22曲 合唱「おお、なんと深く豊かな神の英知とご洞察だろう」

第1部最後のナンバー。パウロを改心させた全知全能なる神の彗眼と愛を称える合唱。

第2部 第23曲 合唱「世界はいまや主のものであり」

合唱による壮麗で輝かしいフーガの高揚感が、神の仰ぎ見るような威容や栄光を永遠に告げるかのよう。

第2部 第29曲 合唱とコラール「あの男はエルサレムでこの名を呼ばわる者をみな」 (民衆、独唱者たち)

民衆の殺意を叫ぶ声(合唱)に対して、許しと愛を乞うコラールが胸に痛切に響く。

第2部 第36曲 アリアと合唱「あなたがたが神の神殿であることを」 (パウロ、合唱)

全曲の核心の部分で、力強く威厳に満ちたパウロの訴えと表情が心にしみる。

第2部 第43曲 合唱「見よ、なんという愛を」

颯爽としていて軽快なテンポの合唱曲だが、繊細で優美な情緒も兼ね備えている。

第2部 第45曲 最終合唱「されど彼のみならず、すべての人に」

希望を感じるフィナーレの合唱。多彩な変化と転調で大曲のフィナーレを飾る。

オススメ演奏

フリーダー・ベルニウス指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン、シュトゥットガルト室内合唱団、キール(ソプラノ)ギューラ(テノール)フォレ(バス)他

最も見事なのがベルニウス盤です。

演奏は勢いに任せた力づくの表現ではありませんし、効果を狙っているわけでもありません。

ちょっと聴いただけだと強いインパクトに欠け、淡々と進行していて薄味に感じる人がいても不思議ではないでしょう。

しかし、『パウロ』という作品の性格を考慮すると、これほど本質を的確に捉えていて、音楽の喜びがひたひたと迫る演奏も少ないかもしれませんね……。

作品に対するベルニウスのポリシーや共感の強さがソリストたちの表現にも反映していて、全編が豊かな音楽で満ちあふれています。特に素晴らしいのが合唱ですね。

精緻で純度の高いハーモニーは、美しいメロディラインを最良の形で歪みなく再現しています。ソリストたちの心の通う表現も実に見事です。

クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団&ライプツィヒ放送合唱団、ヤノヴィッツ、アダム、ラング他

ライプツィヒがこのオラトリオをはじめとして、バッハやメンデルスゾーンのゆかりの地だったということを改めて気付かされる名演奏です。かつての豊かな伝統や芸術性が息づいている感じです。

ドイツオペラなどで存在感を与え続けてきたライプツィヒ放送合唱団はハーモニーが美しく彫りが深いですね。しかも旋律に心が通い、ともすれば薄味になりがちな合唱曲に深みを与えています。

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の響きもコクがありますし、ヤノヴィッツ、アダムらの独唱陣も華があり、名曲に花を添えています。

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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