収穫を喜び、日々の営みを感謝する・ハイドンーオラトリオ「四季」

 

 

ワクワクするオラトリオ

この作品を聴くと心がワクワクして、何だかうれしい気分になります。 

オラトリオとしては異例の親しみやすさだし、全編に愛すべきメロディが散りばめられています。とにかく普通のオラトリオとはちょっと違うんですよね。

「四季」といえば、「天地創造」と並ぶハイドン晩年の傑作オラトリオです。堅苦しさが微塵もありません。美しい旋律と作曲技法の冴えが縦横無尽に展開するのです。

ハイドンの魅力がストレートに現れたオラトリオというのであれば、私なら躊躇なく「四季」を選びたいですね!

「四季」は作品としての充実度はもちろん、途切れることのない愉しい音楽の数々や音楽の生命力が最高です! 

また、ハイドンが瞼に浮かべたであろうオーストリアの農民の生活が共感を込めて生き生きと描かれているのです。

それが四季折々の情感、彼の個性と曲の本質にぴったりとマッチし、何ともいえない幸せな気分にさせてくれるのです……。

難儀に難儀を重ねて完成

これほど魅力的でワクワクする作品なのに、創作については苦難の連続だったようですね。

そもそもきっかけとなったのは、前作のオラトリオ「天地創造」の大成功に気分を良くしたハイドンが、「ぜひとも「四季」を作曲したい」と思い立ったことにあります。

台本はモーツァルトのパトロンとしても有名だったゴットフリート・ファン・スヴィーテン男爵が書いたものでした。

しかし、この台本がどうもハイドンのイメージにそぐわなかったようですね……。

作曲中は台本の貧弱さで苦しんだり、作家との折り合いが悪くなったり、自身の健康状態も良くなかったため、2年もの歳月をかけて難儀に難儀を重ねて完成させたようです。

ただ、出来上がった作品の素晴らしさはそのような事実をすべて忘れさせてくれます。

演奏時間にすれば2時間少々ですが、どの部分からも人々の暮らしに密着した四季折々の自然との語らいが共感を伴って伝わってきます。

そして、三重唱、合唱による農民たちの生き生きとした生の喜びは明日への希望を謳いあげ、幸せな気分で満たしてくれるのです。

それはやがて神への感謝と湧きあがる喜びと信頼へとつながっていくのです! 

 

聴きどころ

春/第4曲 アリア「農夫は今、喜び勇んで」

まるで鼻歌交じりで歌っているかのようなご機嫌で親しみやすいアリア。何回聴いても楽しくて胸が弾む!

春/第6曲 三重唱と合唱「慈悲深い天よ、恵みを与えてください」

温かく心地よい風が頬を撫でる早春の一日。豊作を願い、神に無心に祈りを捧げる日々の営みが心に響く。

春/第8曲 三重唱と合唱(喜びの歌)ああ、その光景はなんと美しいのだろう

本格的に春が訪れ、辺り一面に咲き誇る草花や野山の新緑、小鳥のさえずりなどが心をときめかす……。 春を迎えた嬉しさと希望が躍動感をもって歌われる。

夏/ 第11曲三重唱と合唱 「太陽が昇る!」

「夏」の第3曲目の三重唱と合唱。今まさに太陽が昇ろうとする歓喜の瞬間をハンナ、ルーカス、シモンらと共に村人たちが讃えて歌う印象的な場面。

夏/第17曲 合唱「ああ、嵐が近づいた」

ベートーヴェンの田園交響曲の第4楽章のように、雷鳴がとどろき、激しい豪雨が降り注ぐ。金管楽器やティンパニをはじめとする管弦楽と合唱の響きでスケール雄大に展開される。

秋/第18曲(二重唱) 町から来た美しい人、こちらへおいで!

ハンナとルーカスの愛の二重唱。最初は恋の駆け引きのようにユーモアを交えて歌われるが、中間部で誠実な愛、愛の本質について深まってゆく。

 

秋/第26曲「聞け、この大きなざわめきを」

角笛を真似たホルンの彫りの深い響きが印象的で、村人と狩人たちの合唱(男声の野趣で雄々しい歌声)と重なり、生命の賛歌を轟かせてやまない。

冬/第34曲 合唱付きリート「くるくる回れ」(糸車の歌)

非常にユニークでハイドン独特のリズムとユーモアを兼ね備えた循環形式のナンバー。ちょっぴり哀感を漂わせるが、それは当時の糸巻きという特殊な職種へのイメージなのかもしれない。

 

冬/第39曲 三重唱と合唱「それから、大いなる朝が」

「冬」というより、全体を締めくくるフィナーレに相当するナンバー。自然への感謝と喜びが、来るべき希望の世界を約束するかのようにフーガのメロディとともに大いなるフィナーレを迎える!

オススメ演奏

1990年代頃までであれば、ベーム指揮ウィーン交響楽団、ウィーン楽友協会合唱団、ヤノヴィッツ、シュライヤー、の演奏も充分に名盤として一聴すべき価値を保っていたように思います。

しかし今聴くと合唱のヴィブラートや固い表情がどうしても気になりますね。ベームの骨太の表現、ヤノヴィッツ、シュライヤーの存在感のある歌が光っているだけに残念といえば残念です。

ヤーコプス指揮フライブルク・バロックオーケストラとRIAS室内合唱団、ギューラ(S)、ヘンシェル(T)、ペーターゼン(Br)他

「四季」の全曲盤はルネ・ヤーコプス指揮フライブルク・バロックオーケストラとRIAS室内合唱団、マルリス・ペーターゼン(Br)、ディートリヒ・ヘンシェル(T)、ヴェルナー・ギューラ(S)の演奏(ハルモニア・ムンディ)が録音、演奏、歌心、共感度等すべてにおいて最高のパフォーマンスといえるでしょう。

ストーリー的な流れも自然だし、歌にメリハリがあります。ソリストたちの歌も雰囲気満点で「四季」の自由で喜びにあふれた作品の性格を明確にしていきます。 

指揮は終始やりたいことをやり尽くしているのに嫌味がまったくありません!
ヤーコプス盤はできれば最初から最後まで聴き通すことをお勧めしたいですね…。

そうすれば曲の本質がぐっと近くなるでしょうし、それを見事に伝えるヤーコプスの解釈や音楽性がいかに優れているかが分かると思います。 

全体を一度に聴こうと思ったら、現在のところヤーコプス盤しかないといっても過言ではありません。

ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツおよびモンテヴェルディ合唱団、ボニー(S)、ジョンソン(T)、シュミット(Br)他

Haydn, J.: The Seasons

 

ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツおよびモンテヴェルディ合唱団、バーバラ・ボニー(S)、アントニー・ロルフ・ジョンソン(T)、アンドレアス・シュミット(Br)(アルヒーフ)も素晴らしい出来栄えです。 

特にボニーの可憐な歌は全体の華になっていて、ハンナの役柄にぴったりです! モンテヴェルディ合唱団のハーモニーは透明で美しい表情が素晴らしく、ハイドンの合唱の魅力を引き立たせています。ガーディナーの解釈もセンス満点です。

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