極上のひとときを約束してくれるバロック音楽の傑作 テレマン「ターフェルムジーク」

理屈抜きに楽しめる作品

テレマンの代表作、「ターフェルムジーク」は「食卓の音楽」という意味のバロック音楽の名曲です。
バッハの「ブランデンブルク協奏曲」や「管弦楽組曲」と並んであまりにも有名な作品ですから、きっと皆さんもこの曲集のフレーズのどこかを一度は耳にされたことがあることでしょう……。
「食卓の音楽」というタイトルから、当時の王侯貴族たちが食事の際に退屈しないためのBGMとして、作曲されたのではないかというイメージがあります。
確かに音楽のイメージからすれば決して間違いではないのでしょうが、元々この曲は普通に協奏曲やトリオソナタとして作曲されたものをネーミングを付けて一つの曲集として発刊し、売り出したものだったのです。しかも予約出版という形でこの曲集を完成させているのです!
テレマンの企画と戦略は大いに的中して、ヨーロッパ全土から予約が集まったのでした。
それにしても洒落ていて熟成されたワインのように味わい深い作品ですね……。
全3巻から成る「ターフェルムジーク」は聴く人を退屈にさせないというコンセプトからなのか、とてもバラエティに富んでいます。
組曲、四重奏曲、協奏曲、トリオ・ソナタ、ソロ・ソナタ等の計6種類の多彩な形式で構成されています。
この作品は祝典用としても大いに重宝したらしいのですが、曲を聴くとそれも充分うなずけます。
たとえばバッハの管弦楽組曲あたりと比べると違いは明らかです。
バッハの作品が祝典用の音楽というよりも、ドラマティックでやや襟を正さなければならない雰囲気を表しているのに比べ、この作品集はまるでBGMに特化したのではないかと思えるほどあらゆるシーンにすんなり馴染みやすいのです!
比較的平明な主題から繰り出される洗練と優雅さを併せ持った楽器の響きはテレマンならではです。

演奏する喜び、聴く喜び

この作品の最大の魅力は曲の構成がどうこうというより、純粋に音楽を演奏し、それを聴くことの楽しさや喜びが満載だということでしょう!
それぞれの曲のテーマは驚くほど多彩で充実しています。そしてどれもこれも親しみやすく、耳に馴染みやすい特徴を持っているのです。
生き生きとしたリズムの煌めきがあるかと思えば、魅力的な旋律の陶酔あり、哀しみのシチリアーノあり、深い癒やしの効果もある……、とにかく音楽の魅力が全編にぎっしりと詰まっているのです。
当時ヨーロッパ最高の知名度と人気を誇ったテレマンの魅力は、音楽の中にも垣間見ることができるのです。
バッハやヘンデルの両巨匠にも多大な影響を与え、プライベートでも末永く交流を続けたことからも、テレマンの気さくで謙虚な人柄が浮かんでくるようですね。
音楽には構えた要素や刹那的な意思が一切働いていないため、聴く人は安心して音楽に浸ることが出来るのです。別の言い方をすれば、最高の癒しの音楽と言っていいのかもしれません!
ターフェルムジークは3巻から成り、どこから聴いても、取り出して聴いてもまったく違和感なく、心ゆくまで楽しめる傑作中の傑作なのです…。

聴きどころ

第1巻 序曲(組曲)ホ短調・Ouverture

豪華な祝宴の開幕にふさわしい大曲で、冒頭に壮麗なフランス序曲が置かれています。

第1巻 序曲(組曲)ホ短調・Passpied

シンコペーションが特徴の軽快な3拍子系の舞曲。トゥッティ/ソロ/トゥッティの対比が印象的。

第1巻 四重奏ト長調・第1楽章

緩急緩のフランス序曲風。ゆったりしたリズムの優美なシチリアーノ風の旋律が印象的。3つの独奏楽器の掛け合いは次の楽章まで続きます。

第1巻 協奏曲イ長調・第1楽章 ラルゴ

古風な教会ソナタ形式を基調に、歌うような旋律と目を見張るようなスタッカートの分散和音との対比が印象的。

第2巻 トリオ変ホ長調・第1楽章 Affettuoso

ヴィオラやチェロの低弦による気品にあふれ、落ち着いた響きは時を忘れさせてくれます。

 

第2巻 序曲(組曲)ニ長調   Ouverture

清澄で格調高い序奏が終わるやいなや、華やかなフーガ風の主題が現れて曲が大きく発展していきます。

第2巻 協奏曲ヘ長調・第3楽章 Vivace

主要な旋律を担当するヴァイオリンと通奏低音の弦の響きが見事に調和し、効果を発揮しています。推進力に溢れた響きが刻まれます。

第2巻 終曲 ニ長調 Allegro – Adagio – Allegro

自然の息吹を伝える朗々としたトランペットやオーボエの響きが広がりのある空間を生みだし胸をときめかせます! ヴァイオリンや管楽器の効果的な使い方が印象的です。

第3巻 序曲(組曲)変ロ長調Ouverture

ゆったりとしたリズムで壮重な序奏が展開されますが、堅苦しさや気難しさが一切ありません。旋律の優しさや人懐っこさが印象的です。

第3巻 序曲(組曲)変ロ長調第6楽章 Badinage

小気味のよいリズム、生き生きとした動きに溢れたメロディが心地よい楽章です。

 

オススメ演奏

アウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼル・スコル・カントルーム

「ターフェルムジーク」は一にも二にも演奏が良くないと、音楽の魅力が半減してしまいます。
残念ながら、現状ではほとんどの演奏がつまらない部類と言っていいでしょう……。
それは「ターフェルムジーク」が音楽の親しみやすさとは別に、想像以上に演奏が難しいことも要因かもしれません。普通に演奏すると細かなニュアンスや魅力が、どうしても消えてしまいがちなのです。
そんな中で唯一無二の素晴らしさを誇る演奏があります。アウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼル・スコル・カントルーム合奏団です。もちろん各楽器の奏者はとびきりの名手揃いなのですが、それだけではありません。
たっぷりとした呼吸やフレージング、そして潤いのある楽器の音色…。しかも絶えず奏でられる温もりのある響き…。
何よりも格調高い表現が際立ってるし、音楽を楽しむゆとりや遊び心に満ち溢れているのです。
指揮者をはじめとしてソリストたちが音楽を心底愛し、深く体感していることが伝わってきますね…。
たとえば第1集の協奏曲イ長調ラルゴで、各楽器が微笑みながらおしゃべりを交わすように奏でられる響きは何度聴いても飽きることがなく、まさに音楽に浸る喜びを実感させてくれます。

ラインハルト・ゲーベル指揮ムジカ・アンティクヮ・ケルン

テレマン:ターフェル・ムジーク

 

どうしてももう一枚という方には、ゲーベル=ムジカ・アンティクヮ・ケルンがいいかもしれません。

小気味良い造型とリズム、キビキビした快速なテンポは一種の爽快感がありますね。

聴かせどころをしっかり押さえていて、どの曲をとってもターフェルムジークの魅力いっぱいです! ターフェルムジークの入門編としても最高の選択かもしれません。

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