格別な癒やしと慰めの音楽 ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ

光と影と穏やかな温もり

 

ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」ほど、聴く時の気分によって曲のイメージが変わる作品はありません。

8年ほど前、中学の吹奏楽部で顧問をしていた高校時代の同級生が亡くなり、彼の追悼コンサートに参席しました。

その時、回想のシーンのバックで流れたのが、フルートのソロによる「亡き王女のためのパヴァーヌ」でした。

演奏も気持ちがこもって素晴らしかったですが、その音楽からは優しさが前面に押し出されていて、「なんて素敵な音楽なんだろう」と改めて、その魅力を実感したものです。

この曲は本当に固苦しくないし、聴き疲れしない曲ですね。まるで乾いた土に水が染み込むように、自然で違和感がないのです。

全体に穏やかで懐かしさを覚える曲の佇まいは、これがラヴェル自身の原風景を伝えているのかもしれません、

 

ピアノ版も管弦楽版も光る

 

この曲はラヴェルが1899年に作曲したピアノ曲でした。

あたり一面にみずみずしい空気、柔らかな光や影が立ち込めるような第一主題の穏やかな情感はもちろん素晴らしいです。

魅力はもちろんそれだけではありません。

第二主題になると一転、回想のシーンが浮かんできて心の内面を映し出すように音色が深みを増していきます。

ただしエレガントな香りが音楽の端々に息づいているので、深い満足感のうちに曲を聴き終える事が出来るのです。

管弦楽版もラヴェルの編曲で、こちらも素敵ですね!

ラヴェルといえば、ムソルグスキーのピアノ曲「展覧会の絵」を管弦楽版に編曲し、大成功を収めた人でもあります。

当然、管弦楽版もピアノ版と同じ息づかいが終始あふれているのです。

陰影があって、詩情豊かな楽器の音色は「さすがラヴェル!」と思わせるものがありますね。

 

ピアノと管弦楽の名盤の数々

ピアノ演奏で最初に挙げたいのがサンソン・フランソワ盤(ワーナーミュージック・ジャパン)です。

自由な感性とアドリブのような即興感覚が印象的な演奏です。それでもしっとりとした味わいが伝わってくるのはフランソワの感性の豊かさでしょう…。

特に素晴らしいのは音色です。

ピアニッシモが胸に響きますし、無限に彩られる色彩的なタッチはフランソワならではです。

 

モニク・アース盤(ワーナーミュージック・ジャパン)は彼女のラヴェル録音の中で最も優れた演奏ですね。

しっとりとした情感こそ、彼女の演奏スタイルの本領なのでしょう。

特別なことはしていませんが、ひたむきさと洗練されたピアノのタッチが音楽を美しく磨き上げています。

管弦楽曲版はシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(ユニバーサルミュージック・ジャパン)が最高です。

木管楽器の温もりのある響きや弦の透明感は秀逸で、安心してこの曲に浸る事ができます。

バラード調の曲を変に丁寧にならず、多彩な音色の変化をつけながら豊かな雰囲気を醸し出しているのが見事です。

録音も優秀です。

 

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