音のパレットから紡ぎ出される洗練と詩情!ドビュッシー『前奏曲全2巻』

感性が光る名曲

 

印象派の音楽家と言えば「ドビュッシー」というくらい、革新的で感性豊かな音楽を確立した人ですが、「彼のピアノ曲はどうも苦手だ……」とおっしゃる方は少なくなくありません。

初期の『アラベスク』や『ベルガマスク組曲』あたりは調性やメロディラインもはっきりしており、比較的親しみやすいのは間違いありません。

しかし後期の『映像』や『前奏曲』、『練習曲』になるとお手上げという方が意外と多いのでしょう……。

特に「前奏曲全2巻」(作曲は第1巻1910年、第2巻1913年)には彼の音楽的エッセンスが詰め込まれています。

 

ドビュッシー(1862-1918)

 

ドビュッシーの音楽をメロディーや曲のスタイルだけで聴こうとするとかなり無理があるのは事実です。

ベートーヴェンやモーツァルトはもちろん、ショパン、シューベルトのような古典派、ロマン派のピアノ曲と比べても性格、構成、作曲スタイルが大いに違います。

まずは、曲の持つ多様な音の世界に純粋に身を浸してみましょう! 

ドビュッシーのピアノ曲を好んで弾くピアニストにとっては至福の作品なのでしょうね……。作品は絶えず五感に訴える何かがあり、その陰影に満ちた魅力や面白さが格別なのです。

詩的なイメージを醸し出す

 

さて、『前奏曲』は第1巻と第2巻がそれぞれ12曲ずつ、計24曲の独立した小曲から成っています。

つまり演奏会で単独に曲を抜き出して演奏されようと、続けてセットで演奏されようとも何ら音楽としての不自然さはないのです。

曲に耳を傾けると実に様々な情景が浮かんできますね。

それは自然の情景や現象にイメージを借りた心象風景かもしれませんし、一音一音に込められたメッセージが絶妙な音色美となって詩的なイメージを醸し出していくのです。

多分に感覚的な音楽のため、ピアノを弾く人によって曲のイメージがかなり違う印象になるのです。

 

とにかく音のニュアンスが多彩で洗練されています。

たとえば、夢のようなまどろみがあるかと思えば、原色のような輝かしいイメージを伝えたり、深海に潜む闇のイメージを匂わせたり、どこまでも澄んだ青空の透明感を感じさせたり、神秘的な光を発する音色だったり……。

まるでさまざまに調合された音色のパレットを見るようなのです。『前奏曲』は24曲どれもが個性的で一つの枠にはまらない独特の輝きを放っています! 

 

聴きどころ

第1巻 第5曲「アナカプリの丘」

大胆な主題とリズムが、きらめく光と風にあふれた地中海沿岸地方の明るさを想わせる。

第1巻 第6曲「雪の上の足跡」

しんしんと降る雪を見つめるように、凍てつく冬の日の様子を描いた音楽。引きずるようなリズムと淋しさを漂わせたメロディが印象的。

第1巻 第10曲「沈める寺」

神秘的な光と雄大な高揚感に圧倒される。曲のクライマックスで鳴り響く大聖堂の鐘の音が荘厳さと神秘さを漂わせる。

第2巻 第5曲「ヒースの茂る荒れ地」

ゆるやかに情景が移り変わるように、穏やかな時間が流れる。優しげな光と風の余韻が忘れられない…。

第1巻 第12曲「ミンストレル」

リズムが独特で思わず身体を動かしてしまいそうな音楽。ドビュッシーがイギリスで見た陽気で楽しいミンストレル・ショーが着想のヒントとなる。

オススメの演奏

ミシェル・ベロフ(P)

UHQCD DENON Classics BEST ドビュッシー:前奏曲集第1巻、子供の領分 他

 

ベロフの演奏はケレン味がなくて、ピュアな感性による演奏がドビュッシーの音楽の魅力を生き生きと伝えてくれます。初々しい感動がインスピレーション豊かに育くまれているのです!

しかも音の芯の強さや、繊細で豊かな香りはドビュッシーを聴く喜びでいっぱいに満たしてくれます。。 

瑞々しいタッチと透明感のある響き、情感が生き生きとドビュッシーの世界を表現しています。前奏曲の演奏は数々ありますが、ベロフの演奏を聴けばきっとさまざまなメッセージが伝わることでしょう。

 

サンソン・フランソワ(P)


Debussy: Piano Works

フランソワの演奏は実に個性的です。

しかしここでは、その個性が大きな魅力となって聴くものを惹きつけてはなしません。

録音は古くなったものの、今でも前奏曲の決定盤といえる名演奏でしょう!

曲の性格・本質もしっかり掴んでいてアプローチにもまったくぶれがありません。そのため表現はすみずみまで豊かなニュアンスに彩られていて、聴いていて面白いし飽きないのです。

理屈っぽさはまったくなく、音色が無限に変化し、エレガントでフランス的なエスプリも実感させてくれます。研ぎ澄まされた彼の感性は曲によって、さまざまな表情をみせてくれるのです。

ドビュッシーが伝えたかったことが手にとるように伝わってくるし、何より理屈っぽさがまったくないのは、それだけ彼が曲を愛し、深く入り込んでいるからなのでしょう……。

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