グリーグ《ペール・ギュント》とは?|放浪の物語と「朝」「ソルヴェイグの歌」の世界

目次

《ペール・ギュント》とは?|作品概要と基本情報

グリーグの生まれ故郷ベルゲン(ノルウェー)
グリーグの生まれ故郷・ベルゲン(ノルウェー)

《ペール・ギュント》は、ノルウェーの作曲家グリーグが、劇作家イプセンの劇詩『ペール・ギュント』のために作曲した劇音楽です。

作曲は1874〜1875年、舞台作品としての初演は1876年に行われました。

もともとは全26〜27曲に及ぶ大規模な劇付随音楽でしたが、その後グリーグ自身が特に人気の高い楽曲を抜粋し、《ペール・ギュント第1組曲》《第2組曲》として再編しています。

現在では《朝》《オーセの死》《山の魔王の宮殿にて》《ソルヴェイグの歌》などの名曲によって、クラシック音楽の中でも特に親しまれている作品となっています。

「ペール・ギュント」のストーリーは、自由奔放で虚栄心が強く、現実から逃げ続ける男ペールの波乱万丈の人生を描いたものです。しかし単なる冒険物語ではなく、

  • 自分とは何か
  • 本当の幸福とは何か
  • 人はどこへ帰るのか

といった、人間の根源的なテーマが込められています。

そこへグリーグは、北欧の自然や民族的な香りを感じさせる美しい旋律を書いたのでした。幻想的で神秘的な場面、荒々しい場面、静かな祈りの場面までを鮮やかに描き分け、イプセンの世界を音楽によってさらに豊かなものへと高めたのです。

作品データ

作品名《ペール・ギュント》(Peer Gynt)
作曲者エドヴァルド・グリーグ
原作ヘンリック・イプセンの劇詩『ペール・ギュント』
ジャンル劇付随音楽
作曲年1874〜1875年
初演1876年2月24日
クリスチャニア(現在のオスロ、ノルウェー)
曲数全26〜27曲
有名な組曲《ペール・ギュント》第1組曲 Op.46 / 第2組曲 Op.55
第1組曲の代表曲《朝》《オーセの死》《アニトラの踊り》《山の魔王の宮殿にて》
第2組曲の代表曲《イングリの嘆き》《アラビアの踊り》《ペール・ギュントの帰郷》《ソルヴェイグの歌》
特徴北欧的な自然描写、民族色、幻想性、詩情豊かな旋律
演奏形態管弦楽、独唱、合唱を含む

※《ペール・ギュント》は本来、舞台劇のための音楽として作曲されましたが、後にグリーグ自身が人気曲を抜粋して2つの管弦楽組曲へ再編しました。現在では組曲版が特に有名です。

あらすじ|放浪を続けたペールが最後に見つけたもの

主人公ペール・ギュントは、空想癖が強く、見栄っ張りで無責任な青年です。母オーセに甘やかされて育った彼は、村でも問題児のような存在でした。

ある日、彼は婚礼の場で花嫁を略奪して村を追われ、その後は故郷を離れて放浪の旅へ出ます。

旅の途中では、

・山奥で妖精・魔物の世界に迷い込む
・アフリカで商人として財を築く
・欲望や虚栄に振り回される
・嵐や難破に巻き込まれる

など、次々に数奇な体験を重ねていきます。

しかし、その人生は常に“本当の自分”から逃げ続ける旅でもありました。

年老いたペールは、最後に「おまえは一度も本当のおのれ自身であったことがない」と問い詰められます。

そこで彼が辿り着いたのは、長い年月ずっと彼を待ち続けていた恋人ソルヴェイグのもとでした。ソルヴェイグは、若い頃と変わらぬ愛で彼を迎え入れます。

彼女の子守唄に包まれながら、ペールはようやく安らぎを得るのでした。この結末は、“人はどれほど遠回りをしても、最後には愛や赦しの中へ帰っていく”という深い余韻を残します。

なぜ《ペール・ギュント》は有名なのか?

《ペール・ギュント》が世界中で愛され続けている最大の理由は、劇音楽でありながら、一曲一曲が単独でも非常に魅力的だからでしょう。

特に、

・《朝》
・《山の魔王の宮殿にて》
・《オーセの死》
・《ソルヴェイグの歌》

などは、クラシック音楽に詳しくない人でも一度は耳にしたことがあるほど有名です。

中でも《朝》は、爽やかな朝の情景を連想させる音楽として、テレビ番組やCMなどでも頻繁に使用されています。

実際には“モロッコの朝”を描いた音楽であることも有名なエピソードです。また、《山の魔王の宮殿にて》の徐々に熱狂していく迫力ある音楽は、映画・ゲーム・CMなどでも数多く使われています。

さらに《ペール・ギュント》には、単なる名曲集にとどまらない魅力があります。

作品全体には、

・北欧の自然を感じさせる澄んだ響き
・民族音楽的なリズム
・幻想性と詩情
・人間の孤独や救済

が濃厚に漂っており、聴く人の感情や想像力を強く刺激するのです。

そしてもう一つ大きいのが、グリーグが後に編んだ「組曲版」の存在です。

本来《ペール・ギュント》は劇音楽でしたが、人気曲を抜粋した2つの組曲によって世界的に広く知られるようになりました。

現在でも演奏会で最も多く親しまれているのは、この組曲版です。

組曲版と全曲版の違い|本当の《ペール・ギュント》を味わうには?

現在もっとも演奏されることが多いのは、《ペール・ギュント》第1組曲・第2組曲です。

第1組曲には、

・《朝》
・《オーセの死》
・《アニトラの踊り》
・《山の魔王の宮殿にて》

などの有名曲が収められています。

一方、第2組曲には、

・《イングリの嘆き》
・《アラビアの踊り》
・《ペール・ギュントの帰郷》
・《ソルヴェイグの歌》

などが含まれています。

組曲版の魅力は、何といっても名曲をコンパクトに楽しめることです。

クラシック初心者でも親しみやすく、《ペール・ギュント》の世界へ入る入口として最適でしょう。しかし、本来の《ペール・ギュント》の魅力を深く味わいたいなら、やはり全曲版がおすすめです。

全曲版では、

・ペールの放浪
・ソルヴェイグの祈り
・母オーセとの関係
・人生の虚しさや孤独

といったドラマが、音楽によって有機的につながっています。

組曲版だけでは見えにくい人物の感情や物語の流れが、全曲版でははるかに立体的に感じられるのです。

特にラストの《ソルヴェイグの子守唄》まで通して聴いた時の感動は格別で、単なる“名曲集”では終わらない、人間ドラマとしての深い余韻が残ります。

まずは組曲版から親しみ、気に入ったらぜひ全曲版へ進んでみる――それが《ペール・ギュント》をより深く味わう一番の近道かもしれません。

劇音楽《ペール・ギュント》誕生の背景|イプセンとグリーグ

イプセンとグリーグの協調で
『ペールギュント』は完成した

「ペールギュント」舞台劇の作曲は原作者のイプセンからのたっての依頼でした。

もちろんイプセンとグリーグは同郷(ノルウェー)の芸術家ということもありますが、イプセンがグリーグの音楽こそ、この作品にはどうしても必要と直感的に感じたからなのでしょう。

グリーグは劇音楽の作曲は自分には合わないと思っていたらしく、まして「音楽的なイメージを浮かべにくい性格の劇詩に音楽をつけるのは苦痛を伴う」とさえ漏らし躊躇していたようです…。 

しかし、イプセンからの全面的な信頼や激励の言葉が彼の心を動かしたようですね。 作曲にあたっては、故郷のベルゲンの湖畔に小屋を借りて籠もりっきりで作曲に専念するなどの力の入れようだったのでした。

結果的には、作品に流れている北欧的情緒やノルウェーの風土を彷彿とさせる描写はこの劇音楽にぴったりのもので、舞台劇の魅力を大きく引き上げる要素にもなったのでした。

 
グリーグのペールギュントには有名な「朝」や「オーセの死」をはじめとする4曲で構成した第一組曲や、「アラビアの踊り」や「ソルヴェイグの子守歌」をはじめとする4曲で構成した第二組曲などの管弦楽の組曲もあります。

もちろんペールギュントに親しみたいならば、これらの組曲から聴くのは近道だし、充分に意義のあることでしょう。

しかし、ペールギュントの本質や醍醐味を味わいたいならば、組曲版ではなく全曲版を通して聴くことをオススメします。

全曲版には抜粋版にはない劇全体の息づかいや登場人物の心情が漂っていて、グリーグが本来意図した劇音楽としての魅力が充満しているのです! 

聴きどころ

第1幕への前奏曲・婚礼の場で|ペールとソルヴェイグの出会いを彩る序章

まず最初にペールの主題がお調子者のように賑やかに現れます。そしてペールがこの祝宴の場でソルヴェイグと初めて出会う様子が有名な「ソールヴェイの子守歌」で表現されます。

第4曲 《花嫁の略奪とイングリの嘆き》|捨てられた花嫁の悲しみが胸を打つ

第1幕前奏曲のペールの主題がここでは短調で印象的に示された後、捨てられたイングリの悲しみが次第に高潮し、嘆きへと変貌していきます。

第8曲《山の魔王の宮殿にて》|狂気の高揚感が圧巻

単独でも演奏されるナンバー。魔王の宮殿にトロルたちが集まり、魔王の娘を弄んだ張本人として「ペールを殺せ!」と叫びます。

低弦ピッツィカートの不気味な音型を繰り返しつつ、トロルたちの合唱も加わると激しさはピークに達します。

第12曲《オーセの死》|静かな悲しみが胸を打つ名曲

ペールを愛し続けた母オーセの死を表わす第3幕 への前奏曲。心に深く染み入る悲しみの旋律が印象的です。

第13曲《朝》|世界で最も有名な“朝の音楽”

第4幕への前奏曲です。組曲版では「朝」として知られる有名曲です。爽やかな澄んだ空気の朝が眼前に開けてくるようです。

第22曲 《難破》|嵐の恐怖を描く劇的な海洋描写

ペールの船が嵐に見舞われる情景です。半音階の不協和音を多用しながら嵐の破壊力を見事に描写しています。

第23曲《ソルヴェイグの歌》|待ち続ける愛の名旋律

この作品中の最高の名曲。ノルウェーの山小屋で糸を紡ぎながらひたすらペールの帰郷を待ち続けるソールヴェイが歌う曲。

第25曲《ペンテコステの讃美歌“祝福の朝なり”》|静かな祈りに包まれる終幕前の音楽

教会で人々が歌う無伴奏の聖霊降臨祭の歌。

第26曲 《ソルヴェイグの子守唄》|愛と赦しに包まれる感動のフィナーレ

フィナーレを飾るにふさわしい愛と祈りが結集した音楽。ソルヴェイグの慰めや安らぎに満ちた子守唄が美しいです 。やがて人々の合唱も重なり、ペールは愛する人の傍らで眠るように永遠の眠りにつきます……。 

オススメ演奏

ネーメ・ヤルヴィ盤

グリーグ:ペール・ギュント(全曲)

「ペール・ギュント」には素晴らしい演奏があります。

ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団、プロ・ムジカ室内合唱団、バーバラ・ボニー(ソプラノ)etc、ユニバーサルミュージックがそれです。

ボニーの歌は美しく哀切な声の響きがソルヴェイグにぴったりで、思わず聴き込んでしまいます。

ヤルヴィの全体のバランスを読み、ストーリーの展開に沿った表現も秀逸で、「ペール・ギュント」の魅力を再認識させてくれることでしょう!

そして何よりも表面的な劇音楽にとどまらず、深い人物表現や詩情漂う物語として再現しているところにこの演奏が価値があると言ってもいいかもしれません。

よくある質問(FAQ)

《ペール・ギュント》とはどんな作品ですか?

《ペール・ギュント》は、ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグが、劇作家ヘンリック・イプセンの劇詩のために作曲した劇音楽です。主人公ペール・ギュントの波乱万丈な人生を描いた作品で、《朝》《山の魔王の宮殿にて》《ソルヴェイグの歌》などの名曲によって世界中で親しまれています。

《ペール・ギュント》のあらすじを簡単に教えてください。

主人公ペールは、空想癖が強く、自分勝手な青年です。故郷を離れて世界を放浪し、富や名声を追い求めますが、人生の終わりに「本当の自分とは何か」を問い直すことになります。そして最後には、長年変わらぬ愛で待ち続けていた恋人ソルヴェイグのもとへ帰り、安らぎを得るのです。

《ペール・ギュント》はなぜ有名なのですか?

《朝》や《山の魔王の宮殿にて》など、単独でも楽しめる名曲が数多く含まれているためです。また、美しい旋律だけでなく、「人間とは何か」「人生の意味とは何か」という普遍的なテーマを扱っていることも、多くの人を惹きつける理由の一つです。

《朝》はどんな場面の音楽ですか?

《朝》は第4幕への前奏曲として作曲された音楽です。爽やかな朝の情景を思わせることで有名ですが、実際には北欧ではなく、ペールが旅している北アフリカの朝を描いた場面とされています。フルートとオーボエによる美しい旋律は、クラシック音楽の中でも特に有名です。

《山の魔王の宮殿にて》はどんな曲ですか?

ペールがトロール(魔物)の世界に迷い込む場面で演奏される曲です。同じ旋律が繰り返されながら徐々に速度と迫力を増していき、最後には熱狂的な盛り上がりを見せます。映画やCM、ゲーム音楽などにもたびたび使われる人気曲です。

組曲版と全曲版はどう違うのでしょうか?

組曲版は、グリーグ自身が劇音楽から代表的な楽曲を抜粋してまとめた管弦楽作品です。一方、全曲版は舞台劇のための音楽をほぼ完全な形で収録したもので、独唱や合唱を含み、物語全体の流れを味わうことができます。まずは組曲版から親しみ、その後に全曲版を聴くと作品への理解がより深まるでしょう。

《ペール・ギュント》で最も有名な曲は何ですか?

一般的には《朝》と《山の魔王の宮殿にて》が特に有名です。一方で、作品全体を知る人の間では《ソルヴェイグの歌》や《オーセの死》も非常に高く評価されています。

初心者には組曲版と全曲版のどちらがおすすめですか?

初めて聴く場合は組曲版がおすすめです。《朝》や《アニトラの踊り》などの人気曲を気軽に楽しめます。一方、物語の流れや登場人物の心情まで味わいたい場合は、ぜひ全曲版にも挑戦してみてください。《ペール・ギュント》の真の魅力は、全曲版でより深く感じられるはずです。

おすすめの演奏はありますか?

全曲版では、ネーメ・ヤルヴィ指揮、エーテボリ交響楽団による録音が高く評価されています。北欧らしい透明感のある響きと、物語の流れを自然に感じさせる表現が魅力です。ソルヴェイグを歌うバーバラ・ボニーの美しい歌唱も聴きどころの一つです。

《ペール・ギュント》はどんな人におすすめですか?

北欧音楽の美しい響きを味わいたい方はもちろん、物語性のある音楽が好きな方にもおすすめです。また、「自分とは何か」「人生の終着点とは何か」といったテーマに関心のある方にとっても、《ペール・ギュント》は深い感動を与えてくれる作品でしょう。

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