涼やかな風と光を感じる名曲!モーツァルト・フルートとハープのための協奏曲

パリ滞在時に依頼を受けた名曲

 

この曲はモーツァルトがパリ滞在中の1778年に作曲されました。今や誰もが知るフルートとハープのバイブルのような名作ですね。

きっかけはフルート奏者でもあったギーヌ公爵アドリアン=ルイ・ド・ボニエールの依頼によるものでした。

モーツァルトから作曲のレッスンを受けていた彼の長女(才能はなかったらしい)でハープ奏者のマリー=ルイーズ=フィリピーヌと公の場で協演するために作曲されたということだったようですね。

しかしギーヌ公爵から出来上がったこの作品に対して、モーツァルトに報酬が支払われることはありませんでした。

さらにレッスン料は公爵の家政婦を通じてようやく約束の半額だけを提示されたに過ぎなかったのです。

モーツァルトにとって苦い経験でしかなかった作品ですが、フルートとハープから魅力を存分に引き出した音楽性は傑出していますね!

モーツァルトが活動した18世紀頃は、ハープはまだ発展途上の楽器で、オーケストラの楽器の一部とはみなされていませんでした。しかも当時はハープとフルートのセッションは極めて異例だと考えられていたようです。

それなのにこの素晴らしさ! モーツァルトが楽器の魅力を完璧に掌握していた証でしょう。

 

涼風のような爽やかさが心をくすぐる

 

フルートとハープのための協奏曲を聴くと、懐かしさととともに、2つの楽器が織りなす涼風のような爽やかさが湧き上がってきます……。

この曲は私にとって夏の終わりに吹く涼しい風のようなのです。

最近はお盆を過ぎても猛暑が続き、10月頃でもまれに30度を超す日が決して珍しくありません。しかし1990年代の前半頃まではお盆時期を過ぎると嘘のように涼しくなり、季節が変わりはじめたことを実感したものでした。

肌にまとわりつく真夏の暑い風とは明らかに違う風が吹き、涼しさが肌に伝わってきたのです。

この曲のフルートとハープの音の掛け合いは、ちょうど静けさを取り戻した海の波間や砂浜が光を浴びてキラキラと輝く光景のようです…。

全楽章を通じておよそ30分少々の作品ですが、長さをまったく感じさせません。それどころか、終始流れる(漂うと表現したほうがいいかも)フルート、ハープのこの世のものとは思えないような癒やしの響きに心を奪われっ放しなのです。

 

聴きどころ

第1楽章 アレグロ、ハ長調

ハ長調・分散和音の華麗な第1主題で始まるが、フルート、ハープ、それぞれの音色の持ち味が充分に活かされている。

ピュアで気品にあふれた表情が美しく、2つの楽器が主旋律、伴奏を交替させながら音楽は進行する。

第2楽章 アンダンティーノ、ヘ長調

時間が止まったかのような゙ひとときの安らぎを想わせる音の余韻がたまらない。

オーボエやホルンなどの管楽器を省き、弦楽器だけに抑えたオケの伴奏が静かな郷愁を誘う。フルート、ハープのみずみずしい音色、こぼれ落ちるような情緒がただただ美しい。

 

第3楽章 ロンド:アレグロ、ハ長調

テーマはロココ調を基本にしているが、変幻自在で1小節ごとに音楽の表情は移り変わっていく……。

しかし透明感にあふれた音楽の表情は変わらず、心に深く浸透してくる。フルートとハープの雅やかな饗宴が儚くも美しい。

 

オススメ演奏

リリー・ラスキーヌ(hp)、ジャン・ピエール・ランパル(fl)、パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団

古くから名盤のほまれ高いアルバムです。

何と言ってもフルートのランパル、ハープのラスキーヌの存在が大きく、二人の表現力や表情のデリカシーは群を抜いています。

ラスキーヌの陰影に富んだ音の響き、ランパルの澄んだ音色の美しさが心を震わせます。

特に第2楽章の、浜辺で憩いのひとときに佇むような美しい響きは無上の美しさといえるでしょう。

 

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