センスあふれる表現が光る! ドガ「婦人帽子店」

「婦人帽子店」ドガ/1879&1886/油彩/シカゴ美術館
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抜群の洞察力、表現力

ドガはルネッサンスから古典派へと続く、正統的でアカデミックな画壇の系譜を受け継いだ数少ない実力画家の一人です。

持ち前のデッサンの腕前は比較する対象がいないくらい抜群でしたが、特に油彩よりもクロッキーやパステル画などのスピード感や観察力がものをいう描画において最高に適性を発揮した人と言えるでしょう。

さらに父が資産家で、パリのオペラ座(オペラやバレエ公演の有名な団体)の会員だったらしく、その資格をドガがそのまま受け継いだことは彼にとって幸運でした。

その当時の会員特典はバレエ公演の楽屋裏や練習風景を自由に見学できるというものがあって、モチーフ選びや技術の練磨には大いに役立ったようです。

ドガがバレエのダンサーたちを描いた数々の名画を手中に収められたのも、こんなところにあったのでしょう。

ドガ『三人の踊り子』(1873)

色彩の美しさに魅せられる

ドガの活動期は、ちょうど印象派の時代にかぶさります。

しかしドガ自身は「西洋絵画の古典派の流れを受け継いでいる」と自負していたようです。本人もアングルを尊敬していたことから、その創作気質がどのようなものかが理解できるでしょう。

したがってデッサンの確かさ、安定感は抜群です!

『婦人帽子店』の色彩のバランスの良さや、卓越した色彩センスにも驚かされますね。

よく見ると色そのものが様々な表情や性格を持っていて、多くのメッセージを語りかけているのがわかります!

全体は、オレンジ系からライトグリーン系の暖色系の色調でまとめあげられているのが印象的です。店内の明るく華やいだ雰囲気、女性専門店のイメージを壊さないように配色にも相当に神経を注いでいるのでしょう。

どの部分をとっても色彩が生き生きとしていて違和感がなく、あらゆる部分が音楽の主旋律、対旋律のように無理なく響き合い溶けあっているのです。

さり気なさの中に光る造形センス

構図も実によく計算されていますね……。ちょっと見ただけだと、とても単純で平凡な日常の光景を描いただけの絵に見えます……。しかし構図の見事さを見ると、なぜこの絵がこんなに魅力的なのかが理解できるでしょう。

まず、奥行きが伝わるような対角線の構図(赤色の罫線で印した箇所)が画面に安定感を与えていることがわかります。

また、それぞれの帽子を結ぶ三角形と逆三角形構図(黄色の罫線で印した箇所)が上下にくっきりと形づくられることによって、テーブルや人物との位置関係も明確になってきます。

さらにその位置関係は垂直線構図(青色の罫線で印した箇所)と交わることによって、帽子の主題としてのテーマや存在感を明確にする効果も発揮しているではありませんか…。三角形構図は画面上にいくつも連なっていて、無理なく視線を誘導する血管の流れのような役割も果たしているのです。

スピーディーな筆のタッチ

絵の部分を拡大してみるとさまざまな発見があります。

それは入念に色を混ぜて描いているのではなく、アクセントになる部分は意外にもスピーディーにさっと描いているということです。

たとえば、上の図にあるように帽子の飾りの部分です。柔らかい花のかたち、質感やイメージを表現するために、念入りに描くのを避け、肩の力を抜き一気に描き上げているのがわかりますね! すると飾りは生き生きとした表情を装い、絵の中でひときわ存在感を放つようになるのです。

ご承知の方も多いと思いますが、ドガはパステル画の達人でした。この絵の色彩トーンもパステル画のように明るく柔らかいのが特徴ですね!

ドガ『小さな婦人帽子店』(1882年)

ドガのパステル画は洗練された色彩やムーブメント(動き)にあふれた造形に魅力があります。

1882年に描かれた『小さな婦人帽子店』もシチュエーションはよく似ていますね。白や黒を効果的に使った表現が色彩の魅力を引き出すのはもちろん、情緒や香り、雰囲気さえ伝わってくるのです……。

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この記事を書いた人

1961年8月生まれ。グラフィックデザインを本業としています。
現在の会社は約四半世紀勤めています。ちょうど時はアナログからデジタルへ大転換する時でした。リストラの対象にならなかったのは見様見真似で始めたMacでの作業のおかげかもしれません。
音楽、絵画、観劇が大好きで、最近は歌もの(オペラ、オラトリオ、合唱曲etc)にはまっています!このブログでは、自分が生活の中で感じた率直な気持ちを共有できればと思っております。

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