「芸術家は幸せになれない…」 映画「私は、マリア・カラス」 



貴重な映像で綴るドキュメンタリー

 

1月にBunkamuraル・シネマで以前から気になっていた映画「私は、マリア・カラス」を見にいってまいりました。

この映画はオペラ好きな人なら、知らない人はいない20世紀の伝説の歌姫マリア・カラスの生涯を貴重な映像と歌で綴った作品です。

この作品が始まって感じたのは、「あれ、この作品って出演者がいない!」でした。

そう、これはナレーションを除いては、ありし日のマリア・カラスが登場する映像をつないで作られたドキュメンタリー映画なのです。

しかもナレーションも要所要所にしか現れず、ストーリーの進行は1970年に収録されたアメリカのTVインタビューを各時代の映像に割り込ませるという独特の構成なのです。

でも、カラスファン、オペラファンにとっては貴重な映像と肉声が甦るとあって、たまらない映画に違いありません。

そして、知らなかったマリア・カラスの人間的側面を垣間みることが出来たのは何よりの贈り物でした!

Maria Callas Remastered: The Complete Studio Recorings, 1949-1969

 

芸術家は幸せになれない

インタビューでカラスが「芸術家は幸せになれないから……」と冗談ぽく呟く場面があります。

このシーンは、私にとって強烈なインパクトでした。

何気なく出た言葉なのかもしれませんが……、ここにはカラスの芸術家としての宿命的な想いが凝縮されているように感じます。

オペラでは悲劇のヒロインを数多くこなし絶賛されたカラスですが、様々な愛のかたちを表現したり、ギリギリまで表現を深めるためには愛も人生も犠牲にしなければならない。いや、せざるを得ない状況に置かれてしまうということなのでしょうか……。

この何気ない一言は、皮肉にもカラスの生涯をそのまま映し出していたように思います。

栄光と挫折の連続

並みはずれた音楽的才能と表現力や演技力、そしてステージ上でオーラを放つ際立つ容貌はカラスを一躍オペラの大スターに仕立てあげます。しかし絶頂期に訪れた突然の体不調、世間やマスコミの猛烈なバッシング、オペラ劇場との契約の打ち切りはカラスの心をどん底に突き落とします。

また、お金や地位に欲が深く、彼女の音楽にはあまり理解がなかった夫メネギーニとの関係はいつしか冷えきり、遂には離婚裁判闘争にまで発展します。

そのような時に現れたのが海運王オナシスだったのでした。

オナシスとは考え方や理想、すべてに意気が合い、遂に人生を共に出来る人が現れたという喜びに浸り、オペラの公演でも次々と大成功を収めるようになります。

 

ディーバの愛と苦悩

オナシスとは9年もの間苦楽を共にし、結婚も時間の問題と思われてきましたが、まさかの事態が起きます。「オナシスがジャクリーン元大統領夫人と再婚」という…。

カラスは「幸せな家庭を築いて子供を産みたかった」と語り、「生涯を共に出来る伴侶が見つかれば、いつだってオペラをやめる覚悟が出来ている…」とも語っています。

オペラという最大の武器を与えられているけれど、本当は愛する夫と子供に囲まれる一人の人間として生きたかったというのが何とも切ないですね…。

その後は失意の日々を過ごすようになり、かつての輝きはすっかり失せてしまったように思います。

そんな中で彼女自身、新たな道を模索すべく映画に出演したり、ショーに出演するなどしましたが、やはり彼女の本意とはかけ離れていたのかもしれません。

もしかしたら、彼女の人生は悲劇のヒロインをその如く演じきっていたのかもしれませんね…。しかし、内面からほとばしる歌唱と存在感はオペラ公演においては絶大で、その功績は途轍もなく大きかったことは言うまでもありません。

オペラ歌手のあり方を身を以て示してくれたマリア・カラスの名前は、これからも私たちの心に強く刻まれていくことでしょう。



 

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