ラモー《レ・ボレアド》とは?あらすじ・聴きどころ・おすすめ名盤|古楽で甦った幻の傑作オペラ

「バロック・オペラ」と聞くと、難解で堅苦しい音楽を想像する方もいるかもしれません。

しかし、ジャン=フィリップ・ラモーの《レ・ボレアド》を聴けば、その印象はきっと変わるでしょう。

小鳥のさえずりを思わせる軽やかな旋律、風や光を描くような色彩豊かな管弦楽、そして幻想的な物語――。そこには私たちが思い描く「古い音楽」のイメージを超えた、驚くほどみずみずしい世界が広がっています。

《レ・ボレアド》はラモー晩年の大作でありながら、生前には一度も上演されることなく約200年もの間忘れ去られていました。しかし20世紀後半、古楽器演奏の発展によって再発見されると、その革新性と美しさが高く評価され、現在ではラモー最高傑作の一つとみなされています。

この記事では、《レ・ボレアド》のあらすじや聴きどころ、なぜ傑作と呼ばれるのか、そしておすすめの名演まで分かりやすく解説します。

目次

ラモー《レ・ボレアド》とは?作品概要・基本情報

作品データ

項目内容
作品名《レ・ボレアド》(Les Boréades)
作曲者ジャン=フィリップ・ラモー
作曲年1763年頃
ジャンルトラジェディ・リリック(抒情悲劇)
台本ルイ・ド・カユザック
言語フランス語
構成全5幕
題材ギリシャ神話「アバリス伝説」
初演1964年(フランス国営放送による演奏会形式)
舞台初演1982年、エクス=アン=プロヴァンス音楽祭
演奏時間約2時間半〜3時間

作品解説

《レ・ボレアド》はラモーが80歳を目前にした晩年に完成させた最後の大規模オペラです。1763年に作曲されましたが、作曲者の生前には上演されることなく忘れ去られ、約200年後の20世紀になってようやく復活しました。

物語は、北風の神ボレアスの子孫との結婚を義務づけられた女王アルフィーズと、身分不明の青年アバリスとの恋を描いた幻想的な愛の物語です。愛、神々の介入、嵐、予言、魔法の矢など、バロック・オペラらしい壮大な要素が盛り込まれています。

あらすじ

バクトリアの女王アルフィーズは、出生不明のアバリスに恋をしていた。

彼女の国の伝統に従えば、アルフィーズは北風の神ボレの子のであるボリレかカリシスのどちらかと結婚しなければならない。

しかしアルフィーズは王位を退いてアバリスに愛の矢を授け、彼と結婚することを宣言する。このことにボレは猛烈に怒り、アルフィーズを幽閉し、地上を嵐で不毛の地にしてしまう。

アバリスはこのことに絶望し、「神に対して人間ごときが抗えるわけがない」と、自殺しようとするが、「その矢が秘密の力ですべてを解決に導くだろう」と大司祭アダマスに告げられる。

かくしてアバリスは愛の矢を手にアルフィーズを救い出す旅立ちをする。

なぜ《レ・ボレアド》は傑作なのか?

ラモー芸術の集大成だから

《レ・ボレアド》にはラモーが生涯をかけて培った作曲技法が惜しみなく注ぎ込まれています。

華やかな舞曲、透明感あふれる合唱、美しいアリア、色彩豊かな管弦楽法が高い次元で融合し、まさにラモー芸術の総決算ともいえる内容になっています。特に管弦楽の響きは驚くほど繊細で、後の古典派やロマン派を先取りしたような場面さえ見られます。

自然描写の美しさが圧倒的

ラモーの最大の魅力は自然を音楽で描く力にあります。

鳥のさえずり、風の流れ、光のきらめき、大気の透明感――そうした自然の表情が音楽の中で生き生きと描かれます。

《レ・ボレアド》ではその才能が極限まで発揮されており、聴いているだけで幻想的な世界へ誘われます。

バロック音楽の常識を超えている

この作品には従来のバロック・オペラの枠を超えた大胆さがあります。

和声の豊かさ、劇的なオーケストレーション、心理描写の深さは1763年の作品とは思えないほど先進的です。

クラシック愛好家の間でも「時代を先取りしすぎた作品」と評されることが少なくありません。実際、近年の愛好家の間でも《レ・ボレアド》はラモーの最も革新的な傑作の一つとして高く評価されています

ラモーの音楽は音の絵の具箱のよう

フランスバロックの巨匠、ラモーのオペラは1990年代以降、盛んにレコーディングされるようになりました。現在はその当時とは比べものにならないくらい多くの指揮者が上演のプログラムに組んだり、録音しています!

ラモーの最後のオペラ「レ・ボレアド」。

こんなに楽しくて生気にあふれた音楽は滅多にありません。理屈っぽさはどこにもなく、その音楽は雄弁で洗練された味わいでいっぱいです。

しかもしっとりとした哀愁も随所に感じさせるのです。

ラモーの音楽はまるで音の絵具箱のようです。あるときは透明なパステルカラーのようにさり気なく、また時にはかすれた水彩の滲みのように心に深く染み込んできます……その色合いは本当に変幻自在です。

そして、小鳥のさえずりや季節の香り、爽やかな空気の漂う様子が充実した和音の中で繰り広げられます。

ラモーは自然の情趣を気負い無く奏でるミューズの詩人なのかもしれません。その美しさはファンタジックでメルヘン的な要素を伴い絶品です。

古楽器演奏によって再評価された理由

注目の的、ラモーのオペラ

Rameau: Les Boréades / William Christie/Opéra National de Paris, Bonney, Agnew(2003)

今やバロックオペラの重要なレパートリーに数えられるラモーの作品ですが、1980年代までは芸術性の高さに比べ、正当な扱いを受けることがありませんでした。

とかくクラシック音楽と言えば、格調高く理路整然としてなければならないとか、高度な技法で圧倒することが傑作の条件であるかのように思われがちです。

けれども、あけっぴろげで純粋で見通しのいい音楽は一段下のものと思われることも少なくありません。そういう意味ではラモーは不遇な作曲家の部類に入るのかも知れませんね。

クラブサン(チェンバロ)曲に限ればバロック音楽の流れのひとつという意味で以前からレコーディングはされてきました。しかしオペラに関してはほとんど無視されるか、正当に採り上げられることはなかったのです。

ラモーのオペラに接すること(演奏面、演出面)は、手垢がついてない埋もれた宝の山を掘り当てるのに近い世界がありますね。

ラモーのオペラはアリアはもちろんのこと、合唱や変化に富んだダンスを含めた、様々な要素で魅力いっぱいの作品なのです。

後年のロマン派オペラに比べ、ストーリー性や心理的なドラマにはあまり目を向けてはいないものの、それを上回る抜群の雰囲気やファンタジーがあるのです。

古楽器演奏で魅力が再発見

ラモーのオペラが盛んにレコーディングされるようになったのは1980年代でした。奇しくもその時代はオリジナル楽器(古楽器)の演奏が市民権を獲得して、モダン楽器にはない透明な響きで魅了した時期と重なります。

既に様々な演奏で語り尽くされた感があった大作曲家の作品に比べると、ラモーの音楽は色彩豊かで響きが独特、繊細な感性に訴えます。

現代楽器で聴くモヤっとした感じやよそよそしさがなくなり、本来のメロディラインや響きが美しく蘇ったラモーのオペラを聴いて、「こんな音楽があったのか…」と驚かれる方は少なくないでしょう。

オペラとしての視覚的な要素を抜きにしても音だけでも充分に楽しい……。

では何故これほど魅力いっぱいのラモーのオペラが長年評価されなかったのでしょうか? 

それは前述のとおり、モダン楽器の演奏では響きが濁ってしまい、ハーモーニーが鈍重に聞こえてしまうからなのでしょう。

ラモーのオペラは古楽器演奏のアーティストたちによってはじめて魅力の扉が開かれ、陽の目を見るようになったといっても過言ではありません。

彼のオペラは無垢で優雅な表情が引き出されなければならないし、ハーモニーが透明でなければ魅力の大半が失われるといってもいいのです。

《レ・ボレアド》の聴きどころ

① 色彩豊かな序曲

冒頭の序曲からラモーの世界は全開です。

軽快なリズムと優雅な旋律が交錯し、これから始まる幻想的なドラマを鮮やかに予感させます。まるで色鮮やかな絵画の幕が開くような高揚感があります。

② 合唱の素晴らしさ

《レ・ボレアド》の魅力はアリアだけではありません。

「Chantez le Dieu qui nous éclaire」や「Parcourez la terre」などの合唱では、明るさと壮麗さが見事に融合しています。ラモーのオペラは合唱の扱いが極めて巧みで、ドラマを盛り上げる重要な役割を担っています。

③ ダンス音楽の楽しさ

ラモーは舞踏音楽の天才でもありました。

《レ・ボレアド》には数多くの舞曲が登場し、リズムの躍動感や優雅さで聴く人を魅了します。特に第四幕の「Entrée」は単独でも演奏される人気曲で、静かな瞑想性と美しさに満ちています。

④ 古楽器でこそ輝く透明な響き

現代では古楽器演奏によって本来の魅力が鮮明に伝わるようになりました。

弦楽器の軽やかさ、木管楽器の柔らかな音色、通奏低音のしなやかな動きが重なり、ラモー特有の色彩感が鮮やかによみがえります。そのため《レ・ボレアド》は古楽復興運動を象徴するオペラの一つとしても知られています。

なぜ《レ・ボレアド》は長い間初演されなかったのか?

Rameau: Les Boréades / William Christie/Opéra National de Paris, Bonney, Agnew(2003)

このレ・ボレアドは驚くべき傑作ですが、長い間不遇の歴史を味わってきました。《レ・ボレアド》最大の謎の一つが、「なぜ完成していたにもかかわらず上演されなかったのか」という点です。

実は現在でも決定的な理由は分かっていません。1763年にはパリ・オペラ座でリハーサルまで進んでいたことが確認されていますが、公演は突然中止されてしまいました。

有力な説としては次のようなものがあります。

音楽があまりに革新的だった

当時の演奏家や聴衆には難しすぎたという説です。《レ・ボレアド》は和声やオーケストレーションが非常に先進的で、従来のフランス・オペラの常識から外れていました。

宮廷や劇場内部の対立

18世紀フランスのオペラ界は政治や派閥争いと無縁ではありませんでした。

宮廷内部の対立や劇場関係者の意見の衝突が原因だったという説もあります。

台本の内容が問題視された

自由恋愛や身分制度への挑戦を描く物語が、当時の社会や権力者に好まれなかった可能性も指摘されています。

没後200年で初演が実現

ちなみに初上演の陽の目をみたのは、作曲から何と200年もの歳月が過ぎた「ラモーの没後200年記念事業」と銘打たれた、1964年のフランスのラジオ放送でした。

そしてレコード初録音はそれから更に18年後の1982年7月、エクス=アン=プロヴァンス音楽祭で、振付家キャサリン・トゥロシーとニューヨーク・バロック・ダンス・カンパニー、指揮のジョン・エリオット・ガーディナーが組んだ初の本格的な上演でした。

アリアの美しさ、透明感溢れるピュアなサウンド、立体的な音の構築等、至る所にみずみずしいデリカシーや美しい旋律が溢れています。

聴きどころ

序曲

軽妙洒脱でファンタジックな展開を予感させるオープニングの音楽。

第一幕・Rondeau Vif _La Troup Volage

朝の光を浴び、小鳥がさえずる中で、みずみずしい感動と喜びを歌う。

第一幕・Chantez le Dieu qui nous éclaire

「その光の輝きで、大地は神々を認めた」と、アポロンの神への讃美が力強く颯爽と合唱で歌われる。

第二幕・Espere tout de ce trait enchante

アバリスがアルフィーズに寄せる純粋で強い愛の想いを歌う合唱。

第四幕・Entree

アバリスはアルフィーズを失った悲しみに打ちのめされ、途方にくれるが、「愛の矢で救えるのはあなたしかいない」と大司祭アダマスに促される。内面を見つめるような平和で穏やか、ときに憂いに満ちた旋律は心に深く溶け込んでいく。

組曲として、また単独でよくとりあげられる音楽。

第四幕・Parcourez la terre

アバリスを励ますように、「地球を旅し、宇宙と空を渡り、海を渡り、雷の棲家へと飛べ!」と歌う合唱。豊かな愛情と息づかいが伝わる印象的な一篇。

オススメ演奏

ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団、スミス(sp)他

Les Boreades

演奏ではまず記念すべき世界初録音のガーディナー盤を筆頭にあげなければならないでしょう!

ガーディナーはラモーとの相性が抜群にいいようですね! この作品でも自由自在に曲を操り、ラモーの無垢でファンタジックな要素を見事に引き出しています。

とりわけ合唱とメリハリの利いた管弦楽が素晴らしく、ラモーが伝えたかった表情がセンス満点に表現されています。

クリスティ指揮パリ・オペラ座公演、レザール・フロリサン、ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス(ダンス)、バーバラ・ボニー(Sp)

ラモー:歌劇《レ・ボレアド》パリ・オペラ座2003 [DVD]

映像で素晴らしいのはカーセン演出、クリスティ指揮のパリ・オペラ座での2003年公演です。

とにかくカーセンの色彩豊かな舞台に息をのみます。そして隅々にまで神経が注がれた稀有なエンターテインメント性に驚かされます。

ボニー、アグニュー、ナウリらを揃えた歌手もベストマッチで夢のような舞台を盛り上げます。

踊り、歌、ドラマ、色彩のハーモニーの中で演じられる、時代を超えたエンターテインメントとして今後も語り継がれることになるのではないでしょうか。

ラモー《レ・ボレアド》はこんな人におすすめ

《レ・ボレアド》は次のような方に特におすすめです。

美しい古楽やバロック音楽が好きな人

透明感のある響きや優雅な舞曲、美しい合唱が数多く登場します。バッハやヘンデルが好きな方なら、ラモーならではの色彩感豊かな世界に魅了されるでしょう。

モーツァルトが好きな人

《レ・ボレアド》には自然な歌心や軽やかな喜び、幻想的な美しさがあります。人間味あふれるモーツァルトのオペラが好きな方にもおすすめです。

映画音楽やファンタジー作品が好きな人

風や光、嵐や神々の世界を描いた音楽は非常に映像的です。まるで壮大なファンタジー映画を観ているかのような気分を味わえます。

オペラ初心者

重厚な悲劇や複雑な心理劇よりも、明快な物語と豊かな雰囲気を楽しめる作品です。バロック・オペラ入門としても最適な一作といえるでしょう。

「まだ知られていない傑作」を探している人

有名な《カルメン》や《魔笛》とは異なり、《レ・ボレアド》は長く埋もれていた作品です。クラシックファンなら一度は触れておきたい“隠れた名作”です。

よくある質問(FAQ)

《レ・ボレアド》とはどんなオペラですか?

18世紀フランスの作曲家ラモーが晩年に作曲した全5幕のオペラです。神話を題材に、女王アルフィーズと青年アバリスの愛の物語が描かれます。

なぜ《レ・ボレアド》は有名なのですか?

ラモーの集大成ともいえる傑作でありながら、生前には上演されず約200年間忘れられていたためです。20世紀後半に再発見され、現在ではフランス・バロック・オペラの最高峰の一つと評価されています。

なぜ初演されなかったのですか?

正確な理由は現在も分かっていません。音楽が当時としては革新的すぎたことや、劇場・宮廷内部の事情、台本の内容などが原因として考えられています。

初めて聴くならどの録音がおすすめですか?

まずはジョン・エリオット・ガーディナー指揮による歴史的録音がおすすめです。作品の魅力が生き生きと表現されています。映像作品ならウィリアム・クリスティ指揮、ロベール・カーセン演出によるパリ・オペラ座公演も人気があります。

バロック・オペラ初心者でも楽しめますか?

十分に楽しめます。美しい旋律や華やかな舞曲、幻想的な雰囲気が魅力で、難解な知識がなくても音楽そのものの美しさを味わえます。

ラモーのオペラの中で最高傑作ですか?

評価は分かれますが、《イポリートとアリシー》《優雅なインドの国々》《カストールとポリュックス》と並び、ラモーの最高傑作の一つとして挙げられることが非常に多い作品です。

まとめ

ラモーの《レ・ボレアド》は、作曲者の生前には上演されることなく忘れ去られながらも、約200年後に再発見され、その真価が認められた奇跡のオペラです。

そこには優雅な舞曲、美しい合唱、幻想的な物語、そして自然の息吹を感じさせる色彩豊かな管弦楽が詰まっています。まさにラモー芸術の集大成と呼ぶにふさわしい作品でしょう。

特に古楽器演奏によって甦った透明感あふれる響きは、現代の私たちに新鮮な驚きと感動を与えてくれます。風がそよぎ、鳥がさえずり、光がきらめく――そんな情景が音楽の中に自然に息づいているのです。

ラモーの音楽は、しばしば「音の絵の具箱」とたとえられます。《レ・ボレアド》はその魅力が最も豊かに表れた作品の一つです。

もしバロック音楽は難しそうだと思っているなら、ぜひ一度《レ・ボレアド》に耳を傾けてみてください。そこには時代を超えて輝き続ける、自由でみずみずしい音楽の楽園が広がっています。

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