懐かしさとピュアなメロディ
ニューエイジミュージックが日本で注目された1980年代は、世の人々が環境問題に目を向け始めた時代でした。
また多くの人が、癒やしや潤いを本格的に求め始めた頃だったように思います。
さて、ニューエイジミュージックというと、「ああ、ムード音楽ね」ととらえる方も少なくないようです。
また作品の完成度がどうとか、芸術性云々と言われる方も中にはいらっしゃるかもしれません。
でもニューエイジミュージックが、ひとときの心地よさ、潤いの時間を与えてくれるとしたら、それはそれで充分ではありませんか……。
心地良い時間だけでなく、それが「輝く時間」「忘れられないひととき」となれば、どれほど素敵でしょうか……。
今回は1986年のデビュー以来、安定した創作活動を続けている西村由紀江さんをとりあげてみます。
人はときに「優しさに触れたくなる」、「夢のようなひとときを味わいたくなる」ものです。
西村さんはそのような言葉ではなかなか表現しにくい、美しい瞬間やイメージを音に留めるべく音楽活動を体現してきた数少ないアーティストのひとりです。
尽きないクリエイティブな感性
西村由紀江 Official Channel より
幼少の頃からピアノを始めた西村さんは、桐朋学園大学在学中に制作したアルバム「Angelique」(1986年)でデビューします。
その豊かな感性と音楽性はすぐに話題となり、1988年から読売テレビの「西村由紀江の日曜はピアノ気分」にレギュラー出演。
そして大ヒットしたテレビドラマ『101回目のプロポーズ』(1991年)の音楽でサントラがオリコン3位となる偉業を達成します。
デビュー後、次々に発売されたアルバム「Angelique」「Lyrisme」「Dolce」「Fashination」などはどれもこれも、彼女のみずみずしい感性や光る才能を感じたものでした。
話は少し逸れますが、おいしいと言われる料理メニューは料理人が食材の特徴に精通していて、それに見合った調理や味付けが施され、色彩のバランスや食べやすさなど、すべての条件が溶け合うことで絶品の料理として出来上がります。
何よりも食するお客様が満足し、心ゆくまで味わってもらいたいと思って作られるからこそ、誰からも愛され、評判となります。
西村さんの音楽もそれにちょっと似ているかもしれません……。 彼女の音楽の特徴の一つに、音の余韻にじっくり浸る感覚があります。
自分の内面を見つめたり、遠い過去の面影を回想したり、自然の息吹であったり、時間空間を超えた心のイメージであったり……。
誰でも体感するものの、言葉では表現出来ない、心に抱くイメージを音として抽出することにとても意味があるのです。聴く人の心を励まし、慰め、寄り添うように作られているからこそ魅力的なのです……。
これは彼女がデビューから徹底して意識し続けてきたことなのではないでしょうか。
西村さんの音楽は瞬間瞬間を輝きに満ちたひとときにしてくれます……。
心が弾むリズミカルなメロディで、気分を高めてくれたかと思えば……、おだやかで安らぎに満ちたメロディで心の琴線を震わせてくれたりもします。
すでに30枚を越えようかというアルバムの数も、彼女の活動がいかに充実しているかの現れでしょうし、これからの活躍にますます目が離せなくなりそうです………
オススメのアルバム
ビオトープ 2012年
Virgin 1995年
自身のオリジナリティをしっかりと残しつつ、より普遍的な美と個性を確立した時期の充実したアルバム。
Pure Water
森の佇まいを想わせるアコースティックな雰囲気の中で響くピアノの自然な音色が印象的。
すずしい風に吹かれながら
教会の鐘の音を想わせる透明感あふれるピアノの前奏が心をとらえる。
手紙
手紙の文面にしたためた切々たる想いが伝わってくるようなデリケートな音楽。
すき
回想なのか、それとも目を閉じてじっと自分の内面を見つめているのだろうか……。美しい祈りに満ちた音楽。
扉をあけよう 2003年
ピアノソロがすんなりと心に溶け込む素晴らしいアルバム。円熟と新鮮なイマジネーションが両立している。
扉をあけよう
リズミカルでスタイリッシュな冒頭のテーマが心をそそる!
あなたがいるから
清々しい空気の流れを想わせるナンバー。ふんわりした穏やかさが印象的。
すれ違う心
ナイーブで傷つきやすい心の機微を慰めるように音楽が流れる。
Best of Best ~20 songs 2006年
デビュー20周年を記念して発売されたベストアルバム。セレクトにあたり、少しずつアレンジが加えられている。
明日を信じて
音に込めた想いは強く、それは時を重ねるごとに確信に変わっていく……。勇気を持って踏み出すことを伝えたい……。アルバム「耳をすまして」より。
あなたに最高のしあわせを
あふれる想いをふんだんに詰めこんだバラード調の音楽。「Virgin」より。
やさしさ
タイトルどおりやさしさにあふれたナンバー。中間部は夢の中を彷徨うように音楽が揺らぎ、安らぎと癒やしのひとときとなる。アルバム「fashination」より。