前回は美術館で絵を見るときの準備や心構えをお伝えしましたが、今回は美術館を見てまわるときのいくつかのポイントについて、思いつくままに書いていきたいと思います。
同じ絵画鑑賞でも見る目的が変わると、得られる効果も変わってきますので、せっかくの鑑賞なら有効な時間にしたいですよね……。
展覧会の構成を把握する
まず最初におさえておきたいのが、見たい展覧会の出品傾向や構成をよく把握しておくことです。
あたりまえといえばあたりまえなのですが、まずはその展覧会がどのような意図で企画された展覧会なのかをよく知ることが大切ですね。
その一つとして、タイトルを鵜呑みにしてはいけません。
たとえば「ルノワールと印象派展」というタイトルの展覧会が開催されたとします。
「ルノワールの絵がたくさん見られる」と思って喜んで行ったら、目当てのルノワールの絵はたった4枚しかなかった…、ということはよくある話です。
それは主催者側と協賛のスポンサーが展覧会の集客を伸ばすために考えられたタイトルなので、致し方ないところはあるのですが……。
当然、展覧会の順路や各セクション、コーナー分けなどはイベントの趣旨やビジョンに基づいたレイアウトになっていることでしょう。
自分が想像していた展覧会のイメージと実際に見た展覧会の様子は大きく違っていたということは往々にしてあることなのです。
比較的間違いないのが国立西洋美術館の松方コレクションや、東京国立近代美術館のMOMAT コレクションのような美術館の常設展です。これらは企画の展覧会とは違い、あくまでも自分のペースでゆっくりと見られるメリットがあります。
非日常的な空間で何気なく絵と向き合う中で、本当の意味で疲れた心を癒やすひとときになるかもしれません……。
見る観点で絵の見方が変わる
展覧会は見る観点が変わると、絵の見方が大きく変わります。
どのような目的で見ようとも、一つだけ注意してほしいことがあります。
それは無理して全部の絵を見る必要がないということです。人間の集中力には限界がありますから……。
たとえば、あらかじめ見る絵が決まっているようであれば、ピンポイントでまわってみるのもいいでしょう。
「どのようなタッチで描かれていて、どのようなマチエールなのか」のように描き手の側で見る場合も目当ての絵を中心に見るのものいいかもしれません。
気にいった絵のみをじっくり堪能し、休憩をはさみながらもう一度見る(但し一度出たら再入場はできません)というのも一つの手でしょう。
それに対して、画家の人となり(特に個展)に関心がある場合は、各セクションの説明パネルを順を追って読むなど、イメージを膨らませながらまわるのもいいですね。
これから絵に親しみたいという場合や、絵の醍醐味を味わおうとするなら、一人の画家の作品で構成された展覧会のほうが絶対的にオススメです。
時代ごとのエピソードや画家がどのような心境で描いたのかということを肌で実感できれば、きっと絵も身近に感じられるようになるでしょう。
自分のペースでまわる
仮に注目の展覧会で入場者が多かったとしても、大勢の人の流れや歩調に合わせる必要はまったくありません。
とにかく自分のペースでじっくり見てください。
せっかく入場料を払って見に来ているわけですから、「せかせかして落ち着かなかった」ということになったら、とてももったいないことです。
列が出来てしまっていたら、一度その列から離れて、遠くから絵を眺めるように見るのも悪くないでしょう。
デッサンを描いたときにバランスを見る鉄則、「3メートル離れて見る」を実践するのも視点が変わっていいことだと思います。
美術館には基本的な順路がありますが、もちろんこのとおりに見ないといけないわけではありません。
展覧会のメインと言われる絵や、ポスターの絵柄になっている絵の周りは人混みが出来やすい傾向があります。
できれば自分の感性を頼りにポイントを絞って見るのもいいかもしれませんね。
適度に休憩
美術館で絵を鑑賞するのは大変な集中力が必要です。
それは絵というものが多かれ少なかれ、画家が相当な想いを込めて描いた作品だからです。
メッセージや情報量が多いため、それを受けとめるにはかなりのエネルギーを必要とするのです。
相性のいい画家の絵であれば、共感しながら気持ち良く見られるかもしれません。
でも自分の感性が受け入れられない絵だったり、感覚が真逆の絵だったら著しく疲れる可能性もあります。そのように一筋縄ではいかないのが、絵画鑑賞の難しいところなのです。
ですから、絵を見続けるとクタクタに疲れてしまうというのは容易に考えられることです。
大抵の美術館には各セクションやコーナーごとにソファが置いてあります。ちょっと疲れたと思ったら無理しないで休むようにしましょう。
印象に残った絵の記録をメモ
美術館でメモをとることは必須条件です。
なぜなら生の作品に触れて、画家の息づかいを味わう体験は貴重だし、その場限りの記憶で終わらせてしまうのはあまりにももったいないからです。
その時に受けた感動やインスピレーションを書き留めておくことで、「感じたことを自分の言葉で表現する、自分の考えをまとめる」という大切な習慣を身につけることになります。
このような習慣は後々、あなたにとって血となり肉となり、あらゆる機会で役立つことになるのです。そういう意味で美術館めぐりは、うってつけです。
難しく考える必要はありません。最初はサラッとで構わないと思います。
メモに残すべき内容としては、次のようなものが挙げられます。
メモに残すべき内容
- 美術館を訪れた日
- 展覧会タイトル
- 感動した絵のタイトル
- 絵のイメージまたは写真
- 感動ポイント
- 気づいたこと
もちろん、「思っていたイメージと違っていた」とか、「館内の空調がよくなかった」とか、気になることも随時記録しておいたほうがいいでしょう。
自分だけの美術館情報をつくる
あなたオリジナルの美術館情報をつくるのもオススメです。
多くの人に向けた市販の美術館情報ではなく、あなた仕様にカスタマイズされた美術館情報だからこそ意味があり、価値があるのです。
たとえば、あなたの家から美術館までの交通アクセス方法や、曜日や時間ごとの混雑状況をメモしておくのはもちろんのこと、周囲の雰囲気、近隣の休憩スポットなども詳細に調べておくとよいでしょう。
様々な鑑賞体験や情報収集で、美術館への距離はグッと縮まるかもしれません。